第42話 金鉱町の襲撃事件


 馬で行軍こうぐんする事、二日余り。

 俺達は二回の野営を重ねて、ようやくガルフ砦へ到着。


 正直思っていたよりも、時間がかかった。

 道中のモンスター達は、俺達『暁の大地』と山猫騎士団オセロット・ナイツ

 共闘でなんなく倒せたが、ポニーによる移動に手間取った。


 まあこれはある程度、予測していた事だから仕方ない。

 とりあえず俺達『暁の大地』が先頭に立ち、モンスターの索敵や誘導役を務め、釣ったモンスターを本陣まで引き込んだ。


 だが一度戦闘となれば、山猫騎士団オセロット・ナイツ猫騎士ねこきしの戦闘力はズバ抜けていた。 騎士団長のレビンは、ヒューマンや竜人のように身の丈より大きい黒刃の大剣を振るい、次々とモンスターを蹴散らした。


 彼の職業ジョブ猫族ニャーマンにしては珍しい生粋の戦士ファイター

 だが俺が見る限り、

 その戦いっぷりはヒューマン、エルフ、竜人に引けを取らない。


 闘気オーラを自由自在に操り、山猫という品種の潜在能力ポテンシャルをいかんなく発揮させていた。 素早い身のこなしで、モンスターの攻撃を次々避けて、高く跳躍して手にした黒刃の大剣を標的の頭部に振り下ろす。


 その野生的な戦い方は、まさに野に生きる山猫。

 猫族ニャーマン好きのエリスとメイリンも彼の豪快な戦いっぷりに目を瞬かせていた。


 そしてその騎士団長を補佐するのが副団長ケビン。

 騎士団長が防御役タンクと火力を務め、副団長ケインは補佐と回復役ヒーラーを兼任するレンジャー。 敵に対する妨害行動や魔法。 いしゆみで敵を狙い撃ち、手斧ておのを振るい接近戦もこなせる。



 そして絶妙なタイミングで治癒魔法を唱えて、補助や妨害工作、回復役ヒーラーを兼任できるのが強みだ。


 その戦い方は、派手さこそないが、実に手堅く堅実である。

 俺もレンジャーだから、色々と学ぶべき点がある。


 だが彼の本領が発揮されるのは、水上らしい。

 ケビンの品種スナドリネコは、猫としては異例で水を嫌わず、水上移動を得意とするらしい。


 そして騎士団長と副団長の的確な指示に従い、多くの山猫達が縦横無尽に動き回り、獲物を仕留める。


 その戦い方は、まさに獲物を仕留める野獣。

 山猫騎士団オセロット・ナイツの猫騎士の大半は、ボブキャットという品種で構成されている。


 なんでもこの品種が一番ポピュラーな山猫らしい。

 生息数も他の山猫に比べたら、随分と多いらしいので、基本的に猫族ニャーマンによる山猫の飼育や調教テイムはこのボブキャットを扱うとの話だ。


 他の品種は希少な上に、癖があるので、一般兵には向いておらず、飼育と調教テイムにも時間がかかるので基本的は、このボブキャットが主戦力らしい。


 何でも六百年前の魔族との戦い以来、今日まで長い年月をかけて、山猫に品種改良と調教テイムを重ねてこうして実戦に使えるまで、育て上げたとの話だ。


 物臭な猫族ニャーマンにしては、珍しく労力をついやしているが、恐らくいざという時の為の秘密兵器だったのであろう。 現に俺達と共闘する山猫騎士団オセロット・ナイツの猫騎士達は他種族と比較しても、勝るとも劣らない強さを誇っている。


 俺達は行く手を遮ったオーク、オーガ、キラービートル、ジャイアント・ビー、人食い蛇、半鳥人ハーピーなどの様々の魔獣や魔物を、猫騎士達と共闘して次々と葬った。


 山猫騎士団オセロット・ナイツの猫騎士達の勇猛な戦いっぷりに触発されて、俺も果敢に前線で戦った。 兄貴に教えられた闘気オーラを用いた戦闘法を実戦でドンドン試した。 そのおかげで闘気オーラの扱い方のコツも随分掴めてきた。 気が付けばレベルも二つ上がっていた。


 これで拳士フィスターのレベルは23。

 俺は自分の冒険者の証を手に取って眺める。

 加算されたスキルポイントは六ポイント。

 

 どのスキルを上げるか、しばらく思い悩んだが、

 結局、戦闘スキル闘気オーラの項目に全部割り振った。 

 すると『闘気オーラの総量十%アップ』の効果を習得。


 これで闘気オーラの総量が増えたから、戦い方にも幅が出そうだ。

 この闘気オーラの項目を一度上げれば、拳士フィスター以外の

 職業ジョブにも反映されるから、一度で二度おいしい。


 そして二度の野営を重ねて、ガルフ砦に到着。

 だが俺達が着いた時には、既に砦はもぬけの殻であった。

 とりあえず敵が居ないか、入念に砦の中を調べたが敵の姿はまるで見当たらない。


 だがいつエルフ領から、敵軍が攻めて来るかわからない状況。

 レビン団長とケビン副団長は、とりあえず本国に伝書鳩を飛ばしてから、即座に指揮下にある五十匹の猫騎士の半数にあたる二十五匹を砦の復旧作業に割り当てた。


 敵の魔法攻撃を受けたのか、砦の塁壁るいへきは結構痛んでいるが、

 土魔法を使えば、案外早く修復できそうだ。


 俺達も特にやる事がなかったので、復旧作業を手伝った。

 メイリンが「アタシに任せなさい」と云わんばかりに次々に壊れた塁壁を土魔法を駆使して修復する。 猫騎士の中にも土魔法を使える者が、結構居たので修復作業は思いの他、順調に進んで行く。


 そして疲れたところをエリスやアイラ、回復魔法が使える者達で一斉に回復ヒール。 再び復旧作業に戻る猫騎士達。


 今は拳士フィスターだから魔法が使えない俺は、同じく魔法が使えない兄貴と一緒に見張りをする。


 ドラガンは俺達と猫騎士達の食事の用意をしている。

 ドラガンは多芸で、生産スキルの調理のレベルも名人級。

 初級火魔法で火をおこし、砦内にあった調理用の大釜で大量のコーンスープを作り出した。


 作業が一段落して、俺達は軽い食事を摂った。

 ここ二日ばかりは、携帯食だったので、シンプルなコーンスープでも美味しく感じた。 いや実際に美味かった。


 調理スキルの有る無しで、ここまで変わるのか?

 俺は生産スキルは鋳造ちゅうぞうを取って以来、ほったらかしだったが、調理スキルを取ってみるのもいいかもしれない。


 いや止めておこう。 今は闘気オーラの鍛錬に専念しよう。

 ここで中途半端に調理スキルを覚えても、また器用貧乏になりかねない。

 俺は何でも幅広くやろうとする悪癖があるからな。 自重しよう。


 小休止を繰り返して復旧作業に戻る猫騎士達。

 その間にもレビン団長や副団長は残りの半数の猫騎士を引き連れて、周囲の哨戒活動をする。


 だが特に異変も起こらず、一日が過ぎる。

 本国から伝書鳩が帰って来て、紙片に――


「そのまま砦の復旧作業を続行せよ!

 尚、今後の行動は状況次第で現場の判断に任せる」


 とだけ記されていた。

 異変が起きたのは、翌日の夕方であった。


 白銀の鎧が半壊した負傷兵の茶トラの猫族ニャーマンが哨戒活動中に発見された。

 レビン団長はとりあえず負傷兵を砦まで連れ帰って、回復魔法をかけて、身体に包帯を巻いてあげた。 すると負傷が癒えた茶トラの猫族ニャーマンはこう叫んだ。


「た、大変ニャンです! こ、ここから北西の金鉱町レバルに謎の集団が襲撃をかけてきたニャ! 我々警備隊は団結して、謎の集団と交戦しましたが、物の見事に敗北。 特に敵の黒い巨人が強すぎたニャ。 あ、あれは化け物ニャ」


「黒い巨人だと? それは本当か?」と、レビン団長。


「はいですニャ! 巨人を操っていたのは、エルフの精霊使いエレメント・マスター魔物調教師モンスター・テイマーでした!」


 茶トラの負傷兵の言葉にレビン団長は、

 俺達やケビン副団長と顔を見合わせた。


「奴等は我々警備隊を撃破すると、町の荒れくれ鉱夫を焚き付けて、金鉱町レバルを強引に占拠したニャ! 私は何とか隙を見て逃亡に成功しましたが、町の中にはまだ多くの仲間が囚われていますニャ! このまま奴等を野放しにするのは、危険ですニャ!」


「話はわかった。 これからまた本国に伝書鳩を送るが我々は山猫騎士団オセロット・ナイツの半数をここガルフ砦に駐留させて、残り半数で金鉱町レバルの救援に向かうつもりだ。 内情に詳しい卿について来てもらえたら、助かるが同行してもらえるか?」


 レビン団長の言葉に茶トラの負傷兵は、一瞬顔を背けた。

 その表情から正直二度と戻りたくないという雰囲気を感じたが、

 数秒後には決意を固めた表情で――


「わかりました。 私も同行させていただきます。 私はレバルの警備隊員のマイクです。 噂に名高い山猫騎士団オセロット・ナイツに同行出来る事を光栄に思います!」


「うむ、期待しているぞ」


「団長、どうします? 私はこの砦に残りましょうか?」


「いや副団長、卿も同行してくれ! 我々の第一目標は

 漆黒の巨人の撃破及び確保だ。 まずそれを優先しよう」


「騎士団長殿、我々も同行してよろしいでしょうか?」


 ドラガンの言葉にレビン団長は大きく頷いた。


「そうしてもらえると助かります。 いかんせん敵の力量がわからない状況です。 戦力は少しでも多い方が助かります」


 こうして俺達は漆黒の巨人の討伐部隊に加えられた。

 向かうは、金鉱町レバル。


 マイクの話によると、ここガルフ砦から金鉱町レバルは、徒歩で一日ぐらいの距離との話だ。

 そこで俺達は馬で移動、山猫騎士団オセロット・ナイツもポニーで移動する。 これでレバルまで比較的早く到着できる筈だ。

 


 だが俺達だけでなく、山猫騎士団オセロット・ナイツも騎乗しての戦いには、不慣れなので、途中で馬とポニーから降りる予定だ。 何処か適当な場所で馬とポニーを木に繋いで、何匹かの馬達の見張り番を置いて、残り全員は徒歩でレバルに突撃する。



「各自準備はいいな。 途中で馬を降りて、そこからは徒歩でレバルに向かう。 こちらの存在を敵に察知されない為だ。 その事をよく頭に入れておけよ!」


 兄貴の言葉に残りの団員達が小さく頷いた。

 そして俺達はレバルへ向かうべく、それぞれ馬の手綱を手に取った。

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