第107話 新たな仲間
「皆さん、ご苦労様でした」
巫女ミリアムは小さく頭を下げて、俺達を労うようにそう言った。
俺達はネイティブ・ガーディアンの本拠地である三階建ての館の一階の大広間に集まり、巫女ミリアムの前に座っている。
「今回文明派の侵攻を食い止められたのも、ひとえに皆さんのおかげです。 特に
「いえいえ、我々は国王の命令に従っただけです」
「そのとおりです。 お気になさらずに」
と、返すレビン団長とドラガン。
まあ模範的な回答だよな。
どういう形であれ、一応は目的は果たせたわけだからな。
「もちろんただ感謝の意を述べるだけではありません。
お?
わかってるじゃねえか、ミリアムさん、よう~。
礼なんてどうでもいいんだよ。
俺達も慈善事業で助太刀したわけじゃないからな。
やはりそれ相応の謝礼は、支払って欲しいぜ。
レビン団長がケビン副団長と視線を交わす。
すると二人は無言で頷いて――
「我々は謝礼など要りません。 我々はあくまで我等、
また何かあれば、申してください。 必ず駆けつけますので!」
「……はい。 我々も今後とも貴方方、
「「ははっ!!」」
巫女ミリアムの言葉にレビン団長とケビン副団長が大きく頷いた。
まあ国家間の関係を考えたら、レビン団長達の判断は賢明かもしれない。
だが俺達、
だから貰えるものは、きちんと貰うべきだ。
「『暁の大地』の皆様方は何かご所望するものはありますか?」
「そうですねえ。 う~ん……」
巫女ミリアムの問いに、考え込むドラガン。
この場合は実際何を貰うべきなんだろう?
報奨金は無難な落としどころだが、ここ半年余りで金は、結構稼いだからなあ。
冒険者ランクも皆、結構上がったしなあ。
強いてあげれば、
「実は我々は今回の遠征に参加する前に、ヒューマンの国王陛下と謁見したのですが……」
このドラガンの言葉に巫女ミリアムが一瞬表情を強張らせた。
だが次の瞬間には、また柔和な表情に戻り――
「……そうですか? それでヒューマンの国王は何と申したのですか?」
「彼等は今回の任務が成功した暁には、貴方方、穏健派が有する古代文明の技術や知識に関する
有益な情報を得る事を望んでおりました」と、ドラガン。
「なる程。 ヒューマンの王らしいやり口ですね」
やや険のある声で応じる巫女ミリアム。
まあ彼女からしたら、ヒューマンを嫌うのも無理はない。
だが俺達には俺達の立場がある。 故にここは引くべきではない。
「まあそれらの情報は、国家の機密に関わるものなので、我々としても、無理強いする事は出来ませんが、ヒューマンの国王の手前、手ぶらで帰るという訳にもいきませぬ」
お? ドラガンが軽く揺さぶりをかけているな。
でも確かにヒューマンの国王や伯爵夫人の事を考えたら、何の成果もなしに帰るという訳にはいかないよな。
連中の事はあまり好きじゃないが、俺達の
「そうですね。 私としても我々が有する情報を安易に他国に渡すというのは、立場上無理な話ですわ。 でも貴方達の働きには報いたいけど、ヒューマンに必要以上の情報は開示したくないわ」
まあ穏健派としては、それが本音だろう。
実際のところ、ヒューマンの国王や宰相もさして俺達に期待してないだろう。
一応言ってみた、みたいな感じと思うな。 ……多分。
「それは無理もない話です」と、淡々と応じるドラガン。
「ですが貴方達に免じて、我々も少し譲歩する事にします。 残念ながら古代文明に関する情報の開示は出来ません。 ただ一般的な銃火器に関してなら、少しくらいなら情報を開示して構いません。 聞くところによるとヒューマン領では、一般的な銃火器の購入も困難らしいので、これを機に我々とヒューマンで銃火器の交易をするのも悪くないですね」
ほうほう、見た目は綺麗だがやはり一勢力のボスだけの事はある。
公開したくない情報も未開示のまま、でもそれなりに需要があるであろう一般の銃火器の情報開示、及び交易を即座に思いつくあたりは、流石と云うべきか。
ドラガンが兄貴やアイラと視線を交わす。
三人はお互い言葉を発さず、無言で頷き合った。
「そうですね。 我々としては、それで充分であります。 さすればヒューマンの国王にも面目も立ちますし、貴方方、穏健派とも今後も平和的に付き合う事ができます」
「ありがとう。 ならこの私自らが、ヒューマンの国王に向けて、書状を書くわ。 なんなら私の使者をヒューマン領まで派遣しても構いませんわ」
「ならば我々はその折衝役を務めますよ」
「ええ、そうしてもらえると助かるわ」
「いえいえ」
とりあえずこれで国王や伯爵夫人に対して、最低限の面目は立ちそうだな。
これ以上望んでも成果はないだろうから、この辺が手の打ちどころか。
しかしこれはあくまでヒューマンと穏健派の問題だよな?
俺達、
「それとは別に貴方方、『暁の大地』に対する謝礼をお支払いしたいと思います。 ――マリベーレッ!!」
「は、はいっ!?」
急に名前を呼ばれて、やや驚いた様子のマリベーレ。
だが直に我に返り、巫女ミリアムの前で跪いた。
「……なんでしょうか、ミリアム様」
「そう畏まる必要はないわ。 マリベーレ。 貴方はこの大聖林でずっと育って、外の世界を知らないわね?」
「……はい」
「どう、彼等と共に外の世界で暮してみない?」
「……? どういう意味でしょうか?」
「そう難しく考える必要はないわ。 この大聖林では貴方と同じくらいの子供は少ないわ。 だから彼等と共に行動して、見聞を広めるのも悪くないわ」
「……し、しかしそんな事は他の者の手前……」
「それは問題ないわ。 我々としても、貴方が外の世界で見聞なり、人脈を広めてもらうのは、良い話なのよ」
「……私はもう必要ないのでしょうか?」
やや表情を曇らせるマリベーレ。
だがそんな彼女を諭すように、巫女ミリアムは優しく語りかけた。
「そんなわけないでしょ? 貴方はこれまでよく働いてくれたわ。 でも貴方はまだ十一歳という若さ。 このまま大聖林で縛られて生きるのは勿体ないわ。 外の世界に出て、色んな種族や文化と交われば、それは貴方自身の成長に繋がるし、長い目で見れば、我々穏健派の為にもなるわ」
「……」
「貴方、自身はどうなの? 外の世界に興味はあるの?」
「……あります」
「そう、なら後は一歩踏み出す勇気だけね」
「……勇気ですか?」
マリベーレの言葉に巫女ミリアムは鷹揚に頷いた。
「そうよ。 自分を変えるには、何か行動しなくてはいけないわ。 誰しも新たな環境に不安は抱くもの。 でもそれを乗り越えなければ、新しい発見や人との出会いは生まれない。 だから勇気が必要なの。 どう、マリベーレ? 貴方にはその勇気があるかしら?」
ミリアムの問いにしばらく黙考するマリベーレ。
そして彼女は決意を固めた表情でこう答えた。
「はい、私もこの眼で外の世界を見てみたいと思います」
「わかったわ。 巫女ミリアムの名においてここに命じます。 マリベーレ・シーザーアレスがこの大聖林から離れる事を許可します」
「はい!」と、大きな声で返事するマリベーレ。
するとミリアムは俺達の方向に視線を向けた。
「そういうわけで貴方方、『暁の大地』にマリベーレを預けたいと思っているのですが、よろしいでしょうか?」
ミリアムの言葉にドラガンはしばらく考え込むような仕草をする。
まあ俺個人としては、彼女の入団は大歓迎なんだが、これは政治的な問題でもあるから、即答はしにくいよな。
恐らくマリベーレは、俺達『暁の大地』と穏健派を繋ぐ出向者として、『暁の大地』の入団を許されたのだろう。 嫌な言い方をすれば、ミリアムはマリベーレに色々探らすつもりであろう。
俺達はこう見えて
ミリアムとしては、その辺りの情報も得たいのであろう。
まあ彼女を思って外の世界で暮させてやりたい。
という親心的な何かもあるだろうが、俺達は安易にそれを鵜呑みする程、お人好しでも馬鹿でもない。
「私の一存では決めかねますな。
他の団員の意見を聞いてもよろしいですか?」
「ええ、構いませんわよ」
そして俺達は輪になって、小声で話し合う。
結論から言えば、殆どの者が彼女の入団に賛成であった。
エリスとメイリンはただ善意で賛成していたが、アイラとミネルバは、俺が危惧していた点も指摘した。
だがそれ以上にマリベーレは戦力として魅力的だった。
今回の戦いだけでも彼女が使う魔法銃の威力と有効性を思い知らされた。 あの魔法銃があれば、俺達の戦い方や戦術にも随分と幅が出る。 それに加えてマリベーレの容姿と性格。
可愛い年下の妹のような存在。
それは俺だけでなく、エリスやメイリン。
そしてアイラやミネルバの庇護欲を掻き立てた。
まあミリアムも一から百までマリベーレにスパイのような真似はさせないだろう。 なら遠縁の親戚の子を預かるような気持ちで彼女の入団を許可すれば、万事丸く収まる、と思う。
全員の意思が疎通できたところで、
「全員の許可が出ました。 我々『暁の大地』は、マリベーレの入団を心から歓迎致します」と、ドラガン。
「そういう事よ。 マリベーレ、ちゃんと返事しなさい。 それとカトレア、貴方もマリベーレに同行しなさい」
「は、はい。 え~と、不束者ですがよろしくお願いします」
「了解です、ミリアム様。 どうも~、
と、ペコリと俺達に頭を下げるマリベーレ。
対するカトレアは胸を張り、ややドヤ顔気味に自己紹介する。
するとエリスやメイリンが「よろしくね」と返し、
アイラとミネルバは、「ようこそ、『暁の大地』へ」
と言って右手を差し出した。 それを握手で返すマリベーレ。
こうして俺達にまた新たな仲間が加わった。
戦闘要員では、最年少の十一歳だ。 若い、若すぎる!
いやまあアイラも含めて、女性陣全員若いけどね。
「ではささやかですが、宴の準備もしております。
それでは皆様、今後ともよろしくお願いします」
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