第二十五章 魔族との激闘
第124話 完全なる処刑
敵、敵、敵。 見渡す限り周囲には敵だらけ。
魔王軍は基本的に魔族なる人型の種族が主力だが、ガーゴイル、オーガ、トロル、ゴブリン、コボルド、リザードマン、
俺達が属する右翼部隊は敵の左翼部隊と激しく衝突した。
敵の陣形はこちらと同じく左翼、中央に本陣、右翼の三陣一列横隊に展開した。
敵も一千は超える大部隊。
故にこちらと同様に策を弄さず、真っ向正面から戦いを挑んで来た。
俺達は八人で一組になり、前衛にブレードマスターの兄貴、
中衛には守りの要の
後衛に火力のある魔法使いのメイリン、
基本的に魔王軍は漆黒の鎧、
俺は両拳に炎の
「八、九、十……ミネルバ。 とりあえず雑魚から片付けようぜ!」
「了解よ、ラサミス! せいやあああっ!!」
そう気勢を上げながら、漆黒の
瞬く間にゴブリンやコボルドが斬り捨てられていく。
流石は上級職の
こういう場合は本当に頼りになるぜ。
「――ファルコン・スラッシュ!」
兄貴がそう技名を叫んで、手にした白銀の長剣を振るった。
「ウ、ウギャアアアアアアッ!!」
断末魔を上げる漆黒の軽鎧を着込んだゴブリン。
兄貴は更に『ファルコン・スラッシュ』を連発して、次々と敵を切り捨てた。
そう、俺達にはもう一人、上級職の兄貴が居るのだ。
その兄貴の実力は今更言う必要がない。
ブレード・マスターの名に恥じない剣術で戦場の敵を一網打尽にする。
「ひゅう、やるじゃん。 流石はライルさん」と口笛を鳴らすミネルバ。
「皆、凄い! なら私も頑張るわ! えいっ!」
そう言いながら、後衛のマリベーレが両手で持った銀色の魔法銃の銃口を空に向けた。
そして魔法銃の引き金を引き、銃弾を発砲。
だが彼女の放った銃弾は只の銃弾ではない。
属性効果を持った
そして放たれた属性弾は、俺達の頭上で弾けて、周囲が緋色の
「とりあえずオーソドックスに、火炎属性で
と、このようにマリベーレは味方に
良いタイミングで
だが自分の仕事を奪われたドラガンだけはやや不機嫌だった。
「助かるぜ、マリベーレ。 よし、ミネルバ。 一気に敵を蹴散らすぞ!」
「了解よ、ラサミス」と、ミネルバ。
俺とミネルバは敵に目掛けて突貫して、ひたすら眼前の敵を蹴散らす。
炎の
そこで気を良くした俺は調子に乗って、更に前線に進んだ。
だが俺の死角を突いて、背後から蛮刀を持ったリザードマンが襲ってきた。
ばしゅんっ!!
という銃声と共にリザードマンのうなじにマリベーレの合成弾が命中。
「注意一秒、怪我一生……だよ、ラサミスお兄ちゃん!」
などと俺はマリベーレに
やれやれ、少しばかり調子に乗りすぎたな。
だが見た目は美少女だが、マリベーレは実際役に立つ。
俺とミネルバに迫ろうとする敵兵を次々と狙撃して、的確に急所を撃ち抜いた。
まるでベテランの
やや怯み始めるゴブリンやコボルド達。
だが闘争本能と復讐心を煽られた一人の魔族が、仲間を押しのけ前に出た。
褐色の肌の漆黒の戦斧と鎧を着込んだ体格の良い魔族だ。
「ほう、意外とやるじゃねえか。 六百年経って少しは強くなったようだな。 だがこれが俺達の実力と思うなよ。 ここからはこのガスコール様が相手だ」
ん? こいつ、今ヒューマン言語で喋ったな?
魔王軍はもしかしてヒューマン言語を習得してるのか?
それはさておき、眼前の魔族は見るからに強そうな雰囲気がある。
戦斧相手に徒手空拳では少し辛いが、ここで逃げる訳にはいかない。
と、前に出ようとした時、後ろから誰かに左肩を掴まれた。
振り返ると、そこには竜人族の傭兵隊長アイザックが立っていた。
「ここは俺に任せてもらう。 いいな?」
「……了解ッス」
本当は断りたかったが、この男の雰囲気に呑まれてしまった。
身長185前後。 鍛え抜かれた無駄のない筋肉に漆黒の鎧を纏っており、全身から放たれる殺気に、俺だけでなく周囲の者も息を呑んだ。
そういえばあいつも魔剣士だったな。
だが実力で言えば、アイザックの方がマルクスより強いだろう。
俺も少しは強くなったから、何となくそれが分かった。
傭兵隊長アイザックは、前に出るなり、右手に持った黒光りする一メーレル(約一メートル)を越す漆黒の長剣を前方へ突き刺した。
「俺の名はアイザック・レビンスキー。 『竜の
「へへへっ……いいね、お前。 俺そういうの好きよ? 四大種族の連合軍なんてカスの集まりと思っていたが、貴様のような男が居たとはな……こちらとしても殺り甲斐があるぜッ! 我が名は魔王軍百人長ガスコール! 勝負だ、傭兵アイザックッ!」
そうヒューマン言語で言葉を交わし、兜のバイザーを閉じて、ジリジリと間合いを詰めるガスコール。 そしてお互いの距離が詰まったところで突貫して、豪快に漆黒の戦斧と漆黒の長剣が激突し、火花が飛び散る。
破壊力に満ちた斬撃を繰り返すも、力で圧倒される傭兵アイザック。
身長185、体重80キール(約80キロ)はありそうなアイザックに対して、相手はゆうに190、体重90キール(約90キロ)は越える鋼の肉体。
単純な体格差からすれば、アイザックが力負けするのも当然。
だが歴戦の傭兵隊長は、戦い方を心得ていた。
この場でも分の悪い力比べをすることもなく、あくまで自分の戦闘スタイルを貫いた。
「さっきまでの威勢はどうしたんだ?
がっかりさせやがって……所詮こんなものか!」
「力任せに戦うだけが、戦闘ではない……」
「もういいよ。 お前に飽きたから、さっさと死んでもらうぜ!」
巨漢の魔族は、アイザック目掛けて突進して、戦斧を頭上に振り下ろす。
軽快な足さばきで躱すアイザックだが、相手も強引な攻めを続ける。
一見して無秩序な攻撃だが、空を切る風圧だけで、兜からはみ出たアイザックの蜂蜜色の髪がなびく。
だがアイザックは冷静だった。
無駄な動きは一切せず、紙一重で相手の攻撃を躱し、常に一定の距離を保つ。
相手が徐々に疲労の色を見せたところで、待ちかねていたように一気に攻勢に出る。
戦斧と長剣が再び激しく交錯する。
体力を消耗していたが相手も勇猛な魔族。
果敢に防戦するがアイザックの放怒涛の打ち込みは、苛烈を極めていた。
打ち返すどころか、受け止めるだけで精一杯な巨漢の魔族は後退するしかなかった。
「な、舐めんじゃねえ!」
巨漢の魔族ガスコールは、雄叫びをあげ捨て身の玉砕戦法に出てきた。
漆黒の傭兵隊長はこの瞬間を待っていたと言わんばかりに、軽く後方に跳躍して、身を屈めながら突貫してくる魔族目掛けて、全身の力を込めた一撃を放った。
「喰らえ、ファルコン・スラッシュ!」
振り上げた戦斧が振り下ろされる前に、漆黒の長剣が甲冑の脇腹付近に命中して亀裂が走った。 そこから今度は戦斧を持った右手首に漆黒の長剣を叩き込んだ。 骨を断つには至らなかったが、装甲と皮膚を切り裂くには、充分な一撃であった。
魔族ガスコールの両手から手放された漆黒の戦斧が、地面に重くのしかかり周囲に鈍い音を響かせた。
「ぐっ……うあああっ……い、いでえっっ!!」
ガスコールは、たまらず手首をおさえ込み激痛に耐えたが、その網膜には全身黒づくめの傭兵の姿が映る。
「ちょっと……待て! わ、分かった。 お前の勝ちだ」
「これは勝負事ではない。 殺し合いだ」
漆黒の傭兵は、脅え気味に後ずさりする魔族に対して、それだけ告げて、一切の慈悲をかけなかった。
「貴様も魔族なら戦って死ね! 終わりだ、パワフル・スマッシュ!」
両手でしっかりと握り締めた漆黒の長剣を振り上げ、狙いをさだめると、魔族の頭部目掛けて、漆黒の鉄塊を打ち下ろす。 兜に亀裂が走り、叩き割られ破片が周囲に飛散して、保護されていた頭部もろとも完全に破壊された。
皮膚と肉を一瞬で切り裂き、頭蓋骨を打ち砕き、完全なる処刑が傭兵隊長アイザックの手によって執行された。
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