第125話 第二次ウェルガリア大戦勃発!

 

 闘気オーラの流れも自然で、動きにまるで無駄がない。

 だが攻める時には一気に攻めて相手を切り捨てる。

 これが歴戦の魔剣士の実力なのか。 

 俺は思わず「ごくり」と喉を鳴らした。


 この凄まじい光景には、魔王軍だけでなく味方も圧倒された。

 だが惨劇を起こした張本人であるアイザックは表情一つ変えず、前へ進んだ。

 その雰囲気に圧倒されて、魔王軍の兵士達も驚き戸惑う。

 流れがこちらに傾きつつある。 ならばここで攻勢に出るべきだ。


「メイリンッ! 強烈な光属性の攻撃魔法を撃つんだ!」


「任せなさいっ! 我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ! ――喰らいなさいっ! ……『ライトニング・ダスト!!』」


 そう呪文を紡ぐと、メイリンの杖の先端の魔石に眩い光の波動が生じた。

 そしてメイリンは両手杖を握った両腕を大きく引き絞った。

 次の瞬間、魔石から迸った光の波動が流星のような速度で魔王軍に迫った。

 そして次の瞬間、どおおおん、という轟音を立てながら、放たれた光の波動が、敵の集団を呑み込んだ。 


 球形に膨れ上がった光の波動が、たちまち激しい爆発を引き起こす。 

 それと同時に魔王軍の兵士達が激しく吹っ飛んだ。


「今だっ! 魔法部隊! 魔法攻撃で追撃せよっ!」


「了解!」


 アイザックの指示に従い、両手杖で地面に魔法陣を描く魔法部隊。

 そして魔法陣の上に乗り、魔力を解放して、呪文を詠唱し始めた。


「行けるか?」


「行けます! さあ、一斉攻撃だっ!」


 魔法部隊のリーダらしき壮年のヒューマンがそう叫ぶなり、後衛の魔法部隊が一斉に魔法を放った。 火炎属性の後に風属性を撃ち、魔力反応『熱風』を発生させたと思うと、火炎属性に魔族の弱点属性である光属性を合わせる魔法部隊。


 魔力反応『核熱』が生じて、前線の魔王軍の兵士達が火炙り状態になる。

 激しい魔法攻撃に流石の魔王軍も右往左往する。

 

「敵が怯んでいるぞ。 この機会を逃すな! 突撃開始っ!!」


「おおっ!!」


 この好機を逃すまいと、アイザックが高らかにそう号令を下した。

 すると二列目から竜人族の傭兵達が飛び出した。


「さあ、お前等稼ぎの時間だぜ! 遠慮なくぶっ殺せ!」


 そう言ったのは、『竜のいかずち』の副団長バルミール・ボバンだ。

 薄く輝いた真鍮の鎧で全身を覆った上級職・狂戦士ベルセルクのボバンが背中から白刃の大剣を抜剣して、魔王軍目掛けて突貫する。 栗色の髪を翻し、雄叫びをあげながら大剣を振るう狂戦士きょうせんし。 その後に続くように、竜人族の傭兵部隊が疾風怒涛の進撃を繰り返し、手にした武具で魔王軍の兵士達を容赦なく切り捨てた。


「つ、強い! 流石は竜人族の傭兵部隊だぜ」


 俺は思わずそう呟いた。


「ラサミス、感心してる場合じゃないぞ。 俺達も後に続くぞ!」


「そうよ、ラサミス。 私とライルさんが飛び込むから、アンタは私達が討ち漏らした敵に確実に止めをさして!」


「わ、分かった!」


 兄貴とミネルバの言う通りだな。

 ここに『暁の大地』の存在を周囲にアピールしなくてはな。

 俺は全身に光の闘気オーラを纏い、兄貴とミネルバの後に続いた。


 アスラ平原は、瞬く間に硬質な金属音と悲鳴の渦に飲み込まれた。

 最前線では激しい白兵戦が繰り広げられ、急速に死体の山々が築かれていく。

 アイザックが指揮する傭兵部隊は、闘志に満ちた疾風怒涛の進撃を繰り返し、地面や草木に鮮血を飛び散らせた。 

 

 兄貴とミネルバも猛然と敵に向かって突進し、手にした武器を存分に振り回した。

 同胞の血煙をあびて、ひるまず突貫してくる魔王軍の兵士を、ミネルバが斧槍ハールバードの柄で一撃して横転させる。 そこから薪割りと同じ要領で、地面に倒れた魔族の頭に、斧頭を振り下ろし、頭部を破壊した。


「ほう、やるじゃねえか。 流石、元族長の娘だぜ! しかし遠路はるばる遠征してきて、この様とは哀れをもよおすねえ。 悪い事は言わねえ。 もう一度あの薄暗い大陸の中に引き篭もった方が身の為だぜ?」


 と、バルミール・ボバンが煽るように叫んだ。

 その挑発に乗るかの如く、複数の足音がボバン目掛けて急接近して来る。

 その瞬間、遠方から矢の雨が降り、魔王軍の兵士達の体に突き刺さる。

 

「へっ! 戦場ではよく周囲に目を配れよ?

 それが生き残る秘訣だぜ? 魔族の皆さんっ!」


 ボバンの策にまんまと嵌り、少し戸惑う魔王軍。

 その間隙を突くように正面から、アイザック率いる傭兵部隊がその剣技をいかんなく披露して無秩序に魔王軍の兵達を切り捨てていく。 無数の軍靴が地面を蹴りつけ、白兵戦技術の粋をつくして、手にした武器で敵兵の肉体を破壊する。


 アイザックの漆黒の長剣が妖しく光り、次々と敵兵を切り捨てる。

 復讐心に燃え滾った魔王軍も同胞の仇を討たんと力ある限り戦い続ける。

 アスラ平原の至るところに築き上げられた死体の山々。


 長年、停滞感と倦怠感が渦巻いていたウェルガリアの大地が、僅かに揺れ動き始めた。 ウェルガリア暦1601年八月八日。 六百年の歳月を経て、四大種族と魔族が再び全面戦争に突入した。 「魔王軍万歳!」と叫び声をあげて息絶える名もなき魔族の兵士。


 国家と愛する者達を守る為に戦うそれぞれの種族の兵士達。

 ただ金の為だけに戦う傭兵や冒険者。

 それぞれ立場も違い、思想、思惑の違いは様々であった。


 信じてやまない正義を持つ者。 愛国心や同族の為に戦う者。

 ただ金の為に戦う者。 闘争本能と破壊衝動のままに戦う者。

 この戦場においても、やはり全てに置いて公平とは言えなかった。

 だが時だけは等しく公平に無情に流れていった。


 こうして後に『第二次ウェルガリア大戦』と呼ばれるウェルガリア全土を

 巻きこんだ戦いが、幕を開けようとしていた。

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