第78話 護りたい笑顔
事後承諾となったが、他の大半の
まあドラガンは――
「だが入団した以上、
と、やや厳しい言葉を浴びせたが、
「わかったわ、……いえわかりました。
と、ドラガンに深々と頭を下げるミネルバ。
続いてエリスとメイリンが「よろしくね」と右手を差し出すと、
「こちらこそよろしく! エリス、メイリン」
と、握手で返すミネルバ。
だが兄貴とアイラはミネルバに対して、特に何も言わなかった。
まあ正直俺がその場の勢いで言ってしまった感があるが、ミネルバを正式に入団させるとなると、少々面倒な事になりそうだ。
竜人族との関係も考慮すれば、
まあ兎に角それらの事情は後で何とかしよう。
まず大事なのは、これからどうするかだ。
とりあえず俺達はアーガスを追うか、追わないかの議論をしたが、ミネルバの「あの男は狡猾だから、多分とっくに逃げ失せているわ」とという言葉で、結局奴を追う事は止めた。
そしてメイリンが――
「どうせならこの辺りの水晶を採掘しない?」
という提案をしたので、断る理由もないからそれに賛同した。
俺とドラガン、それにミネルバとメイリンが採掘を担当。
だが言い出しっぺのメイリンは三十分もすると脱落。
やれやれ、メイリンは相変わらず体力がないな。
結局俺とドラガンとミネルバの三人で採掘作業にあたった。
一時間半以上、水晶を削り取る地味な作業を族けて、それなりの量の水晶を掘り出した。 これなら結構金になるだろう。 だがそんな事を喜んでいる状況ではない。
俺達がジークロンに語られた話をアーガスに聞かれてしまった。
ミネルバ曰く、使役した飛竜とアーガスの視覚や聴覚は、一時的に共有できた為、大体の話の内容は理解できたとの話。
アーガスは間違いなく本国に戻ったら、俺達から知った情報を竜人族の上層部に語るであろう。 そうなると竜人族がどう出るか予想がつかない。
とりあえず伯爵夫人や
「それではジークロン卿。 お世話になりました」
帰り支度が出来た俺達は、ジークロンとゼーシオンに別れの挨拶を告げた。 するとゼーシオンはそっぽを向いて、こう毒を吐いた。
「まったく貴様らのせいでとんだ災難だった。 事もあろうにあの話を他の者に盗み聞きされるとはな。 呆れてものが言えぬわ。 父上が許しても、俺は許さんぞ」
「……その件に関しては、深く謝罪する」
そう言ってドラガンと兄貴が深々と頭を下げた。
だがゼーシオンは「ふん」と鼻を鳴らして、視線すら合わせない。
「まあそう怒るな、ゼーシオン。 我々の事なら心配はない。 何故なら我々には、まだ卿らに話してない秘密があるからな。 だが出来れば、卿らの
軍隊や冒険者の大部隊を派遣しないように、口添えしてもらいたいな。 我々は大丈夫だが、迷宮内のモンスターやドラゴン種が意味もなく虐殺されるのは、やはりあまり気分が良いものではないからな」
「はい、必ず口添えしますので、どうかご安心ください」
ドラガンの言葉にジークロンは「うむ」と頷いた。
そしてその視線を今度は俺とミネルバに向けた。
「誰かを救う為に献身する事は、とても素晴らしい事じゃ。 だがそれにはそれ相応の代償が付きまとう。 ヒューマンの若者よ、卿にはその覚悟があるのか?」
「はい、俺も男です。 自分の言葉に責任は持ちます」
これは嘘偽りない俺の本音だ。
勿論、そんな簡単な話じゃない事は分かっている。
だが一度言葉にした以上、俺もやれる限りの事はするつもりだ。
「うむ、いい返事じゃ。 で、肝心の卿はどうするつもりじゃ?」
ジークロンはそう言って、観察するような表情でミネルバを一瞥した。
するとミネルバはしばらくの間、黙考していたが、やがて決意の固まった表情でこう返した。
「そうね、正直その場の勢いに身を委ねた感じは強いけど、私も子供じゃない。 自分の言葉と行動には責任を持つわ。 だからしばらく彼らの世話になるつもりだけど、受けた恩は必ず返すわ。 ただ護られるだけでは嫌。 私も出来る範囲で、彼らの力になりたいわ」
「うむ、その気持ち忘れるでないぞ?」
「……はい」と、ミネルバ。
「では卿らの武運を祈る。 達者でな!」
「はい、お二人もお元気で!」
と、ドラガンが一礼する。
そして俺達はそれぞれ手に転移石を持ち、頭上に掲げた。
「転移! ロール島!」
一週間後。
とりあえず俺達はリアーナに戻るなり、採掘した水晶を換金した。
その総額は百五十万グラン(約百五十万円)。
ミネルバが加わったから、七人で均等に割り、一人辺りの取り分は約二十一万グラン(約二十一万円)。
そうか、これからは七等分になるんだ。
まあ学校が始まれば、エリスとメイリンはハイネガルに帰るから、基本はミネルバを加えた五人で冒険者活動をする事になりそうだ。
それから俺達は
とりあえずドラガンとアイラが今回の騒動の事の顛末を告げる為に、
残されたのは俺、兄貴、エリス、メイリン、ミネルバの五人。
この五人でハイネガルに向かい、今回の任務を伯爵夫人に報告する。
「さてそれでは俺達はハイネルガルへ行くぞ!」
兄貴の言葉に従い、俺達は旅支度してハイネルガルへと向かった。
ミネルバはハイネガルに行った事がない為、今回は馬車を利用した。
五人乗りの馬車はなかったので、俺と兄貴にミネルバ。
エリスとメイリンという組み合わせで、二台の馬車にそれぞれ乗り込んだ。
気がつけば、もう十二月二十九日。
三日後には新年を迎える事になる。
外はめっきり寒くなっており、息を吐いたら白くなる。
もう今年も終わりか。 思い返せば色んな事があったな。
一年前の俺に今の状況を話しても信じないだろうな。
でも喜んでばかりはいられない。
まずは今回の事の顛末をあの伯爵夫人に報告せねば。
だが今回の任務もなかなか厳しかったから、正直疲れた。
俺はいつの間にかうたた寝をしており、気がついた時には、ハイネルガルに到着していた。
空は茜色に染まり、既に夕方の一八時を過ぎていた。
「今日はもう遅いから、伯爵夫人への報告は明日にしよう」
「「「「「はい」」」」
その後、エリスとメイリンは自宅に戻り、俺と兄貴はミネルバを連れて、実家『龍之亭』へ戻った。 ミネルバの顔を見るなり、お袋が――
「まあすごく美人な子ね。 でもライル、貴方にはアイラさんが居るんじゃ? それとももしかしてラサミスの恋人? でもそうなるとエリスちゃんは――」
「母さん、彼女は俺達の新しい仲間だよ。 名前はミネルバさ」
一人で先走るお袋を静止する兄貴。
するとお袋は「コホン」と咳払いして、落ち着きを取り戻した。
「そ、そうなの? 私はこの二人の母親のマリンです。 よろしくね、ミネルバさん。 空いてる部屋を好きに使っていいわよ」
「ど、どうもミネルバです。 よろしくお願いします」
相変わらずお袋はお喋りだな。
ミネルバも戸惑っているじゃねえか。
だが二階に上る際に――
「お母さん、とても美人ね」
と、ミネルバが耳打ちしてきた。
「そ、そうか?」
「うん、貴方達はとても温かい家庭で育ったのね。 羨ましいわ」
「でも俺なんかこの間まで、穀潰し扱いだったぜ。 大体――」
「コラァ! ラサミス、聞こえているわよ!」
相変わらずの地獄耳だ。
俺とミネルバは顔を見合わせて、軽く苦笑いした。
その後、俺と兄貴は店の手伝いをしていたが、ミネルバが「私も何か手伝わせて!」と言ったので、とりあえず皿洗いとか雑用などをやってもらった。
やや不慣れな仕草だったが、ミネルバは満足そうだった。
それを見てお袋が――
「いい子ね。 ああいう子は大事にしなさいよ」
と言ってきたので、「ああ」とだけ答えた。
というかミネルバもいい笑顔を浮かべているじゃねえか。
その姿を見て俺は少し嬉しくなった。
あの笑顔は護りたいな。
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