第39話 山猫騎士団(オセロット・ナイツ)


 そして気を取り直した俺達はニャンドランド城へ向った。

 三十分後。

 門番に城門を開けてもらい、城の中へ入る。


 そしてまた多くの執事と侍女に迎えられて、初老のソマリの猫族ニャーマンに案内されて玉座の間に到着。


 玉座の間の扉が開かれて、俺達はゆっくりと中に入った。

 相変わらず部屋の中は豪勢な調度品で飾られていた。


 赤い絨毯。 豪華なシャンデリア。 歴代国王の肖像画。

 そして猫族ニャーマンにしては、随分と大柄な白銀の鎧を来た猫騎士達が左右対称に縦一列に並んでおり、長い一本道が出来上がった玉座まで絨毯を踏み締めて、ゆっくり歩く。


 確か彼らは品種改良された山猫で構成された騎士団だったよな?

 名前は……確か山猫騎士団オセロット・ナイツ


 確かに猫族ニャーマンにしては、随分デカい。

 ドラガンは体長六十セレチ(約六十センチ)くらいだが、

 この山猫の騎士達は体長八十セレチ(約八十センチ)以上ある。

 中には体長一メーレル(約一メートル)を越えた者も居る。


 多分かなり強いんだろうな。

 なにせ山猫だからな。 普通の猫とは違うもんな。

 彼等が猫族ニャーマンの戦力の大半を占めているのだろう。


 などと考えているうちに、玉座の前に到着。

 玉座には、金の王冠を被った豪奢な赤いガウンを羽織った

 初老のコラットの猫族ニャーマンが座っている。 

 彼が猫族ニャーマンの国王ガリウス三世だ。


 前一列に兄貴、ドラガン、アイラ。 

 その後ろにエリス、俺、メイリンと横に並んで、深々と頭を下げてから、

 俺達は恭しくその場に片膝をついた。


 すると王の傍に立つ黒いタキシードを着たシャム猫の大臣が右手を上げた。


「冒険者ドラガンとその仲間達よ。 

 本日の謁見の理由は何だ? 申してみよ!」


「ははっ! 実はエルフ族が所有する知性の実グノシア・フルーツに関する事でございます」


 と、ドラガンが答えると大臣が目を細めた。


「確か卿らを裏切った仲間がエルフの王に知性の実グノシア・フルーツが生る苗木を売りつけたのじゃな?」


「はい、左様です。 先日のニャルララ迷宮の戦いで裏切り者のマルクスは始末しましたが、奴がエルフ族に売った知性の実グノシア・フルーツはまだ現存しております」


「そうであったな、で卿らはどうするつもりなのだ?」


 探るような視線を向ける大臣。

 するとドラガンは兄貴とアイラと見合わせてから、こう答えた。


「国王陛下のお許しさえあれば、我々が責任を持って残りの知性の実グノシア・フルーツの後始末をつけたいと思っております」


「ほう、殊勝な心がけじゃな。 だが相手はエルフの王。 事の顛末によっては、種族間の争いになる危険性があるぞ?」


「はい、ですのでエルフ領へは侵入せず、何とか奴等が保有する知性の実グノシア・フルーツを処分したいと思う次第であります」


「なる程、陛下はどう思われますか?」


 と、国王に意見を求める大臣。

 だが国王は返事しない。 


 ふと視線を国王に向けてみると、

 国王は寝むそうな顔で涎を垂らしていた。


「ウニャニャ、タビだ。 ダビを持ってこいニャ」


 と、玉座に座りながら、寝言を言っている。

 流石、猫族ニャーマンの王様だ。 緊張感の欠片もない。


 大臣が「コホン」と咳払いして、「陛下、陛下」と

 声を掛けながら、王の身体を軽く揺さぶる。


「ウニャ? 何だニャ? 大臣」


「陛下、冒険者ドラガンとその仲間の前ですよ!

 もっと威厳ある態度をなさってください!」


 この大臣も結構大変かもな。

 初めてこの大臣に同情したよ。


「おお、ドラガン。 またちんに会いに来てくれたのニャ? 朕は嬉しいニャン。 いつでも遊びに来ていいのだニャン!」


「陛下のお心遣いに感謝しております!」と、ドラガン。


「で今日は何の用だニャ?」


「陛下、エルフ族が有する知性の実グノシア・フルーツに関してです。 どうやら彼らは自らの手で禁断の実の処分を望んでいるようです。 陛下のご意見を聞かせてください」


 と、耳打ちするように囁く大臣。

 すると国王は「ポン」と両手を叩いて、大きく頷いた。


「流石ドラガンだニャ! いい心がけだニャ!

 大臣、ならばあの件に関して話してやれ!」


「陛下がそう仰るのならば、私が彼らに説明しましょう」


「うん、大臣。 任せるニャ!」



 あの件?

 すると大臣が真面目な表情をして、次のように述べた。


「実は昨日、猫族ニャーマン領とエルフ領の国境付近にあるガルフ砦がエルフ族と思われる者達に襲撃されたのじゃ! 何でも敵は十メーレル(約十メートル)クラスの巨人を引き連れていたそうだ。 そしてその中の漆黒の巨人が異様な耐魔力を持ちながら、自動再生能力を有してたらしい」


 大臣の言葉で周囲の空気は一変した。

 ドラガンと兄貴とアイラがお互い顔を見合わせている。


 巨人か。 

 俺は実物を見た事はないが、噂によれば精霊使いエレメント・マスター

 魔物調教師モンスター・テイマーといった一部の上級職が巨人を含めた魔物や精霊を使役するらしい。


 魔物や精霊を使役する際には調教テイムして飼い慣らす方法と魔法陣から召喚して自らの魔力で、使役する二通りがあるらしい。


「それは少しばかり妙な話ですね。 確かに精霊使いエレメント・マスター魔物調教師モンスター・テイマーといった一部の上級職は、魔物や精霊を使役しますが、自動再生能力を有した魔物や精霊を操るという話は聞いた事がありません」


 と、兄貴が神妙な表情でそう告げた。

 すると大臣が首肯するように頷いた。


「うむ、確かに魔物や精霊の中には自動再生能力を有するものがいるが、それらの体長はそれ程大きなものではない。 体長が増えれば、それだけ体組織は複雑になるからな。 十メーレル(約十メートル)クラスの巨人がそのような能力を有している事など常識的に考えればありえぬ」


 そういうものなのか?

 まあでも人間に置き換えれば、わかりやすい話だな。

 簡単な怪我は治るが、永久歯などが折れたら、二度と生えてこない。

 まあ魔法を使えば、折れた歯があれば意外に簡単に治せるが。


 ちなみに折れた部分がない場合の治療はかなり難しい。

 最低でも聖人級せいじんきゅう、場合によっては帝王級ていおうきゅうクラスの魔法で治せるか、どうかという話らしい。


 尚、切断された手足に関しても、同等だ。

 故に手足を切断されても、すぐに冷却保存すれば魔法で案外なんとかなる。


 まあ人間の場合は治療する際にも色々条件が必要だが、魚類や肺虫類の中では、切れた尻尾がまた生えたり歯も生えてきたりする事は珍しくない。


「どうやら少々きな臭い話のようですな」


「うむ、ドラガンよ。 卿もそう思うか?」


 大臣の言葉にドラガンが小さく頷いた。


「そもそもエルフ族が何の策もなく、猫族ニャーマン領に攻め込んでくるとは思えません。 奴等には何か秘策があるのでしょう。 私が思うにそれが漆黒の巨人でしょう」


 と、ドラガン。


「うむ、ガルフ砦は既に陥落した。 その漆黒の巨人が本格的に猫族ニャーマン領に侵攻してくると、非常に厄介だ」


「大臣殿。 その漆黒の巨人の討伐を我々『暁の大地』に任せていただけませんでしょうか?」


「ほう、巨人討伐を引き受けてくれるのか?」


「はい、私の勘が正しければその漆黒の巨人は、知性の実グノシア・フルーツが与えられた可能性が高いです」


 ドラガンの言葉に大臣が「ううむ」と唸る。

 俺も思わずごくりと喉を鳴らした。


 もしドラガンの予想が正しければ、これは大問題だ。

 どういう形であれ、大元はドラガン達が知性の実グノシア・フルーツを見つけたのが、全ての発端。


 そしてそれを手にしたエルフ族が何らかの細工をした

 巨人を引き連れて、猫族ニャーマン領に侵攻。

 これは最早、種族間の問題となっている。

 

 このような事態を見過ごすわけにはいかない。

 俺ですらそう思うのだから、ドラガンや兄貴達も同じ心境であろう。 


「どうやら予想以上に危険な状況になりつつあるな。冒険者ドラガンとその仲間よ。 それでも卿らはこの危険な任務を引き受けるのか?」


「はい、全ての始まりは我等に原因があります。 この知性の実グノシア・フルーツにまつわる一件と決着をつけない限り、我々も気持ちの整理がつきませぬ! 故に我々は戦います!」


 大臣の問いに堂々と答えるドラガン。

 これに関しては、俺も同意見だ。

 流石は団長。 俺達の代わりに代弁してくれたぜ。


「うむ、卿らの誠意は汲み取った。 陛下が信じるなら、私も卿らを信じよう。 だが事は猫族ニャーマンの名誉にも関わる。 このような危険な任務を冒険者に押し付けて、胡坐をかく程、我等は厚顔ではない。 だから――」


 そこで大臣は一端言葉を切り、右手の親指をパチンと鳴らした。

 すると近くで待機していた山猫騎士団オセロット・ナイツの面々がこちらを向いた。


「我々はこの一件を山猫騎士団オセロット・ナイツに任せるつもりだ。 だから卿らも彼らと共闘してくれ!」


 大臣の言葉に即答は避けるドラガン。

 だが兄貴とアイラ、

 そして振り返り俺達を見てアイコンタクトを送る。

 俺達はそれに無言で頷いた。


「はい、我々でよければ、喜んで共闘させていただきます」


「うむ、よく言ってくれた。 

 シュトライザー団長、サンドラック副団長、こちらへ!」


「「はっ!」」


 大臣がそう言うと同時に、山猫騎士団オセロット・ナイツが陣取る列から二匹の猫族ニャーマンがこちらに歩み寄って来た。 体長一メーレル(約一メートル)以上の赤銅色しゃくどういろの甲冑を身につけた巨漢の猫族ニャーマンだ。 


 多分オオヤマネコという種類の山猫だと思う。 

 もう片方の白銀の軽鎧ライトアーマーを着込んだ

 猫族ニャーマンは体長八十セレチ(約八十センチ)くらいで

 その体色は灰褐色で黒褐色の斑点がある。


 こちらの山猫には見覚えがない。

 まあそもそも俺は山猫に関する知識はあまりないが。


「そちらのオオヤマネコが山猫騎士団オセロット・ナイツの騎士団長レビン・シュトライザー。 もう一方がスナドリネコの副団長ケイン・サンドラックである。 双方、挨拶せよ!」


「はじめまして、拙者が『暁の大地』の団長ドラガン・ストラットです」


「……どうも。 私が山猫騎士団オセロット・ナイツの騎士団長レビン・シュトライザーです。 以後お見知りおきを!」


山猫騎士団オセロット・ナイツの副団長ケイン・サンドラックです。 我々、山猫騎士団オセロット・ナイツは貴方達『暁の大地』を歓迎します。 お互い力を合わせて共闘しましょう」


 見た目通り迫力がある低い声の騎士団長レビンに対して、

 副団長ケインはやや腰が低いな。


 騎士団長と副団長と握手するドラガン。

 ドラガンも猫族ニャーマンにしては、大きい方だが、

 こうして並んでみると、身長差は歴然だ。


「騎士団長と副団長! 冒険者ドラガンと仲良くせよ!

 これは国王命令であるニャ! では大臣、後の事は任せたニャ!」


「はい、陛下!」


 それだけ言うと、国王ガリウス三世は玉座から立ち上がり、

 この玉座の間から退室して行った。



 王が退室するまで大臣や騎士団長や副団長が一礼していたので、

 それに習うように、俺達も立ち上がって一礼する。


 そして国王がこの場から完全に居なくなると、

 大臣が俺達を一瞥してから、



「ではこれから作戦会議を行うので、作戦会議室へ向うぞ!」



 その言葉に従い、俺達は大臣の後へついて行った。


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