第64話 竜人領ラムローダ
竜人領ラムローダ。
ラムローダは前に説明したように少々面倒くさい事情を抱えている。
表向きは竜人領となっているが、政治面や経済面ではヒューマンが実質の支配者となっている。 ラムローダは竜人大陸の沿岸の近くにあり、三つの島で構成されている。
ラムローダを構成する上で重要なのは、三つの中で一番大きな島のラム島。
ここに商業施設、宿泊施設、観光施設に政治施設などに加えて、船や飛行船などの交通機関といった様々な施設が集約している。
二番目に大きな島のロール島にも商業施設や宿泊施設、観光施設もあるが、こちらは島内にある迷宮を探索する冒険者の為に作られた。
三番目、というか一番小さいのがダール島。
ダール島は最西部にあり、
最低限の宿泊施設だけが用意されており、この島を訪れる観光客は少ない。
だが未開の迷宮などがある為、一部の冒険者には需要がある。
そして今回俺らが探索するエルシトロン迷宮はこのダール島にある。
とりあえず俺達はラム島からロール島を目指す。
本当ならラム島の観光名所なども見たいところだが、今回は任務で来てるから、観光するなら任務が終わってからだ。
俺達はラム島の船着場からロール島へ小さな帆船で移動。
主な宿泊施設や商業施設はラム島に集中しているが、ロール島にも宿泊施設があるので、俺達はそこに泊まる予定だ。
ラム島の宿泊施設や商業施設は観光客や冒険者が多いので、人目を避ける為、あえてラム島ではなく、ロール島を拠点にするとの事。
二時間後。
俺達は無事にロール島に到着。
最初に泊まる宿屋を探す。
規模は中の上、あるいは中の中くらいの宿屋。
用心の為にあまり高い宿屋には泊まりたくないらしい。
とりあえず宿泊施設の周辺を適当に見て周り、それらしき宿を発見。
やや年季の入った木作りの宿屋だが、手入れは行き届いている。
兄貴が受付で問い合せたところ、ドアに鍵がかかり、室内にシャワー室があるそうなので、とりあえず初日はこの宿屋に泊まる事が決定。
部屋分けは当然男女別々。
二階に案内され階段の手前の部屋に俺、兄貴、ドラガン。
その左隣の部屋にアイラ、エリス、メイリンという部屋割りになった。
とりあえず俺達は貴重品だけ持って、背中のバックパックを降ろし、それぞれ部屋の中にあるクローゼットに押し込んだ。
まあ調度品の類は最低限しか置いてないが、悪くない部屋だ。
窓の外のベランダからは海が見える。
「とりあえず貴重品と最低限の武装だけして、このローダ島内で男は黒、女は茶色のフーデッドローブを購入する。 それから冒険者ギルドに向かうぞ!」
「了解ッス」「ああ」
と、ドラガンの言葉に従う俺と兄貴。
そして五分後に女子達と合流して、宿屋から出て、適当な防具屋を探す。
このローダ島には様々な迷宮が結構あるので、それを目当てに訪れる冒険者は珍しくない。 だからラム島内の鍛冶場で作られた武器や防具がここで出張販売されている。
でも俺達は既に装備は万全なので、それらを購入する必要はない。
とりあえず適当な防具屋に入り、兄貴が六人分のフーデッドローブを購入。
黒が男性用、茶色が女性用だ。
迷宮探索だけでなく、街中を徘徊する時はこのローブを纏え、との事。
三角帽子がトレードマークなメイリンが――
「ええ? アタシは既にローブ着ているから必要ないでしょ?」
「駄目だ。 他の奴等には極力顔を知られたくない。
迷宮探索中はその恰好でいいが、街中ではこれを着るんだ!」
と、抗議したが兄貴は頑としてそれを聞き入れなかった。
結局、メイリンは渋々ながら、兄貴達の命令に従った。
そしてその場で各自、フーデッドローブを纏い、冒険者ギルドへ向かう。
ローダ島内の冒険者ギルドは比較的小さな施設だった。
一応酒場も併設されているが、人はまばらだ。
中に入って目についたのは、受付嬢が左側と右側では違うという部分だ。
左側が竜人の女性、右側にはヒューマンの女性という具合に別れていた。
よく見ると併設された酒場内でもそのような光景が見受けられた。
酒場の左側の席に竜人が、右側の席にヒューマンを含めた三種族がそれぞれ陣取っていた。 目には見えないが、あきらかに境界線が引かれている。
「ああ、ここラムローダは竜人領だ。 だから基本的にどの施設でも竜人族用と他の三種族用に分けられている。 さっき見た街の行商も立地の良いところには、竜人が。 それ以外の三種族は立地の悪い所で行商するのが暗黙の了解だ」
「ふ~ん。 言われてみればそうだった気がする」
まあ話に聞く限り、竜人族はかなり排他的な種族らしいからな。
それに加えてこのラムローダの政治及び経済事情が絡んでいるのだろう。
実質、このラムローダは政治及び経済面はヒューマンが支配している。
まあそんな面倒臭い事情に巻き込まれたくないので、極力竜人達とは目を合わせないでおこう。 そうこう考えているうちに、俺達の受付の番が回ってきた。
「今日はどのような御用でしょうか?」
受付の女性は柔和な感じの美人だ。
やや癖のある栗色の髪と大きな胸が大人の女性特有の雰囲気を醸し出している。
だがそんな女性を目の前にしても、兄貴は相変わらず表情を崩さず――
「まずはこちらの紹介状に目を通して欲しい」
「はい。 ……!? しょ、少々お待ちください!」
そう言って受付の女性は奥に引っ込んだ。
そして三分後、彼女の上司らしき中年のヒューマンの男を連れてきた。
「どうも、私はこのローダ島のギルドの支配人ジョン・バルカスです。 ここでは何ですので、奥の客室へご案内させていただきます」
おお、凄い。 まるでVIP対応だ。
恐らく兄貴は伯爵夫人の紹介状を渡したのだろう。
あの女貴族、気に食わないが結構な権勢家のようだな。
そして奥の客室に案内されて、俺達は黒皮のソファに腰掛けた。
ジョン・バルカスと名乗った支配人は、俺達の対面のソファに腰掛ける。
「まさかこのような僻地でヴァンフレア伯爵夫人の御客人を招くとは、思いもしませんでした。 これを機にどうか御贔屓なさってください」
「世辞はいい。 用件に入ろう」と、兄貴。
「そうですか。 では単刀直入に申し上げますが、我々としましては、お客様方、『暁の大地』がエルシトロン迷宮を探索する事は、当然許可致します。 ですが、この紹介状に記載されている『暁の大地が迷宮探索している間は、他の
慇懃だがきっぱりとそう告げる支配人。
「ああ、それなら構わんさ。 俺も伯爵夫人の紹介状の内容までは、目を通してなかったからな。 俺達はただ迷宮探索の許可が出れば構わんさ」
「そう言っていただけると、我々としても大変助かります」
「だが支配人、一つだけ聞かせてくれないか?」
「はい、何でしょうか?」
「ここ最近エルシトロン迷宮で何か変わった事は起きてないか?」
という兄貴の問いに支配人は表情を消した。
そして支配人は表情を消したまま、
「いえ、特に何も聞いておりませんが、どういう意味でしょうか?」
「……ならいいさ。 とりあえず俺達は明日からエルシトロン迷宮を探索する。 それでは手間を取らせたな、支配人」
「いえいえ、また何かありましたら申し上げてください」
そして俺達はソファから立ち上がり、冒険者ギルドを後にした。
宿屋への帰り道の際に、兄貴がドラガンに――
「どう思う? あの支配人あえて情報を隠蔽したと思うか?」
「う~ん。 正直わからんな。 まあとりあえず迷宮探索の許可は出た。 後は宿に帰り、食事を取って、シャワーを浴びて寝るぞ!」
明日は朝の八時から出発するらしい。
俺達は宿屋の食堂で簡単な食事を摂り、部屋に戻って、それぞれシャワーを浴びてから、早いうちに部屋の照明を消して、ベッドに潜り込んだ。
いよいよ、明日からエルシトロン迷宮の探索だ。
そこに本当に竜魔が居るか、わからないが厳しい探索になりそうだ。
そして明日に向けて、俺は両眼を瞑り、早々と眠りに就いた。
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