第二十四章 円卓会議

第120話 円卓会議(前編)


「卿らの到着を待ちわびていたぞ。 冒険者ドラガンとその仲間達よ」


 眼前に立つ黒いタキシードを着たシャム猫の大臣が鷹揚にそう告げた。

 俺達は前一列にドラガンと兄貴が並び、その後ろに俺とミネルバが横に並んで、深々と頭を下げた。

 

 場所はニャンドランド城の三階にある玉座の間。

 これで何度目の謁見だろうか? この場の光景にも随分と慣れた気がする。

 奥にある玉座には、金の王冠を被った豪奢な赤いガウンを羽織った初老のコラットの猫族ニャーマンが座っている。 彼こそが猫族ニャーマンの国王ガリウス三世だ。 そして国王の左隣に山猫騎士団オセロット・ナイツの騎士団長レビンが、右隣には副団長のケビンが国王を護るように、背筋を伸ばして立っていた。


「久しぶりだニャン。 ドラガンよ、元気にしてたニャン?」


「ええ、陛下もお元気そうで何よりです」


 この王様、相変わらずだな。

 緊張感の欠片もねえよ。 まあもう慣れたけどな。


「うむ。 だがこれからは少し色々と厳しくなりそうだニャン。 だからドラガン、そしてその仲間達よ。 ちんに力を貸して欲しいニャン」


「はっ! 何なりとお申し付けください」と、ドラガン。


「まあ卿らもある程度の事情は察しているだろうが、大臣! 卿の口からきちんと説明するだニャン!」


「はっ! では詳しい事を説明する! 実は――」



 大臣の話を簡潔にまとめるとこうだ。

 どうやら暗黒大陸の封印が解けて、魔族が復活したらしい。

 そして魔族は大軍を率いて、エルフ領に攻め込みエルドリア城の占拠に成功。

 その情報は既に猫族ニャーマンだけでなく、ヒューマン、竜人族。

 そして穏健派のエルフ達の耳にも入っており、このニャンドランド城で四大種族の代表を交えた会議をしたいという話だ。


 どうやら噂は本当だったらしいな。

 既にヒューマン、竜人族、穏健派のエルフ族の代表がこのニャンドランド城に向かっており、全種族が集まり次第、今後について話し合いたいとの事。

 

 このニャンドランド城に四大種族の代表が集結するのは、第一次ウェルガリア大戦後の不可侵条約を締結した時、以来との話。 年月にするとどれくらいだ。 それこそ数百年ぶりか? これだけでいかに重大な出来事だか分かる。


 まあ猫族ニャーマンを除いた三種族がニャンドランド城を会議の場に指定したのは、お互いを牽制する事に加え、猫族ニャーマンなら彼等の要求にすんなりと従うといった政治的意向もあるだろう。 とは言え、猫族ニャーマンも只のお人好しや馬鹿ではない。


 俺達――『暁の大地』をこの場に呼んだ理由も察しがつく。

 俺達は猫族ニャーマンだけでなく、ヒューマン王室ともコネクションがあり、穏健派のエルフにも顔が利く。 唯一折り合いが悪いのは竜人族くらいだ。 会議の席で俺達を同席させれば、竜人族以外の種族とは比較的話がまとまりやすい、という狙いもあるだろう。


「卿らは我々、猫族ニャーマンだけでなく、ヒューマン王室とも穏健派のエルフ族とも懇意しているから、会議の場に同席して貰えると助かる。 とりあえず猫族ニャーマンの代表は私とレビン団長とケビン副団長が務める」


「それが宜しいでしょうな。 我々の内から同席するのは、何名でしょうか?」


 と、ドラガン。


「今この場にいる四人全員でお願いしたい」


「……よろしいのでしょうか?」と、そう問うドラガン。


「ああ、ヒューマンの代表に卿らとも懇意している伯爵夫人が名を連ねている。 穏健派のエルフ族は彼等の首領である巫女ミリアムが幹部を連れて、直々に来るとの事。 竜人族の代表は現族長とその息子に加えて、傭兵隊長が来ると伝えておる。 これらの状況を踏まえたら、卿ら全員が会議の場に居る事が好ましい」


 ふうん。 やはりその辺も考慮しての話か。

 まあヒューマンの王国騎士団長とは面識はないが、伯爵夫人は多分ヴァンフレア伯爵夫人の事だろう。

 

 穏健派のエルフ族は巫女ミリアムが直々出向いてくるのか。

 まあ彼等の立場からすれば、エルドリア城が陥落した今、魔族の次の攻撃対象に成り得る可能性が高いからな。 マリベーレの関係もあるし、彼女等とは上手くやれるだろう。


 問題は竜人族だ。

 現族長とその息子とは多分あのアーガスとその父親であろう。

 ミネルバの絡みもあって、彼等とは折り合いが悪い。

 それを見越した上で彼等も傭兵隊長を同行させたのであろう。


 竜人族の主要産業の一つが傭兵稼業である。

 肉体的には四大種族で一番優れているのが竜人族だ。

 竜人族で構成された傭兵部隊は、かなりの猛者揃いとの噂だ。

 近年では種族間での大きな戦争はなかったが、一部の地域で小競り合いや紛争はいくつかあった。


 そういう場に必ず居るのが、竜人族で構成された傭兵部隊だ。

 竜人族の傭兵は基本的に竜騎士ドラグーンになれなかった者がなるが、例外もある。 竜騎士ドラグーンの資格を有しながらも、傭兵稼業を順ずる者も少数であるが、存在するらしい。

 

 そういう事情もあり竜人族の傭兵のレベルは非常に高い。

 だがもし竜人族の名立たる傭兵団の力を借りられたら、非常に心強い。

 しかし相手はあのアーガスとその父親。 奴等に善意を期待してはいけない。

 もし傭兵団の派遣を了承したとしても、必ずその対価を求めるだろう。

 やれやれ、これは胃が痛くなりそうな会議になりそうだぜ。


「各種族の代表がニャンドラン城に到着するまで、数日はかかるであろう。 その間、我々と卿らで話し合いを進めて、我々、猫族ニャーマンにとって少しでも有利な立場を勝ち取りたいと思う」


 まあ大臣としては当然その辺も考えるだろうな。

 しかし俺達はどのような立ち位置に立つかで、連合ユニオンの今後の命運が決まりかねない。 こりゃ、マジで重要だぜ。


「ええ、微力を尽くします」


「ああ、大いに期待しているぞ。 それでは今から客間に案内するから、旅の疲れを癒すと良い」


 そして俺達は執事長の初老のソマリの猫族ニャーマンに案内されて、客間に通された。 大聖林の戦いの時に用意された客間と同じだ。 とりあえず俺とドラガンと兄貴、唯一の女性であるミネルバがアイラ達の合流を待つという形で、しばらくの間、隣の客間に一人で寝泊りする。 


 とりあえず俺達はラフな格好になり、兄貴、ドラガン、俺の順番で部屋に備え付けのシャワーボックスで汗を流しから、早めに就寝した。

 

 二日後。

 馬車で移動していたアイラ達と無事合流を果たす。

 その半日後に、ヒューマンの王国騎士団長と副団長が赤いドレスに身を包んだヴァンフレア伯爵夫人を連れて、ニャンドランド城に入城。


 更に二日後に巫女ミリアムとその従者、ナース隊長が到着。

 竜人族の代表はその翌日に到着。 

 予想していた通り竜人族の現族長アルガスとその息子アーガスは、竜人族のみで構成された傭兵団『竜のいかずち』の傭兵隊長を引き連れて参上。


 これで各種族の代表がこのニャンドランド城に集結。

 そして二日後にこの四大種族の代表で会議が行われる。

 会議の形式は円卓会議。 


 この会議の結果次第では、この世界――ウェルガリアの歴史が大きく変る。

 こりゃ迂闊な発言は出来ないな。 やべえ、緊張で胃が痛くなってきた。

 会議に同席するドラガンや兄貴、ミネルバもいつになく真剣な表情だ。

 

 そうした緊張感の中で俺達は当日を迎え、ニャンドランド城の会議室で、四大種族による円卓会議が始まろうとしていた。

 

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