第23話 ニャルララ迷宮(中編)


 前回訪れた時に兄貴達が迷宮の構造をマッピングしていたので、道中には迷わず俺達は順調に迷宮内を突き進んだ。 既に一階、二階の階段を降りて三階層と進んだが、今の所敵の気配がない。 兄貴達が云うのにはこの迷宮の最深部は第五階層との事。


 となると敵が仕掛けてくるなら、この三階層の可能性が高い。

 その俺の予想が当ったのか、先頭のドラガンが急にピタリと止まった。


「……敵の気配を感じる。 これは多いな。 ――皆、戦闘準備はいいな?」


「ああ、作戦通りで行くぞ。 基本エリスの神聖魔法で敵を浄化させるぞ。 エリスが魔力切れを起こさないように、ラサミスやメイリンが魔力回復薬マジックポーションを定期的に手渡せよ。 少々厳しい戦いになるが、みんな覚悟を決めて戦うぞ!」


 兄貴の言葉に俺達は従い、それぞれ戦闘態勢に入る。

 ちょうど通路が左右に分かれていた。

 左側にドラガンが、右側に兄貴が向い、身を隠しながら前方の光景を盗み見する。


「左側異常なし!」

「右側通路先に敵の存在を確認。 ……多いな。 予想通り悪霊や死霊などの不死生物アンデットだ。 どうする敵を避けて、左側から進むか?」


 と、兄貴がドラガンに問う。


「いやここは少しでも敵の数を減らすべきだ。とりあえずこちらから打って出よう」


「よしでは戦闘開始だ!  まずは拙者が光属性のフォースを皆にかける。 そして拙者とライルが先陣を切り、エリスは中間距離から神聖魔法を撃て! ――では行くぞ! 我は汝、汝は我。 我が名はドラガン。 猫神ニャレスよ、我らに力を与えたまえ! 『ライトニング・フォース』ッッ!!」


 そう呪文を詠唱しながら、ドラガンが剣帯から刺突剣を抜刀して頭上に掲げた。

 すると光のフォースが刺突剣の切っ先を覆う。


 更には兄貴の銀の長剣にも、俺の銀の戦斧、アイラの片手剣にも光のフォースが宿った。兄貴とドラガンが右側通路の先に飛び出し、先手を打った。


 続いて俺とアイラに護られながらエリスが前に出て、メイリンは後方待機。

 俺の視界に入っただけで、敵は八体以上確認できた。


 敵の形状は骸骨系スケルトン・タイプが五体。 

 幽霊系ゴースト・タイプが三体くらい。 

 そして兄貴とドラガンが疾風のような速度で骸骨系スケルトン・タイプと対峙する。


「ファルコン・スラッシュ!」「ピアシング・ドライバー!」


 兄貴とドラガンがそれぞれ技名を叫びながら、二足歩行の骸骨を剣で切り払う。


「ヴ、ヴオオオオオオォォォォッ!!」


 光のフォースの効果も相まってか、二足歩行の骸骨は苦しそうに悶えた。

 その間隙を逃すまいと、エリスが手にした銀の錫杖を前方に突き出した。


「我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 レディスの加護のもとに悪しき魂を浄化したまえ! 『セイクリッド・エクソシズム』!!」


 エリスの銀の錫杖の先から眩い光が放たれて、前方の二足歩行の骸骨を捉えた。


「ウ……オ……オ――――――――ッ!!」


 断末魔を上げて、二体の骸骨系スケルトン・タイプが浄化されて地面に崩れ落ちた。

 更にエリスが神聖魔法を連発する。


「我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 レディスの加護のもとに悪しき魂を浄化したまえ! 『セイクリッド・エクソシズム』!!」


 鎧を着た二体の骸骨系スケルトン・タイプ幽霊系ゴースト・タイプ一体に命中。 再び断末魔を上げて浄化される不死生物アンデット達。 これで四体浄化。 だが敵もエリスの存在に気付いた。


 魂の救いを求めるように、長剣と鎧を装備した骸骨系スケルトン・タイプを先頭にして、その後ろから幽霊系ゴースト・タイプ二体がエリスに襲い掛かる。

 だがその前にアイラが立ちはだかり、スキル『雄叫び(ウォークライ)』を発動!


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――『雄叫びウォークライ』……!!」


 周囲の大気が震えて、目の前の不死生物アンデット達も硬直する。

 俺はその隙を逃さなかった。 肩口から鎧の骸骨に強烈なタックルを食らわせる。 後方に吹っ飛ぶ鎧の骸骨。 そして俺は銀の戦斧の柄を強く握り締めた。


「『ローリング・ブレイク』ッッ!!」


 そう技名を叫びながら、俺は銀の戦斧を振り回して、一回転、二回転、三回転する。 一撃、二撃、三撃。 と、俺の銀の戦斧が敵を捉えて、吹き飛ばした。


 その間にエリスはメイリンから魔力回復薬マジックポーションを受け取り、すぐさま飲み干して魔力をチャージ。 そして再び銀の錫杖を突き出した。


「――行きますわよ! 我は汝、汝は我。 我が名はエリス。 レディスの加護のもとに――彷徨う魂に安らぎを! 『セイクリッド・レクイエム』!!」


 鎧の骸骨に命中! 幽霊系ゴースト・タイプ二体にも命中!


「ヴ……オ……オ――――――――――ッッ!!」


 苦しく悶える不死生物アンデット達。

 そして悶え終わると、何処か解放された感じで魂が浄化される。


 これで八体全部浄化。 とりあえず周囲から敵の影は消えた。

 自然と表情が綻び、やや弛緩した空気が流れる。


 だがその時、何か影のような物体がエリスに迫る。

 本能的に何か危険を察知した俺は「エリス、危ない!」と叫びながら、彼女に覆いかぶさった。 するとその影の中から人影が現れて、手にした短剣をエリスに振り下ろす。


 ヒュン! という空を裂く音と共に俺とエリスは間一髪でその刃から逃れた。

 俺は手にした銀の戦斧を握り締めて、その場で立ち上がった。


 その時、その影の中に佇む人影と目が合う。 

 蒼いフード付きのローブを着た銀髪碧眼のエルフの女だ。 

 美人だが表情が陰気で、他人を寄せ付けない空気を放っていた。


「……いい動きね。 その子は貴方の恋人かしら?」


 低い陰気な声だった。


「さぁね。 お前には関係ない!」と、俺はニヒルに答えた。

「ラサミス、どけろ! そいつが恐らく敵の死霊使いネクロマンサーだ。 ハアッッ、――食らえ! 『ピアシング・ブレード』ッ!!」


 兄貴がその銀髪碧眼のエルフの女に迫り、技名を叫びながら鋭い剣戟を繰り出す。 一撃、二撃と外れが、三撃目に女の右肩を僅かに抉った。


「グッ……やるわね。 アンタが噂のライルかい?」


「……そうだ。 俺の事はマルクスから聞いたのか?」


 兄貴の問いに銀髪碧眼の女は妖艶に笑う。


「そうよ。 彼は貴方と一騎打ちで戦い、勝つ事を望んでいるわ。 ふふふ、どうして男ってそういうくだらない事に拘るのかしらねぇ。 馬鹿みたい、クスクス」


「……俺は拘ってない。奴はただの裏切り者だ。それ以上でもそれ以下でもない」


「ふぅん。まあ私としてはどうでもいいわ。彼は最深部で待ってるわよ、うふふ」


「そうか、なら手土産として貴様の首を貰おう! ――『ファルコン・スラッシュ!』」


 再び鋭い兄貴の剣戟が繰り出された。

 だがその前に女は影の中に潜り込み、姿を消した。 

 そしてその影も即座に消え失せた。


「……逃げられたな。 恐らく簡易的な瞬間移動の類だろう。 死霊使いネクロマンサーは確かそういう魔法か、スキルを持っていた筈だ」


 アイラが兄貴の右肩に手を置きながら、そう言った。

 その手を軽く握りながら、口を真一文字に結ぶ兄貴。


「……奴が云うにはマルクスは最深部だ。 残り二階層、各自気合を入れて行くぞ!」

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