第4話 ゴブリン狩り
ハイネガルから徒歩で約三時間。
俺達は森を越えて国境付近の山の大半を茶色い岩肌が占めた禿山に辿り着く。
今回の標的であるゴブリンとコボルトは典型的な雑魚モンスターだ。
ゴブリンは体長百二十セレチ(約百二十センチ)程だが、基本的に群れで行動し、棍棒などの鈍器を使う。
動きは俊敏で、小柄ながらも凶暴で、子供や家畜を襲うので、こうして定期的に討伐依頼が発生する。 生息地は森から山道、平原、ダンジョンと至る所に生息する。
もう一つの討伐対象であるコボルトもゴブリンとほぼ同じ体長であり、
鋭い牙や爪を武器にする犬頭のモンスターだ。
生息範囲もほぼゴブリンと同じ。
よって二匹とも冒険者なら、目にする機会が多いメジャーな雑魚モンスターだ。 だが基本群れで行動し、知性もあるので連携攻撃なども仕掛けて来るので、油断していると痛い目に合う。 現に俺も
正直恥ずかしかった。
だが今日は三人パーティ。
まず大丈夫であろう。 というか苦戦したらまたメイリンに馬鹿にされる。
「ゴブリンやコボルトが目撃されたのはこの山道から頂上に向う付近みたいよ。 山道の脇にゴブリンやコボルトが生息しやすい小さな洞窟があると思うわ。雑魚とはいえ数が多い可能性が高いから、ここから先は油断しないで、気を引き締めて!」
と、メイリンが振り返りそう言った。
俺とエリスは視線を合わせ、無言で小さく頷く。
山道は見事なまでの一本道で、険しい岩肌の山の間をやや細い道が延びていた。
道幅は比較的余裕があるが、道の片方には荒々しい岩肌が立ちはだかり、
反対側は崖になっている。
この高さだ。 落ちたらまず助からないだろう。
俺達が早足で山道を登っていると、メイリンがピタリと足を止めた。
「近くに生命反応を感じるわ。数は一、二、三……結構いるわね。 多分ゴブリンか、コボルトよ。ラサミス、先陣をお願い! 敵の数を把握したら、私に教えて!」
「おう!」
メイリンに言われた通りに俺は先陣に立ち、剣と盾を構える。
久々の
ここは変にカッコつけず、
俺はやや心臓の鼓動を早めながら、標的が居るであろう
上り坂の角から顔を覗かせた。
――するとそこには軽く十匹以上のゴブリンやコボルトの群れがいた。
こいつは正面からやり合うと少々骨が折れそうだ。
俺は振り返り、両手の指で十を表すジェスチャーをする。
「……十匹以上ね。 これはアタシの魔法で奇襲して一気に蹴散らせた方がいいわね。 こちらに向って来た敵をラサミスが食い止めて、……じゃあ行くわよ?」
「おう!」「うん」
俺とエリスが返事すると、メイリンが前方に躍り出た。
そして手にした魔法の杖を振りかざして――
「――行くよ、ウォーター!!」
と、魔法を詠唱して、前方に群がるゴブリンやコボルトの足元に
大量の水を生成した。
急遽水をかけられたゴブリンやコボルト達が慌てふためく。
その間隙を突くように――
「今よ、『
メイリンが凍結魔法を詠唱すると、ゴブリン達の足元が一面の氷に覆われた。
「なるほど! 見事な頭脳プレイだ!」
「メイリン、すご~い。 ゴブさんがコロコロ転んでるわ!」
ゴブリンやコボルト達は生成されら氷の上で盛大に滑り転んでる。
「うふふ、これくらい朝飯前! これからが本番よ!」
メイリンは手にした魔法の杖をくるくると回して魔力を高めた。
「我は汝、汝は我。 我が名はメイリン。 風の精霊よ。 我に力を与えたまえ! ……ハアァァァァァ、――行けえええぇぇぇ『ウインド・ブレード』ッ!!』
全ての魔法はそれぞれ固定された呪文を術者が詠唱すれば効果を発動するが、
自身の名前を名乗り、それぞれの種族の崇める存在の名をあげれば、
魔法の威力と精度は更に増す。
余裕がある時は少々長いがこのように詠唱する方が効果的である。
メイリンの魔法の杖の先に魔力が溜まり、渦巻く風が吹き出した。
そしてかまいたちのような鋭い風の刃となって、氷上のモンスター達を襲う。
「ギギャッ!! ギャギャギャー!!」
ゴブリンとコボルトが奇声を上げて、飛び交う風の刃で切り刻まれる。
一匹、二匹、三匹……合計十匹が瞬く間に絶命。
残るは二匹。 これなら楽勝と思いきや、相手も意地を見せる。
倒れた仲間の屍を踏み台にして、一匹のゴブリンがこちらに猛接近!
ドタドタと地を蹴り、棍棒を片手にゴブリンが迫って来る。
「――よし、ここは俺に任せろ!」
「当然でしょ? キッチリ自分の役割を果たしなさい!」と、メイリン。
「了解! 来い、ゴブ野郎!!」
俺の手には刀身八十セレチ(約八十センチ)のロングソードが握られてる。
冒険者に成りたての頃に、無理して買った一品だ。
だが
恐らくコイツも不本意だったであろう。 だから今日は存分に働いてもらう。
「グ、グオオオオオオオオッ!!」
奇声を上げて、目の前のゴブリンが手にした棍棒を振り回す。
俺はそれを鉄の盾で防ぎながら、反撃の機会を待つ。
仲間を殺されてゴブリンは激高している。 無闇やたらに棍棒を振り回す。
だが所詮はヒューマンの子供くらいの身長だから、力比べでは負けるわけがない。そしてゴブリンが大きく振りかぶった瞬間、俺は強く地を蹴った。
一瞬で間合いを詰める。
俺のロングソードがゴブリンの心臓に食い込む。
「ガアアアアッ!!」
と、断末魔を上げて地面に倒れるゴブリン。
基本的にモンスターは魔石を
その魔石が破壊されれば、生命活動に終止符を打つ。
大体のモンスターはその心臓部に
だから基本的に攻撃の際は、心臓部か、頭部を狙うのが定石だ。
これで残り一匹。
だが間を置かず、ゴブリンと同じ様に屍を踏み台にしてコボルトが襲い掛かってきた。
俺は焦らず、冷静に盾を構えて、両手の爪を振り回すコボルトを食い止める。
ゴブリンと違い、武器を使わず爪や牙で攻撃するコボルトだから、
こうして鉄の盾で守ればまず安全だ。
カン、カン、カンと敵の攻撃に合わせて、リズム良く盾で防ぐ。
コボルトが「ウグォォ」と小さく呻き、後方にジリジリと下がる。
所詮は知能の低い低級モンスター。 こうして攻撃を封じれば何も出来ない。
そしてこの絶好の機会を逃す程、俺はお人好しでも間抜けでもない。
「――くたばれ、犬頭!」
ロングソードの切っ先がコボルトの喉笛を切り裂いた。
「ギャ、ギャインッ!?」
前のめりに崩れるコボルト目掛けて、俺の膝蹴りが顔面に命中!
ボキッという音と共にコボルトの犬頭がとんでもない方向に向いた。
これで全滅。 我ながら悪くない動きであった。
そして俺は手にしたロングソードで、死骸となったコボルドの胸を抉る。
それから胸部の中心にある、輝く小さな結晶の欠片を摘出。
これが魔石だ。 この魔石には不思議な力が宿っており、
色々な方面で使われる為に、冒険者ギルドなどに持っていけば換金が可能だ。
だがこんな小さなサイズじゃ売り物にならないな。
魔石は大きい程、純度が高い程、冒険者ギルドが高値で買い取ってくれる。
まあ今回は大体のモンスターは、メイリンの魔法攻撃で倒したから
魔石も消し炭と化してるから、魔石の採取はやめておこう。
「意外とやるじゃん、ラサミス! いいキックだったわよ!」
「そいつはどうも! メイリンの連続魔法も凄かったぜ!」
「うんうん、メイリンもラサミスも凄い! 私だけ何もしてないわ!」
「それじゃこの調子で一気に片付けるわよ!」
「おう!」「うん!!」
それから先も基本的に俺が
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