第十一章 死闘の果てに
第52話 来世でまた会おう
第十一章 死闘の果てに
どくん、どくん。
心臓の鼓動が早まるなか、俺は全速力で走った。
全身に風の
だがあの十メーレル(約十メートル)を越える漆黒の巨人の一撃を受けた時点でほぼ戦闘不能状態になるのは明白だ。
故に一撃も攻撃を貰ってはいけない。
それに加えて可及的速やかにあの
だが相手も馬鹿ではない。
「ブラック、あのこそこそと動き回る鼠を叩き潰しなさい! それとジーク、マライア。 貴方達も
「わかったぜ!」「了解よ!」
女エルフは即座に状況を把握して的確な指示を飛ばす。
「ラサミス、俺達はまず周りの連中を始末するぞ!」
「わ、わかったよ、兄貴。 まずどいつから狙うんだい?」
「とりあえず赤髪の
「わかったぜ!」「わかったわ!」
そう言葉を交わしながら、俺達は全速力で間合いを詰めた。
そしてアイラがあのマライアという女に接近して、相対する。
「ラサミス、俺が左側から攻め込むから、お前は右を頼む!」
「了解!」
なる程、左右から挟み撃ちにするのか。
兄貴の指示通り俺は弧を描くように右側から攻め込んだ。
「ほう、短期間でこちらの弱点に気付くとは流石だぜ! だが俺達も馬鹿じゃない。 こういう展開を予想してないとでも思ったか? 残念だったな。 おい、今だ! 魔法をぶっ放せ!」
そう言いながらジークは大きく跳躍して、近くの巨人の右肩に乗った。
そして次の瞬間、空を裂きながら激しい風の刃が飛んで来た。
よく見ると巨人の後方で魔法使いらしきエルフの男女が待機していた。
俺は即座にサイドステップして風の刃を避けた。
だが弧を描いた風の刃はブーメランのようにこちらに戻ってきた。
再び迫ってくる風の刃。 避けるか、防ぐか。 いや――俺は即座に左拳に氷の
そしてこちらに向かって来る風の刃に向かって、放射状に氷塊を飛ばした。
すると風の刃と放射状に放たれた氷塊が激突する。
力と力……いや魔力と魔力がぶつかり鈍い衝撃音が鳴り響く。
これは所謂レジストという高度な戦術だ。 例えば火炎魔法に対して水魔法を使えば、このような現象が起きて相手の魔法を無効化する。
「なっ!? レジストしやがった!?」
巨人の右肩の上で驚きの声をあげるジーク。
この間隙を逃すわけにはいかない。 俺は再び全速力でダッシュする。 そしてジークを乗せた巨人を抜き去り、後衛に居る魔法使いに迫る。
「なっ!?」
目をむいて驚く男エルフの魔法使い。
それと同時に俺は右掌から炎を直線状に放つ。
驚き慌てふためく男エルフの魔法使い。
そこから俺は大きくジャンプして、両手を握り締めて、頭上から男の頭蓋骨に目掛けて、ハンマーナックルを繰り出した。
ごきんっ!
両手に鈍い感触が伝わる。
ジャンプした落下速度に加えて、頭部への渾身の一撃。
当然相手は一撃で戦闘不能になり、両眼が白目になっていた。
だがこれで終わりじゃない。 俺は相手を完全に戦闘不能にすべき、右足を振り上げて、渾身の右回し蹴りを男の首に喰らわせた。
ごきん、という嫌な音と共に男の首が変な方向へ曲がる。
これでまず一人。
「いいぞ、ラサミス! 喰らえ――ファルコン・スラッシュ!」
「きゃああああああっ!」
得意の剣術スキルを繰り出し、もう一人の女エルフの魔法使いを仕留める兄貴。 だが息をつく間もなく、再びダッシュして後方に待機する
「――ピアシング・ブレードッ!!』
と、技名を叫びながら、回転力を利かせた鋭い突きを放った。
そしてその鋭い突きが男の首元に命中。 続いて眉間にも命中。
「うおっ……ぐうおおおっ……」
と、呻き声を漏らして地面に崩れ落ちる
瞬く間に二人を切り捨てる兄貴。 流石としかいいようがない。
「残るはあの首魁の女エルフと
「お、おう!!」
身を低くして、ダッシュする兄貴。
それに続ように俺も身を屈めながら、地を蹴った。
「クソッ! こいつ等やりやがるっ!? おい、木偶の坊。 とりあえず一発かましてやれ!」
「うおおお……おおおおおおっ!!」
ジークに命じられて、
「うおっ!! ヤバい!!」
そう声を上げながら、俺は空中に逃げるべく大きく跳躍する。
だがそれを待ちわびていたように、ジークが手にした鞭を――
「そう来ると思ったぜ! 喰らいな、サンダーウィップ!!」
ヤバい!?
と思った時は既に時遅し。
ジークの紫紺の荊の鞭が俺の左腕に絡みついた。
それと同時に激しい電流が流れされた。
「う、うわあっ……ああああああっ!!」
「へへっ、こちらも任務なのでね。 悪く思うなよ」
クソッ……電撃で左腕が痺れる。
だが思いの他、効いていない。 そういえばこの胴着はドラゴンの皮が素材だ。 確か属性攻撃全般に耐性があった筈。
「ラサミス、油断しているんじゃない! ――ファルコン・スラッシュ!」
「おっと、そうはいかねえぜ!」
即座にこちらに目掛けて跳躍してきた兄貴。
それも計算のうちと云わんばかりに、俺の左腕に絡まった荊の鞭をあっさりと解くジーク。 そして口の端を持ち上げて――
「――行け! この至近距離で
ジークの言葉と共に大きく口を開ける
まずいな、音波耐性の耳栓があってもこの至近距離では流石に厳しい。
ならばここは逃げずに攻めるべきだ。
「う、うおおおおおおっ……さ、させるかああああああっ!!」
俺は覚悟を決めて、巨人の鎖骨部分を踏み台にして至近距離に接近。
そして左手で右腕を掴みながら、全力で右掌から放射状の氷塊を放った。
至近距離という事は相手も同じ。 更にはこいつは今弱点である口を開けている。 ならば後手に回るより、攻めるべきだ!!
「う、うごっ……うがあああ……ああああああっ!」
俺が全力で放った
この超至近距離で喰らえば、巨人といえど堪えるようだ。
一か八かの賭けだったが、どうやら成功したみたいだ。
「お、おい! 木偶の坊!? な、何してやがる……えっ!?」
「こちらも任務だから、悪く思うな。 ピアシング・ブレード!!」
「ぎゃ、ぎゃああああああっ……ああああああっ!!」
そしてこの最大の間隙を見逃す兄貴ではなかった。
ジークが気に囚われた隙に、巨人の右肩に飛び乗り得意の剣戟を繰り出した。
情け容赦ない一撃がジークの喉元に命中。 更に眉間に命中。
そして完全に止めを刺すべく、心臓部を貫いた。
大きく目を見開いたジークは刺突された箇所から、赤い鮮血を飛び散らせて、力なく後ろ向きに崩れて巨人の肩から落下。 数秒のスパンを置いて、地面から鈍い音が鳴り響いた。
悪いな、ジーク。
こちらも任務だから、悪く思うな。 来世でまた会おう。
「ラサミス、ボサッとするな! その巨人に止めを刺すんだ!」
「あ、ああ……わ、わかったよ!」
そうだな、感傷になんか浸ってる場合じゃない。
こいつ等は国境侵犯してきた侵略者だ。 故に情けは無用!
俺はまず巨人の左目に氷の
「ぐ、ぐあああ……ああああああっ!!」
当然の如く喘ぐ巨人。
更に今度は同様に氷の
巨人が両手で額を押さえながら、両膝を地につけた。
俺は巨人の鎖骨部分、膝元と素早く駆け下りて地面に着地する。
さてここから弱点の喉下か、口を狙うか。
と俺が思っていると、後ろからレビン団長が猛スピードで掛けて来た。
「やるじゃないか、流石は『暁の大地』だ。 だが卿らばかりに功績を譲っては、我等、
レビン団長は素早く巨人の左膝の上に飛び乗り、眉間に狙いを定めた。
そして手にした大剣を振るい上げて、巨人の額目掛けて垂直に振り下ろす。
「う、うぎ、ぎ、ぎゃあああああああああっ……ああああああっ!!」
「今、楽にしてやる。 止めだ。 スクリュー・スライダー!!」
至近距離で巨人の悲鳴を浴びながらも、レビン団長は怯まず両手で握った黒刃の大剣を
流石、栄えある
レビン団長の渾身の一撃を受けた巨人は口を何度か開閉させて、もんどりうって背中から地面に倒れ込んだ。
これで残る巨人は漆黒の巨人を含めて三体。
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