黄昏のウェルガリア

第71話 怒涛の連携攻撃

「効いてるぞ！　アイラ、一気に畳み掛けるぞ！」

「ああ、私がシャイン・セイバーを使うから、ライルは――」

「了解だ、行くぞっ！」

　二人は阿吽の呼吸で会話しながら、全力で地を駆けた。

　恐らく二人で連携攻撃を行うつもりであろう。

　俺もこの機に乗じて、攻撃に参加すべきか！

　いや止めておこう。　ここは二人に任せよう。

『よくも我が肉体を傷つけてくれたな。　もう容赦はせん。　我は汝、汝は我。　我が名はゼーシオン。　母なる大地ウェルガリアよ。　我に力を与えたまえ！　死ねえええぇっ、『念動波（マインド・ウェーブ）』」

　黒竜はそう念話（テレパシー）で素早く呪文を詠唱すると、黒竜の両掌から白い念動波が生まれ、先端が鋭く尖った形状になり、兄貴とアイラに目掛けて放たれた。

　だが二人は咄嗟に横にサイドステップして回避を試みるが――

　二人を追尾するように白い念動波が背後から迫った。

「自動追尾（ホーミング）しているわ！　ら、ライルッ！」

「お前はマントで防げ！　俺は自力で回避するっ！」

「わ、わかった……ああっ！！」

　アイラは咄嗟に背中の対魔力のある緑のマントで、追尾する白い念動波を受け止めたが、完全には防御（ガード）できず、背中から後方に吹っ飛び、近くに壁面に衝突した。

「き、きゃあああぁぁっ！？」

　もう一つの白い念動波も兄貴に迫るが――

「くっ……喰らうかよ！？」

　兄貴は後ろに下がりながら、右に左、左に右とサイドステップを駆使する。

　だが迫り来る白い念動波は、追跡を止めない。

「ちっ、仕方あるまい！　ハアアアァァッ！！」

　痺れを切らした兄貴が右手に剣を持ち、空手（からて）の左手を前方に突き出して、その掌から激しい水壁（すいへき）を長方形状に放射する。

　白い念動波が、長方形の水壁に衝突する。

　だが勢いを弱めながらも、白い念動波は水壁を突き抜けた。

　それに対して、兄貴が全力で剣術スキルを放った。

「――ピアシング・ブレード」

　追尾する白い念動波を兄貴の白銀の長剣が突き刺した。

　長剣の切っ先に覆われた光の闘気（オーラ）と白い念動波が激しくせめぎ合う。

　魔力と闘気（オーラ）の激しい衝突。

　この力比べの勝者は白い念動波であった。

「うおおお……おおおぉぉっ！！」

　衝撃負けして、激しく後ろに吹っ飛ぶ兄貴。

　それを待ちかねていたように、黒竜はその太くて長い尻尾で地面を叩いた。

　恐らく尻尾攻撃（テイル・アタック）を仕掛けてくるつもりだろう。

　そして俺の読み通り、黒竜はその巨体を外側に捻った。

「――甘い！　これも計算通りだっ！！」

　そう言いながら、兄貴は吹っ飛んだ状態で右手の長剣を地面に突き立てる。

　ぎぎぎっ……という耳障りな金属音が耳朶を打つ。

　兄貴はそこから身体を反転させて、正面を向いた。

　それと同時に黒竜はその太くて長い尻尾を水平に振るった。

「あ、兄貴っ！？」

　俺は思わずそう叫んだが、次の瞬間には、予想外の展開が視界に映った。　

　兄貴は身を屈めながら、右足を前にして、左足で身体を支えながら、低い軌道で地面をスライディングして、尻尾攻撃（テイル・アタック）を回避。

　そのまま「ズサアアアッ」と地面を滑りながら、黒竜に迫った。

　もしかして兄貴はさっきわざと吹っ飛ばされたのか？

　その勢いを生かして、敵の尻尾攻撃（テイル・アタック）を回避しながら、

　前進して、無防備になった黒竜の懐に飛び込んだというのか！？

『なっ……き、貴様っ……もしや！？』

　黒竜も思わず驚愕する。

　そして兄貴はにやりと口角を吊り上げて、スライディング状態から飛び起きて、無防備となった黒竜を射程圏内に捉えた。

「もう遅い！　我が最大の剣技を見よ！　――『ロザリオ・インパルス』ッ！！」

　この技（スキル）は、ブレードマスターの固有剣技（ユニーク・ソードスキル）だ。

　俺が知る限り、兄貴の持つ剣技の中で一、二の座を争う剣技（ソードスキル）だ。

　両眼を見開く俺の前で、兄貴の銀色の長剣が疾風怒濤の勢いで打ち込まれる。

　銀の刃が大気を唸らせ、十字を描くような軌道で、

　無数の剣線が黒竜の巨体を刻み込む。

「グ、グギャアアアアアッ！！」

「まだだ！　こんなもんじゃ終わらんよっ！」

　苛烈な剣舞の音が迷宮内に鳴り響く。

　あらゆる物を打ち砕くような力強さに加えて、あらゆる物でも切り裂く速度（スピード）の清音。

　兄貴は黒竜の攻撃を紙一重のタイミングで回避しながら、何度も何度も十字を描き、その都度黒竜の巨体に剣線を刻み込んだ。　黒竜の巨体には、様々な箇所に十字の剣傷（けんしょう）が刻まれ、その傷口から赤い鮮血が周囲に飛散する。

　あれだけの剣術スキルを受けても、尚、立ち続ける辺りは、流石はドラゴン種と言うべきか。

　対する兄貴は徐々に剣速が落ちていく。

　高レベルのスキルは高い破壊力を誇る反面、極度に魔力や体力を消費する。

　故にここぞという時以外は使わないのが、定石（セオリー）となっている。

　更にはあの巨体の黒竜と超至近距離で戦っているのだ。

　いくら兄貴といえど、その重圧感（プレッシャー）による負担は大きいだろう。

　次第に兄貴の攻撃は命中しなくなり、逆に黒竜の攻撃がジワジワと兄貴を捉え始めた。

　それでも兄貴は果敢に、勇敢に攻め立てる。

　ギリギリのタイミングで黒竜の左手の鍵爪攻撃を回避して、そこから白銀の長剣を大きく振り上げた。

「――せいっ！」

　兄貴は余力を振り絞って、長剣を素早く振り下ろす。

　半瞬程して、「がきんっ！」という鈍い音が周囲に鳴り響いた。

　兄貴の斬撃は、黒竜の左腕で防がれて、その白銀の刃が食い込んでいたが、骨を断つには至らず、肉を斬る程度にとどまった。　そして黒竜は次の瞬間には、この瞬間を待っていたかのように、激しい咆哮（ハウル）を放った。

「あ、兄貴っ！　逃げろおおおぉぉっ！！」

「ガルアアアァァッ！」

　俺の悲痛な叫びを打ち消すように、黒竜が雄叫びをあげた。

　そしてその大きな口から放たれた衝撃波が兄貴に命中。

「ぐ、ぐはあああっ！」

　兄貴は咄嗟に手にした長剣を縦に構えて、防御（ガード）するが、この至近距離ではそれらの行為も大した意味を成さなかった。

　衝撃波で後方に吹っ飛ぶ兄貴。

　それを右手の鍵爪で叩きつける黒竜。

　兄貴の身体はその勢いのまま地面に叩きつけられ、激しくバウンドして、十メーレル（約十メートル）近くも後ろに転がった。　

「あ、兄貴！　だ、大丈夫かっ！」

「ごはっ……え、エリス、回復（ヒール）を……」

「は、はいですわ！　　我は汝、汝は我。　我が名はエリス。　レディスの加護のもとに……『ハイ・ヒール』！！」　

　エリスは素早く兄貴の元に駆け寄り、その両手を兄貴の背中に直接触れさせながら、そう呪文を素早く詠唱する。

　するとエリスの両手から眩い光が放たれて、地面にうつ伏せた兄貴の身体を優しく包み込んだ。

「うっ……傷が癒えていくのは分かるが、身体がまだ動かせん」

「ライル兄様、恐らく骨折箇所が複数ありますわ。　私の回復（ヒール）だと精々骨折を治す程度しか出来ませんわ。　もう少しお待ちください！」

「……了解だ」

　そのまま患部に手を当てるエリス。

　そして十秒後くらい経過した後、ようやく兄貴が身体を引き起こした。

　兄貴は手にした長剣を地面に刺して、立ち上がろうとするが、小刻みに身体を震わせており、戦線の復帰は難しそうだ。

「ドラガン、ラサミス、メイリン。　これから俺の言うとおりにしろ！」

「ライル、無理に喋るな」と、ドラガン。

「い、いいから聞いてくれ。　このままだと全滅しかねない。　だから奴にダメージがある今この瞬間に三人で連携攻撃をするんだ！　最初はドラガンのソニック・ソーン。　次にラサミスの火炎属性攻撃。　そして最後にメイリンが最大級の光属性魔法で攻撃するんだ！　そうすれば奴の弱点である光属性の魔力反応・太陽光（サンライト）が発生する」

「……そうだな。　厳しいがそれをやるしかなさそうだな。

　とりあえずライル、お前は後ろで待機していろ。　ラサミス、メイリン！」

「「はい！！」」

「聞いての通りだ。　我々の連携攻撃に今後の命運がかかっている。　奴に接近するのは、至難の業（わざ）だが、この好機を逃せば、我々の勝機は失われる。　だから絶対に諦めるなよ！」

「了解です、団長！」

「はい、絶対に諦めないッス！」

　アイラは戦闘不能。　兄貴もまだ戦線復帰は無理そうだ。

　残されたのは、俺にドラガンとメイリン。　そしてエリスの四人。

　回復役（ヒーラー）であるエリスは当然前線に出る事はできない。

　だから残りの三人であの黒竜を倒すしかない。

「エリス、拙者とラサミスにプロテクトを！」

「はいですわ！　我は汝、汝は我。　我が名はエリス。　レディスの加護を我が友に与えたまえ、――プロテクト！！」

「よしっ！　ラサミス、拙者は左側から攻めるから、お前は右側だ。　後、奴の注意をそらすように何かするんだ！」

「了解です、団長っ！」

　そう言葉を交わすなり、俺とドラガンは両足に風の闘気（オーラ）を纏う。

　そしてドラガンは左側に、俺は右側から黒竜目掛けて突貫する。

「グオォォォォォォッ！！」

　黒竜が傷ついた巨体に鞭を打って、その太くて長い尻尾で地面を叩いた。

　恐らく次の瞬間には、尻尾攻撃（テイル・アタック）で攻めて来るだろう。

　奴の立場なら俺とドラガン、どちらを狙う？

　的が小さくて俊敏な猫族（ニャーマン）よりヒューマンの方を選ぶ筈だ。

　そしてその俺の読み通り、黒竜は俺目掛けて尻尾を振るってきた。

　高速で接近する太くて長い漆黒の尻尾。

　俺はその場で大きく跳躍して、少し余裕を持って攻撃を回避。

　しかし黒竜もそこまでは読んでいたのであろう。

　今度は口を大きく開いて、俺に照準を定める。

　咆哮（ハウル）か、あるいはブレス攻撃か。

　だがどちらでも構わない。　その前に動きを封じるからな。

　俺は右手に光の闘気（オーラ）を纏い、球状の光弾を掌から放出。

　球状の光弾は高速で黒竜に接近。

　一瞬、黒竜の動きが硬直する。　――よし今だっ！！」

「――弾けろっ！！」

　俺がそう叫ぶなり、球状の光弾は黒竜の眼前で弾けた。

　する俺と黒竜の間に太陽光のような眩い光が生じた。

「ウ、ウオオオォォッ……オオオッ！！」

　完全に不意を突いた形となり、黒竜の視界を奪う事に成功。

　そして俺は手にしたポールアックスに炎の闘気（オーラ）を篭める。

「団長、今のうちにっ！」

「でかしたぞ、ラサミス！　――『ソニック・ソーン』ッ！！」

　そう叫びながら、ドラガンは素早く地を駆けて、黒竜に接近。

　そして大きく跳躍して、上級の細剣スキルを素早く放った。

　風属性を含んだ渾身の一撃が黒竜の眉間に命中！

「ギャウァッ！？」

　黒竜は堪らず悲鳴を上げた。

　だがこれで終わりじゃないぜ。　次は俺の番さっ！

　俺はドラガンに続くように、大きく跳躍して黒竜の頭部に迫った。

「うおおお……おおおぉぉっ！　『火炎斬（かえんざん）』っ！！」

　俺は雄叫びを上げながら、中級斧スキルの『火炎斬（かえんざん）』を放った。

　両手で振り下ろした白金（プラチナ）のポールアックスが黒竜の額に命中。

「ギャウアアアアアァァッ！？」

　たちまち魔力反応『熱風』が発生して、黒竜がもがき苦しんだ。

　黒竜の額が綺麗に割れて、そこから咽（むせ）るような熱風が生じる。　

「メイリンッ！」

「はいよ！　我は汝、汝は我。　我が名はメイリン。　ウェルガリアに集う光の精霊よ、我に力を与えたまえ！　――これで終わりよっ！　……『ライトニング・ダスト！！』」

　そう呪文を紡ぐと、メイリンの杖の先端の魔石に眩い光の波動が生じる。

　そしてメイリンは両手杖を握る両腕を大きく引き絞った。

　次の瞬間、魔石から迸った光の波動が流星のような速度で黒竜に迫った。

「ギ、ギャワアアアアアアアアァァッ！？」

　その光の波動が一発、二発、三発と間髪入れず黒竜に命中。

　それによって魔力反応が『熱風』から『太陽光（サンライト）』に変化する。

　この瞬間を待っていたと云わんばかり、光の波動が流星のように降り注がれた。

　ドガアァァァン！！　ドガァァァン！！　ドガアァァァァァァン！！

　凄まじい衝撃音が迷宮内に轟き、大気が激しく揺れた。

　黒竜は光の渦に呑まれて、断末魔のような悲鳴を上げるが、更に光の波動が容赦なく黒竜に襲い掛かる。　その光景はまるで夜空に降り注ぐ流星群のような華麗さと激しさに満ちていた。

　ドガアァァァン！！　ドガァァァン！！　ドガアァァァァァァン！！

　休まる暇もなく光の波動が黒竜を捕らえる。

　「グ、グギャアアアアア……アアアアアァァァッ！！」

　黒竜の悲鳴と共に激しい爆発音と爆風が生じて、前方の視界が霞んだ。

　土と石が燃えた焦げくさい臭いが周囲に漂う。　俺は思わず右手の甲で鼻を塞いだ。

　そして爆風が収まると、黒煙の中で身体を二、三度痙攣させる黒竜。

　するとその巨体が見る見るうちに小さくなっていく。

　三十秒くらい経った頃には、元の人型サイズに戻っていた。

　恐らく極度のダメージを受けた為、龍化（りゅうか）が解除されたのであろう。

　あるいは魔力が尽きたのかもしれん。　だがどちらでも構わない。

　これで俺達の勝利は確定した。　だが最後まで気を緩めない。

　身体の至る所から黒い煙を吐き出し、薄い緑色の髪も煤だらけになった

　ゼーシオンなる竜魔が充血した両眼を細め、ゆっくりとこちらに歩み寄る。

「ごほ、ごほっ……お、お前等は我々を抹殺するつもりか？」

　ゼーシオンは咳き込みながら、そう語りかけてきた。

　俺とドラガンは顔を見合わせてから、小さく頷いた。

「そんな真似はせんよ。　ただ少しお前さんに色々聞きたい事があるだけさ」

　と、ドラガンが冷静にそう告げた。

「……な、何を聞くつもりだ？」

「そう構えなさんな。　我々はこれ以上お前さんと争うつもりはない。　だからこれからはお互い腹を割って、話し合わないか？」

　ドラガンの言葉にゼーシオンはしばらく黙考する。

　まあこいつの立場からすればそう簡単に信用はできんよな。

　ならばこの間に負傷した兄貴とアイラ達を治療しよう。

　エリスがアイラを回復（ヒール）した後に、彼女の口の中に瓶の中の回復薬（ポーション）を注ぎ込んだ。　しばらくするとアイラは「ううう……」と唸り、意識を戻した。　兄貴も回復薬（ポーション）をぐいっと一気に二本分飲み干した。

　これで万が一戦闘が再開されても、こちらの有利は変わらない。

　するとゼーシオンは観念したように、こう漏らした。

「俺の一存では決めれんから、少し待ってくれ」

『その必要はないぞ、ゼーシオン！』

　ゼーシオンの言葉の後に念話（テレパシー）が俺達の脳裏に伝わってきた。

　俺達は条件反射的に後ろを振り向いた。　するとその先に――

　身長190セレチ（約190センチ）くらいの一人の男が立っていた。

　男は黒灰色の衣に身を包んでいるが、その背中には二枚の漆黒の翼が生えていた。

　髪はゼーシオンと同じ薄い緑色でオールバック気味の髪型。

　肌は褐色。　だが全体的に落ち着いた感じの雰囲気だ。

　だがその背中にある二枚の漆黒の翼が、俺達とは違う種族だと告げていた。

『――私はそこのゼーシオンの父親ジークロンである。　見ての通り魔族じゃ。　だが我々はただここで大人しく暮しているに過ぎぬ。　だからそなたらが矛を収めるなら、我々も争うつもりはない』

　黒灰色の衣の男は、再び念話（テレパシー）で語りかけてきた。

　やはり魔族だったか。

　しかし相手がこういう態度を示してきたのに、争うのは愚行と言えよう。　

　俺達は互いに目配せすると、手にした武器を収めた。

「ち、父上っ！　あ、相手はヒューマンですぞっ！？　そう簡単に信用なさっていいのですか？」

「落ち着け、ゼーシオン。　無益な血を流す必要もあるまい。　もっとも彼等が我々に害を為（な）すなら、私も黙ってはおらんよ」

　ジークロンなる魔族は、今度は念話（テレパシー）ではなく、普通に喋った。

　柔和な声音だが、芯の強さを感じさせる響きがあった。

　するとドラガンが一歩前に出て、一礼してこう言った。

「我々は『暁の大地』という連合（ユニオン）の者達です。　ジークロン卿、我々も出来れば、平和的に物事を解決したいと思ってます。　我々はとある貴族の御婦人にこのラムローダに竜魔が存在するかもしれない、という噂を聞かされ、遠路遥々この地にやってきました。　ですが我々は一方的に情報の開示を求めません」

「そなたは猫族（ニャーマン）じゃな？」

「見ての通りです」

「うむ、良く見るとそちらのお嬢さんはエルフとヒューマンの混血児か？」

「ええ、まあ……」と、アイラ。

「うむ、どうやら卿らは種族と云う概念に拘ってないようだな。　ならば我々の事も理解してもらえるかもしれんな」

「ち、父上！　安易に信じるのは危険です！」

「落ち着くのじゃ、ゼーシオン。　お前の気持ちも分かるがここは一つ彼らと話し合ってみよう。　なあに、悪いようにはせんさ」

「……わかりました」

「では場所を変えましょう。　我々の後に着いて来てください」

　そう言ってジークロンなる魔族は背を向けた。

　ゼーシオンは不服そうな表情であったが、とりあえずこの場は大人しく父親の意向に従った。

「……お前等、何かあるまで絶対に揉め事は起こすなよ？」

　というドラガンの言葉に全員が頷いた。

　するとドラガンは「うむ」と満足そうに頷いて、

「ではここは一つ彼等の後に着いて行くぞ」

　その提案に断る理由もなく、俺達はジークロンとゼーシオンの後を追った。

　竜魔と魔族か。　真っ当な組み合わせではないが、

　とりあえずこの場は彼等を信じてみよう。

　だが何だか嫌な予感がする。

　気がつかないうちに俺達は、また厄介事に巻き込まれたのかもしれん。

　俺はそう漠然とした不安を抱きながら、二人の後を追った。