第102話 森の中の乱戦


「お~い、お~い! そこの部隊、ちょっと待ってくれよ!」


 急に声をかけられて、俺達は思わず身構えた。

 声のする方向に視線を向けると、一匹の妖精フェアリーの姿があった。

 あいつは確かキーンとかいう名の男の妖精フェアリー


「キーンじゃない? アンタ、なんでこんな所に居るのよ?」


 当然の疑問を投げつける女妖精フェアリーのカトレア。

 するとキーンは両手を広げて、早口で喋り出した。


「いやさ、俺はネイミスの部隊に居たんだけど、急にレイジングベアの集団に襲われてさ。 リリアを連れて逃げた所で、山猫騎士団オセロット・ナイツの団長と出会ってさ。 リリアを彼等に任すかわりに、俺は皆の所へ行け、とリリアに頼まれたんだよ。 だから俺も皆に同行するよ」


「え? ネイミスさんの部隊もレイジングベアに襲われたの?」


 と、目を丸くして驚くマリベーレ。


「ああ、敵の魔物調教師モンスター・テイマーがスレイブ・チョーカーを使っているみたいなんだよ。 正直そろそろ引き上げた方がいいと思うぜ!」


「そうだな。 本隊に合流できたら、私からナース隊長に進言しよう」


 ケビン副団長がキーンの言葉に同意する。

 まあ問題は本隊が何処に居るかだよな。 

 仮に合流できたところで、副団長の進言をすんなり聞くかな?


「しっ! 皆、少し黙って!」


 ミネルバが口に右手の人差し指を立てながら、小声で囁いた。

 すると全員が真顔になり、武器を片手に身構えた。


「ほう、いい勘してるじゃねえか」


 そう言いながら、木々の陰から一人の男エルフが現れた。

 右手に深緑色の荊の鞭を持っており、粗雑な格好をしている。

 こいつが敵の魔物調教師モンスター・テイマーのようだな。

 男はニヤニヤと下品な笑いを浮かべながら、右手を垂直に上げた。


 すると、俺達を半包囲する形でレイジング・ベアが六体現れた。

 どうやらキーンが後をつけられたようだ。 クソッ!!


「お前等には恨みはないが、俺も仕事なんでね。

 そういうわけで死んでくれや! 行けえええっ!!」


 男がそう叫ぶなり、レイジング・ベアがゆっくりと間合いを詰めてきた。


「全員、戦闘態勢に入れ!」


 ケビン副団長の声が周囲に響く。

 それが開戦の合図となった。 こうなりゃ覚悟を決めるしかねえ!!


---------


「ガオオオンッ!」


 主に命じられるがまま、暴れまくる大熊の集団。

 俺達はエリスやメイリン、マリベーレを護りながら、次々と襲い掛かってくるレイジング・ベアと交戦する。


「チッ! しゃらくさいっ! ――ピアシング・ブレード!!」


 兄貴が剣技の名前を叫んで、眼前の大熊目掛けて剣戟を放った。


「グガアアアッ……アアアァッ!?」


一発目に右眼、二発目に眉間、三撃目で首筋を抉った。

流れるような攻撃だ。 流石は兄貴。 こんな状況でも落ち着いている。


「ほう、やるじゃねえか。 ならこっちも本気で行くぜ!」


 男がそう言うなり、再び木々の陰から何者かが現れた。

 深緑色のローブのフードを目深に被った人影が右手で素早く印を結んだ。


「我は汝、汝は我。 我が名はエリーザ。 神祖エルドリアの名の元に、我が眷属、火の妖精サラマンダーよ。 その力を顕現せよっ!!」


 ローブの女がそう呪文を詠唱すると、魔法陣が現れて、まばゆい光を放った。

 白、赤、青、黄色、緑、紫とカラフルな色の光が魔法陣から溢れ出る。


「ギャオオオンッ!」


 遠吠えをあげながら、魔法陣の中から、体長四十セレチ(約四十センチ)くらいの蜥蜴とかげが現れた。 もちろん只の蜥蜴とかげではない。 恐らく精霊エレメンタルだろう。 というかあの女、どことなく見覚えがある気がするぞ。


「ラサミス、ボヤっとするな! エリス達を守りながら、確実に一匹づつ始末していくぞ!」


「あ、ああ。 兄貴、わかったぜ!」


 確かにそんな場合じゃない。

 とにかく一匹でも多くレイジング・ベアを倒さなくては!


「我は汝、汝は我。 母なる大地ウェルガリアよ。 

 我に力を与えたまえっ! 『スーパーノヴァッ』!」 


 召喚された蜥蜴の精霊エレメンタルが素早く呪文を紡いだ。

 するとその両手に激しく燃え盛った紅蓮の炎が生み出された。

 紅蓮の炎が激しくうねらせながら、両手から放出する蜥蜴の精霊エレメンタル


「ぎゃ、ぎゃあああっ!!」


 紅蓮の炎が激しく燃え盛り、標的の猫騎士を包み込んだ。

 しかし惨劇はこれで終わりでなかった。

 この機会を逃さんとばかりに、木々の陰から新たな敵影が出現。


「我は汝、汝は我。 我が名はバルデロン。 母なる大地ウェルガリアよ。 我に力を与えたまえっ! 『アーク・テンペスト』!」 


 そう素早く呪文を唱えたのは、あの犬族ワンマンだ。

 野郎っ! 犬コロの分際で上級風魔法を使うとは!?


 放たれた激しい旋風が、猫騎士の身体に絡みつく。 

 魔力反応『熱風』が生じて、火達磨になった猫騎士は、後方に吹っ飛んで、背中から近くの木に衝突。


 クッ……。 あれじゃもう助かりようがないな。

 精霊エレメンタル犬族ワンマン

 更にあのローブを着た女は精霊使いエレメント・マスターだろう。

 敵の連携魔法も考慮して戦わないと、このままではヤバいぜ。

 

「よし、敵が動揺しているぜ! オラァッ! 熊共っ!

 この隙を逃すなよ! 思う存分暴れろやっ!」


 魔物調教師モンスター・テイマーの男が手にした深緑色の荊の鞭で地面を叩く。

 すると先程やられた猫騎士が欠けた事によって、生じた陣形の穴目掛けて突撃する大熊。


「いかん! 無防備のエリス達が狙われている!?

 誰でもいい! 彼女達を護るんだあっ!」


 ドラガンがそう叫ぶ中、背中に銀色の魔法銃を背負ったマリベーレが、一歩前に出て上着の白いコートをばっと開いた。 するとコートの下に着たピンクのチューブトップが露わになるが、

マリベーレは恥らう前に、両脇下に吊るした左右のホルスターから、銀色の拳銃ハンド・ガンを引き抜いた。


 マリベーレは両手に銀色の拳銃ハンド・ガンを握り締めながら――


「エリスさん、逃げて! えいやあっ! ――ダブル・クイックショット!」


 素早く引き金を引いた。

 バンッ! という音と共に放たれる銃弾。

 放たれた銃弾は、大熊の眉間、右眼にそれぞれ命中。

 当然「ガオオオッ」と呻き声を上げるが、突進は止めない大熊。


 更に引き金を引くマリベーレ。

 今度は胸部と右肩に命中するが、それでも大熊は突撃してきた。


「!?」


 体重ウェイトがたっぷり乗った体当たりがマリベーレに命中。

 身軽なマリベーレは物凄い勢いで後方に吹っ飛んで、川の中に落下した。 そして身動きできない状態で川に流される。


「まずい! 彼女の救出は私に任せてください!

 他の者はエリス殿を守りながら、あの手負いの熊に止めを!」


 ケビン副団長はそう言うなり、身を低くして全力で地を駆けた。

 そして川に入るなり、水魔法で近くの川の水を凍らせて、氷の上を滑るそりのような物を作り、それで川の上を滑った。


 そして溺れていたマリベーレに追いついて、彼女を右脇に抱えながら、近くの陸地によじ登った。 そういえば彼の品種は、水上移動が得意なスナドリネコだったな。

 とりあえずマリベーレは、彼に任せておこう!

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