第八章 山猫騎士団(オセロット・ナイツ)

第38話 見渡す限り猫族(ニャーマン)


 猫族ニャーマンの王都ニャンドランド。

 これでこの国を訪れるのは、三度目だ。

 最初は猫族ニャーマンばかりの状況に少し驚いていたが、

 流石に三度目ともなると慣れた。


 だがエリスとメイリンは相変わらずテンション高い。


「うーん、見渡す限り猫族ニャーマン。 絶景ですわ!」


「ホントですね、エリスさん。 アタシ、生きてて良かった」


 どうやらこの二人は三度目でも飽きない模様。

 どんだけ猫族ニャーマン好きなんだよ、お前等。

 まあ俺も好きな方だけどさ。


「ニャー、ヒューマンだニャ!」


「本当ニャ! 皆、気をつけるニャ! ヒューマンに捕まると、死ぬまでサーカスで働かせられるニャ!」

 

 周囲の子猫達は相変わらず警戒心剥き出しだ。

 だがエリスとメイリンは余裕気な表情だ。


「ふふふ、心配ないですわ! 私達は良いヒューマンですわ!」


「その通り! 我等、美少女コンビは永遠に猫族ニャーマンの味方よ!」


 エリスとメイリンが自身ありげにそう宣言する。

 つうか天下の往来で美少女発言はやめろよ!

 こっちが恥ずかしくなるからさ!


「なら証拠を見せてみろニャ!」


「証拠? いいでしょう、ならば見せてあげよう!」


 メイリンは芝居がかった台詞と仕草でローブを翻した。

 そして懐から何かを包み込んだ紙を取り出し、頭上に掲げた。


「な、何だニャ!? それは!?」


「いい臭いだニャ! うう、身体が引きつけられるニャ!」


「あ、アレは!? タビだニャ! 魔タタビだニャ!」


「う、うおおおおおお! タビをくれニャ! タビッ!!」



 次の瞬間、周囲の子猫達がエリス達目掛けて突進する。

 子猫にもみくちゃにされながら、エリスとメイリンは幸せそうだ。

 もっともこの子猫の懐柔策を提案したのは俺だ。


 二度目にこの国に来た時もエリス達は子猫から警戒され、

 しょんぼりしていた。 そこで俺がふと――


「なら物で釣れば良くねえ? 例えば魔タタビとかでさ!」


 と何気なく口にすると――


「そ、その手があったわ! 流石ラサミス!」


「アタシ、初めてアンタを天才と思ったわ!」


 という具合に余計な知恵をつけた美少女二人。

 そして餌で子猫を釣り、もみくちゃにされ満足そうな二人。

 だがしばらくすると周囲の行商の猫族ニャーマンが近寄ってきて――


「おい、ヒューマンの姉ちゃん達。 魔タタビで子猫を釣るのはご法度だぜ? 子猫が変な酔い方したら、あんた等責任取れるのかい?」


「「ご、ごめんなさい!!」」


 と、軽く説教されて即座に謝罪する二人。

 まあ当然といえば当然だよな。 大人の猫族ニャーマンからすれば、他種族が餌で子猫を弄んでいるのは、あまり気分良くないだろうからね。


 結局、魔タタビで釣る作戦は今回で終了。

 そして散り散りになる子猫。

 残されたのは、何処か疲れた様子の美少女二人。

 するとドラガンが「コホン」と軽く咳払いした。


「もう気は済んだな? お前等が猫族ニャーマンを思う気持ちは、有り難いが、度が過ぎると迷惑だ。 その辺を肝に銘じておけ」


「すみません」「ご、ごめんなさい」


 と、頭を垂れるエリスとメイリン。


「まあ彼女達も悪気があるわけではないから」


 と、さり気無くフォローするアイラ。


「それはわかっている。 でも今回は遊びではないんだ。 王の前では礼儀作法を通せよ。 恥をかくのは拙者だからな」


「「以後気をつけます、ドラさん!」」


「ドラさんじゃない!!」


「「は、はい、団長!!」」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る