第十三章 竜魔を探し求めて
第63話 無駄に運が良い男
「見て、見て、ラサミス、メイリン。 イルカよ! とっても可愛いわ!」
「おう、俺は初めてイルカ見るけど、確かに可愛いな」
「おおっ!
と、船の
俺達は今港町バイルから竜神領ラムローダに向かう定期船に乗っている。
乗船した船は木造の帆船。 わりと年季の入った中規模の大きさの船だ。
ドラガンや兄貴達は別として、俺達三人は港町バイルへ行った事はなかったので、
港町という事でバイルの町並みは栄えていたが、時間がなかったので、俺達はすぐラムローダに向かう定期船に乗船した。 一応例の二人組みが尾行してないか、入念に警戒したがそれらしき姿はなかった。
だが船に乗る際に今回の任務に同行させたブルーが、上空に向かって、何度か吼えたのが少し気になる。
今回の任務の主目的はエルシトロン迷宮の調査と竜魔の探索。
ドラゴンはドラゴン種の気配や魔力を察知する事が出来る。
故に今回の竜魔探索に役立ちそうなので、ブルーもつれて来た。
「見て、見て、ラサミス。 イルカさんが飛び跳ねているわ!」
「おう、凄いよな。 でもラムローダまで渡航時間は五時間以上ある。 甲板の上に長く居ると船酔いするぞ。 酔い止め薬は飲んだか?」
「もうラサミス。 私の事を子供扱いしないで! ちゃんと飲んだわよ!」
と、頬を膨らませるエリス。
拗ねた顔も可愛いな。 だが今回の旅は観光旅行じゃないからな。
あまりはしゃぎ過ぎるのもどうかと思うが、ここで注意するのも野暮だろう。
「んじゃ俺は客室に戻っておくから、お前等も程ほどにな」
「うん」「わかってるわよ!」
俺は念の為に船内の客室を小まめにチェックする。
あの竜人二人組みを探すが、それらしき姿は見えない。
だがあいつ等がこのまま素直に引き下がるとも思えない。
用事するには越した事ない。
そして俺は兄貴達が居るVIP
今回の任務は言わば極秘の任務。
故に機密性を保つ為に、あえてVIP
俺はVIP
するとドアの中から「誰だ?」というドラガンの声が聞こえてきた。
「俺ッスよ、ラサミスです」
「そうか、入っていいぞ!」
許可を得たので、俺はドアを開き、室内に入った。
VIP
ソファやテーブルやベッドなども一目で高級品と分かる。
だが想像していた程ではない。
なんというか庶民の為のVIP
あの伯爵夫人ならもっと凄い豪華客船に乗った事があるんだろうな。
「どうした? そんな所に突っ立て、早くドアを閉めろ!」
「あ、はいはい。 ん? 兄貴達、ポーカーしてるんスか?」
兄貴達は部屋の中央にある黒の卓上テーブルを囲みながら、肘掛け付きの赤い椅子に座り、両手にトランプのカードを握っていた。 ちなみにブルーは部屋の隅にある黄色のクッションの上で身を丸くしていた。
「ああ、航海中は暇だからな。 お前もやるか?」
「そうだね、暇だし俺も参加するよ」
俺は兄貴の問いにそう返事する。
それから肘掛け付きの赤い椅子を机に引き寄せて、腰を降ろした。
こう見えて意外にカードゲームは得意だ。
通常生活での運は、それ程高くない方だが、何故かこういう運任せのゲームだと無駄に運が良い。 そして今回のポーカーでもその運の良さが最大限に発揮された。
連戦連勝。
とにかく引きがいい。
そして俺が入った途端に兄貴達の引きは悪くなった。
十連勝した後に、ドラガンが不審に思い「ちょっと身体検査するぞ」
と、イカサマでないか探るが、当然の如く何も見つからない。
「……この運の良さを今回の任務でも発揮してもらいたいものだな」
「はあ、まあ善処してみます」
俺はその後も連勝を重ね、気がつけばエリス達が部屋に戻っていた。
「ん? ライル兄様達はトランプしてるんですか?」
「ああ、エリス。 お前もするかい?」
「いえ私はルールがわからないからいいです」
「そうか、ならメイリンはどうだ?」
「アタシも結構です。 というかラサミスって無駄にカードゲーム強いですよ! 正直イカサマしてるのか、というくらい運があります」
「……そうなのか?」
「はい、だからアタシはラサミスとは絶対運の任せのゲームはしない主義です」
「……」
しばらくの間、兄貴達は無言になる。
そしてわざとらしく部屋の中の柱時計に視線を移し――
「そろそろラムローダに到着する頃だな。 ポーカーはここまでにしよう」
「そうだな」「ええ、そうしましょう」
と、ドラガンとアイラも相槌を打つ。
どうやら上手い具合に逃げられたな。 でも小額だけど賭けていたから、この三時間余りで八千グランも稼いでしまった。 臨時の小遣いとしては、悪くないが兄貴やドラガンが珍しく不機嫌だったな。
なんか申し訳ないので、この稼いだ掛け金で、エリスやメイリンに船内の食堂で好きな物を奢り、残った金でブルーのやや豪勢な餌を買ってあげた。 そして更に一時間が過ぎて、俺達は竜人領ラムローダに到着した。
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