第95話 残敵掃討
「――ヴォーパル・スラストッ!!」
そう技名を叫びながら、漆黒の穂先を敵兵の首に突き刺すミネルバ。
「う、うおおおっ……うがあああっ!?」
敵兵の
これでミネルバは、今日だけで八人以上倒したな。
流石は
敵に回すと厄介だが、味方だとこれ程、頼もしい存在はない。
俺達はあの
俺とミネルバが前線に出て
基本的に俺達は、敵の遊軍狙いだ。
敵の本陣からこぼれ出た遊軍を狙い撃ち、的確に排除していく。
「……き、貴様ら、ヒューマンに竜人だなっ!?
このエルフ領に汚い土足で入り込んで来るとは、許せん!」
なんというかエルフらしいエルフだ。
自分達も
大したメンタリティだな。
「ふ~ん、それで?」と、軽く煽るミネルバ。
「チッ……開き直りおって!」
「――ダブル・スラストッ!!」
「お、おいっ! まだ話は終わ……ぎゃああああああっ!!」
一人憤る重鎧の敵兵に、風斬り音と共に漆黒の穂先を喉元に突き刺すミネルバ。
そして更に斧頭で敵の頚動脈を水平に切り裂いた。 見事な連続攻撃だ。
「戦場で敵とおしゃべりするなんて、馬鹿じゃないの?」
バッサリとそう斬り捨てるミネルバ。
まったく持って正論だ。 俺は思わず苦笑する。
「ラサミス、敵の
ミネルバの言葉に釣られて、前方に視界を向ける。
すると大木の枝の上に立った敵の
ヤバい、と思い俺は一瞬身構えたが――
ばしゅっ、という音と共に敵の
俺は思わず後ろに振り返った。
すると後方の木の枝の上でマリベーレが右手を上げて、サムズアップする。
やるねえ。
射程距離百五十メーレル(約百五十メートル)はありそうなのに、
こうも楽々と決めるとはねえ。 あれで十一歳なのだから、末恐ろしい。
流れもこちらに傾きつつある。
このままの勢いで、どんどん敵兵を蹴散らして行くか。
その後も俺達は徹底した遊軍狙いで、戦果を上げ続けた。
ミネルバが前線で敵兵を切り捨て、討ち漏らした敵を俺がハイエナのように止めを刺す。
時折、敵の魔法部隊が奇襲してきたが、マリベーレがピンポイントで
紙装甲の魔法部隊は、次々とマリベーレの狙撃の餌食となった。
二属性の合成弾を的確に使い分けて、ひたすら敵兵を狙い撃つマリベーレ。
マリベーレは、一人、二人、三人と数実に敵を仕留めて行く。
流石に分が悪いと悟った敵の魔法部隊は、不様に逃走。
だがあえて深追いはしない。 俺達はあくまで遊軍狙いを突き通す。
それと連動するように、最前線にも変化が訪れた。
ネイティブ・ガーディアンの主力部隊に
それを待ちわびていたように、味方の魔法部隊が一斉攻撃を開始。
敵兵の前衛は、耐魔力の高い鎧を装備していたが、立て続けに魔法攻撃をされては、後退するしかなかった。
戦局を打開すべく、敵の魔法部隊が対魔結界を張ろうとしたが、こちらの
一時間後。
既に大勢は決した。
敵軍の陣形は無様なまでに崩れて、不様に敗走を開始。
敵軍は壊走状態で助けを求めるべく、敵の本陣まで後退する。
「これより残敵の掃討に移る! 全軍、完膚なきまで叩きのめせっ!」
ネイティブ・ガーディアンの総指揮官であるナース隊長が
「ナース隊長。 深追いは危険でありませんか?」
と、
まあレビン団長の言う事も一理ある。 だがナース隊長は首を左右に振った。
「いえ、今回に限ってはあえて残敵掃討に拘ります。 何故なら敵が、文明派が二度と我等が大聖林に侵攻する事がないように、徹底的に叩き潰します。 これはミリアム様の御意思でもあります」
正論だな。
穏健派としては、これを機に文明派の戦力を少しでも削いでおきたいだろう。
彼等は無駄な戦いは好まないが、必要とあらば戦う。
ならば一度の戦闘で徹底的に相手の心を折る、といったところかな?
「分かりました。 我等も残敵掃討にあたります」
「ご理解感謝致します。 『暁の大地』の方々もそれでよろしいですか?」
「ええ、ありません」と、ドラガン。
「ではこれより残敵掃討を開始します! ――全軍突撃っ!!」
ナース隊長の号令と共に残敵掃討が開始された。
逃げ
俺達『暁の大地』と
基本的にはネイティブ・ガーディアンの主力部隊が敗残兵を攻撃するが、討ち漏らした敵を俺達と
本音を言えば、あまり気分が良い光景ではない。
俺達は文明派のエルフ族とは、少なからず因縁があるが、不様に切り捨てられて、断末魔を上げる敵兵の姿には哀れみすら覚えた。
結局、残敵掃討は四時間半に及んだ。
途中までは、こちら側が一方的に押していたが、敵軍も追い詰められて、窮鼠と化した。
その結果、こちら側にも少なからずの損害を受けた。
そして日が沈み、夜になったところで追撃を中止した。
ネイティブ・ガーディアンの主力部隊の損害は、死傷者三十名。
だが敵軍の損害は、その五倍以上にも及んだ。
「とりあえず今夜はこの辺りで野営しましょう。 夜が明け次第、また残敵掃討を再開しますので、今夜はゆっくりとお休みください!」
ナース隊長のこの一言により、今夜は大聖林の境界線であるシトラス川の河原で野営する事になった。 河原の近くで、多くのテントが張られて、焚き火が焚かれた。
俺達もバックパックからテントを取り出して、テントのリングをペグで地面に打ち付けて、固定させる。 当然男女別々だ。 男性陣は一つのテントに収まったが、女性陣は二つのテントにエリス、メイリン、マリベーレ。 もう一つのテントにはアイラとミネルバという組み合わせ。
「さあ、とりあえず今夜はゆっくり休むぞ。
拙者が夕飯の準備をするから、ライルとラサミスは手伝ってくれ」
「ああ」「了解ッス」
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