第96話 俺は断じてロリコンじゃない!?

 

 とりあえず最初に焚き火を焚いてから、ドラガンがバックパックから鉄の大鍋を取り出して、コーンスープを作り始めた。


 その間に俺と兄貴は、釣竿を持って河原に釣りに行った。

 三十分かけて二人で十匹の魚を釣り、その魚を木の串に刺して、焚き火で焼いた。 

 

「あれ? このコーンスープ、凄く美味しい!」


 マリベーレは木の皿に入ったスープを木の匙で掬いながら、目を瞬かせる。

 するとドラガンがややドヤ顔気味に「ふふん」と鼻を鳴らした。


「まあこう見えて拙者の調理スキルは名人級だからな。

 これぐらいの料理なら、いつでも作れるさ」


「へえ、凄いのね。 というか私、

 こんな風に皆で並んで食事するなんて、凄く久しぶりだわ」


「ん? でも君にも家族や兄弟が居るだろ?」と、ドラガン。


 するとマリベーレは左右に首を振った。


「ううん、私は一人っ子よ。 それに両親はもう他界したわ」


「……すまぬ。 事情も知らず余計な事を言ってしまった」


 と、青い羽根付き帽子を脱ぎ、軽く頭を下げるドラガン。


「ううん、気にしてないわ。 でも貴方達は本当に仲が良いわね。 戦闘の呼吸もぴったりだし、理想の連合ユニオンと思うわ」


 理想の連合ユニオンねえ。

 まあ仲が良いのは確かだが、他人に言われると少し照れくさいな。


「そうかな? 結構くだらない事で喧嘩するぜ?」


「そうよ。 ラサミスなんかいつもあたしをからかうもん!」と、メイリン。


「そうか? 例えば?」


「色々よ! なんかいつもあたしを小馬鹿にしてるじゃん!」


「そんな事ねえよ。 仮りにそうだとしても、それは愛情表現だ」


「……本当? なんか嘘くさいなあ~」


「まあ嘘だけどね」


「ほら、こんな感じで馬鹿にするのよ!」


 と、メイリンは頬を膨らませる。


「……ほら、仲良いじゃない。 うらやましいわ。 私なんか独りぼっちだもん。 大聖林には子供のエルフも少ないし」


 やや寂しげな表情でそう言うマリベーレ。

 

「なら貴方も連合ユニオンに入る? あたしも連合ユニオンに入るまでは、独りぼっちだったわ。 でもね。 自分で行動しない限り、現状は変わらないわよ」


 諭すような口調でそう告げるミネルバ。

 するとマリベーレは少し考え込んでから――


「う~ん。 そうしたいのも山々だけど、私は大聖林以外で暮した事がないから、悩むわ。それにこうして戦争も始まったし、ミリアム様や仲間を置いて自分だけ遠くに行く……なんて真似はできないわ」


「そう。 その心掛けは立派と思うわ。 でもね、自分の人生は自分しか生きられないのよ。だから貴方も自分の選択を後悔する事だけはしないでね」


 今夜のミネルバは珍しく饒舌だな。

 まあ彼女なりにマリベーレの現状に色々思うところがあるのであろう。

 俺はやや重くなった空気を和ますように――


「まあとりあえず今は食おうぜ。

 そら、魚が充分焼けているぜ。 食えよ、マリベーレ」


 焼けた魚の串をマリベーレに差し出した。


「うん、ありがとう。 ラサミスさん」


「さんはいらねえよ。 ラサミスでいいぜ!」


「う~ん、じゃあラサミス……お兄ちゃん?」


 と、可愛らしく首を傾げるマリベーレ。

 ……。

 い、いかん、一瞬思考が停止したぞ。


 末っ子の俺はお兄ちゃんと呼ばれるのは、初めての経験だ。

 これは意外と破壊力あるな。 でも別に嬉しくはないぞ。

 本当だぞ? それにいくらなんでも十一歳は俺の守備範囲外だ。


「……ごめん。 お兄ちゃんって馴れ馴れしかったよね」


「い、いや別に構わないぞ? なあ、皆?」


 俺は左手で後頭部を掻きながら、周囲に視線を配った。

 するとメイリンとミネルバ、そしてエリスも無表情であった。


「……ラサミス、アンタってロリコンだったの?」


 やや引いた表情でそう言うメイリン。


「……そうだったの? ショックだわ」と、肩を落とすエリス。


「……マジ? 流石に少し引くんだけど」


 ミネルバも冷めた視線で俺を見る。


「マリベーレ、気をつけた方がいいわよ!」


「え? 何で?」


 妖精フェアリーのカトレアもマリベーレに耳打ちする。

 冗談じゃねえぞ、これは冤罪だ! 俺はロリコンじゃない!?


「違ええよ! ただお兄ちゃんなんて初めて呼ばれて驚いただけだ! 俺は断じてロリコンじゃない、絶対違うからな。 本当だぞ!?」


「ぷっ、ムキになって怪しい。 ね、ラサミスお兄ちゃん?」


「め、メイリンッ……お、お前なあ~」


「ああ、なる程ラサミスはお兄ちゃんになった事がないからね」


 と、一人で納得するエリス。


「ぷはあっ……面白すぎる。 ちょっとからかっただけで、この慌てよう。 いやあイジリ甲斐があるわあ~」


 ぷっと噴き出して、腹を抱えて笑うミネルバ。

 こ、こいつ等、普段はあんまり接点ねえのに、こういう時だけは、やたら息が合うな。 ち、ちくしょう!


「……ごめん。 私のせいかな?」


「いやマリベーレちゃんは悪くないわ。 

 でもラサミスには近づかない方がいいよ!」


「ご、ゴラアァッ! 調子に乗るな、メイリン!」


「べえっ~、いつものお返しよ!」と、舌を出すメイリン。



 そんな感じで楽しい食事の時間は過ぎた。

 クソッ、女共め。 散々人をからかいやがって!

 挙句の果てには、アイラまで「本当にロリコンじゃないの?」とか

 言う始末。 兄貴とドラガンは苦笑して、フォローの一つも入れてくれない!



 その後、食事の後片付けをして、男女それぞれ一人づつ見張り番を置いて、残りは早めに就寝。 男は四時間で交代制。 女性陣派はアイラとミネルバが交互で見張りについた。


 どうせメイリンに見張りさせても、居眠りするからな。

 エリスは貴重な回復役ヒーラーだし、休養は充分取って欲しいし、マリベーレはなんだかんだでまだ子供だから、夜更かしは良くないからな。


 何せよ、明日からまた残敵掃討が再開される。

 だから今この瞬間だけでも、戦いを忘れてゆっくり休もう。

 どうせ、明日になれば嫌でも戦う事になるからな。

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