第3話 冒険者ギルド
翌日の正午、冒険者ギルド。
冒険者ギルドは冒険者に仕事を斡旋したり
あるいは支援したりする組織。
ここだけでなく、世界中の至る所にある巨大組織だ。
冒険者はここで冒険者登録する事によって、様々な恩恵を受ける事が出来る。
但し登録の際には、それぞれの種族が信仰する神や神祖と契約を結ぶ事になる。
ヒューマンなら、女神レディス。
エルフはエルフ族の神祖エルドリア、竜人の神は何だったかな?
とにかくそれらの神と契約を結ぶ事によって、レベルアップやステータス強化、武器スキルや魔法が強化されるといった恩恵がある。
よほどの事がない限り、冒険者の証を剥奪される事もないし、
契約を結ぶといっても、形式的なもので特に大きな縛りはない。
だからほとんどの者が自分の種族の神と契約を結ぶ。
数少ない掟の一つが魔法を使用する際に、
自分の名前と信仰する神の名を叫ぶぐらいだ。
こうする事によって、使用する魔法の威力や精度が増す。
これに関しても、絶対条件ではない。
ただこうすれば、威力と精度が増すので、そうする者は多い。
しかし
だが
暗黒神と契約を結び、闇の力を得るという話を聞いた事がある。
そして、ここ王都ハイネガル――正確にはハイネダルク王国城下町ハイネガルは
人間――ヒューマンで構成された街だ。
神話に出てくる『
大幅に向上した猫――
魔力に長けたエルフ族の国エルドリア。
更には龍族の末裔である竜人のドラゴニアなどの国が
この世界――ウェルガリアにひしめき合っている。
神話によると、太古のウェルガリアには
人間――ヒューマンしか居なかったらしい。
そしてヒューマンが神から与えられた
食べ、知性を得たと同時に楽園から追放されたとの話だ。
楽園から追放されたヒューマンは団結して国家やコミュニティを形成。
瞬く間にヒューマンがこの大地の支配者となった。
だが支配者になると余計な真似をするのが生き物の
馬や犬などの家畜に対して、ただの愛玩動物であった猫に王族の
誰かが
すると猫は知性が格段に上がり、なんとヒューマンの言語を理解して、
喋りだしたらしい。 それに面白がって王族は同じ真似を続けた。
すると続々と知性の高い喋る猫が地上に溢れ出した。
最初のうちはヒューマンと喋る猫は友好的関係であった。
王族や貴族の余興として喋る猫のサーカスがウェルガリア中で大流行。
だが猫はヒューマンより魔力が強く、魔法を得意とした。
次第に水面下で結束して喋る猫の集団は独自のコミュニティを形成。
そして遂には「ヒューマンから独立を! 我々猫は人と変わらぬ! 我々は
「所詮は猫!」と完全に高をくくっていたヒューマンだが、
両者の戦いは百年も続いて、ようやくヒューマンが折れる形で停戦された。
とはいえヒューマンには「所詮は猫!」という思いが強く、
魔法研究を重ね、異世界とのゲートを開くカオスゲートを呼び出した。
その異世界から現れたのがエルフや
ヒューマンは彼らと歩み寄り、生意気な
エルフは美しく気高くヒューマンを蔑んだ。
竜人は「我ら
彼らはヒューマンと歩み寄るどころか、
自分達の国家を作り上げて、更にはヒューマン相手に戦争を仕掛けてきた。
これによってヒューマンは更に自分達の領土を失い、僻地へと追いやられた。
だがここでヒューマンは都合よく
――この世界を守る為、
という非常に都合の良い言葉。
だが根が単純で素直な
そしてヒューマン、
この戦争は四大種族第一次戦争と呼ばれ三百年続いた。
だが狡猾なヒューマンは
押し付けて、淡々と自分達が有利になるように根回しをした。
高い魔力を持つエルフ。 強い戦闘力を誇る戦闘種族竜人。
知力と魔力は高いが、所々に猫特有の甘さを持った
この四種族からなる戦いはその後もウェルガリア全土で長く続いた。
そして狡猾なヒューマンは虎視眈々と自らが頂点に立つ機会を待った。
だがこの四種族による争いはなかなか終焉を見せなかった。
それにヒューマンは業を煮やした。
そこでヒューマンはとんでもない過ちを犯すのであった。
事もあろうにヒューマンは新たなカオスゲートを
開いて、魔界へとの道を開いた。
これには流石にエルフも竜人も
魔族を初めとした魔界からの使者がウェルガリアに溢れた。
そして魔王と呼ばれる魔界の支配者が地上に君臨して、
無差別に戦争を仕掛けた。 ヒューマンは最初この魔界からの住人を利用して、
他種族との争いを有利にしようとしたが、彼らは予想以上に知性が高く、
何より血を好む残忍な性格であった。
瞬く間にウェルガリアは血塗られた大地と化した。
このままでは種族が――いやこの世界が滅びる!!
と、本能で悟ったヒューマン、
そして彼らは自尊心を捨てて、生き残る為に団結した。
ヒューマン、
そして二百年に及ぶ時を得て、ようやく魔界のゲートを封じて、
魔界からの住人も一つの大陸に封印した。
それが現代で「
そして終わる事のない戦いに疲れ果ててた四種族は、それぞれ不可侵条約を
結んで他国に干渉する事無く、己の国の再建に力を注いだ。
これが今から六百年以上前の出来事だ。
それからも小さないざこざはあれど、一応このウェルガリアは平和になった。
だが平和主義の
竜人は隙あれば、このウェルガリアを支配しようと目論んでいる。
そして魔界からの住人を「暗黒大陸」に封印したものの、
封印しそこなった魔族やモンスターが世界各地に溢れた。
当然各種族武力を持って制圧したが、
強い繁殖力を誇るモンスターの駆除に悪戦苦闘した。
その結果、生まれたのが冒険者と冒険者ギルドという概念だ。
要するにそういう職業と組織を作って、面倒事を庶民に任せたという話だ。
しかし長年虐げられてきた庶民にとっては、絶好の成り上がる
冒険者となり、世界各地を飛び回り魔族の生き残りやモンスターと戦った。
これは国や王族、貴族が想像していた以上の出来事であった。
そしてモンスターと戦うだけでなく、
貴族や王族の頼みを受ける冒険者も現れた。
小さな雑事から国の暗部ともいえる汚れ仕事、
更には財宝や秘境の探索及び調査。
そうこうする内に王族や貴族をパトロンとして
活動する冒険者や
冒険者という職業に夢が生まれ、世界各地で老若男女問わず冒険者が急増化。
結果、冒険者との仲介役的な組織として冒険者ギルドが生まれたのである。
冒険者は
それと俺はこう見えてD
もっとも殆どは一人で黙々と低レベルのクエストをこなした結果だ。
だからとてもじゃないが人様に自慢できる類の話じゃない。
確かエリスとメイリンはC
ちなみに各種族ごとに独自の言語や貨幣制度は存在するが、
基本的に言語や貨幣制度は、ヒューマンの文化に合わせている。
端的に云えば、ヒューマン言語が共通言語に該当して、
貨幣制度も基本的にヒューマンが扱うグラン貨幣が主流だ。
昔は各種族ごとに独自の言語や貨幣制度に拘っていた
部分があったらしいが、経済活動となると色々面倒になりがちだ。
まあ良くも悪くも、ヒューマンはこの世界の最初の住人。
もちろん今でも各種族ごとに言語や文化を大切する部分は存在するが、
こと経済活動や言語に関しては、統一、共通化する方が
便利なので、現在ではヒューマンの文化をベースにしている。
その冒険者ギルドの掲示板には様々な種類の依頼の張り紙が展示されていた。
――人や家畜を襲う森に生息するレッサーウルフの群れの討伐、五十万グラン。
――国境付近のゴブリン、コボルトなどのモンスターの駆除、四十五万グラン。
――ラピッドラビットの捕獲。 一羽千グラン換算。
――娘に裁縫スキルを教えて欲しい―― ※要、国宝級以上の裁縫職人に限る。
レッサーウルフの群れか、少し厳しそうだな。
この面子だと俺が戦士するしかなさそうだ。
メイリンの魔法で一気に仕留められた楽そうだが、メイリンは持久戦に弱い。
となるとゴブリンやコボルト退治の方がいいか?
流石にパーティ組んで兎狩りはしたくない。
というか確実にメイリンに笑われる。
ちなみに一番下にある裁縫スキルとは戦闘スキルとは別にある生産スキルだ。
それぞれの職人ギルドで職人登録すると、
そのギルドに適応した生産スキルが覚えられる。
人気があるのは上記の裁縫、武器や防具などを作れる鋳造、
冒険以外にも役立つ調理など。
ちなみに俺は鋳造。
尤も大して才能もなく、出来る品物に対して、材料費の方が高いので、
最初にスキルを取ってから殆ど鍛冶仕事はしていない。
というか国宝級の職人ってハードル高すぎ!
上から二番目のクラスじゃねえかよ。
「なーに、一人で呟いてるのよ? 気持ち悪いわよ、というかアタシにも見せてよ!」
メイリンが俺の肩を押しのけて、掲示板の前に近づいた。
「う~ん、大したクエストがないなあ。レッサーウルフの群れか。
ラサミスが戦士で
「それが無難と思うぜ。こっちは三人だし、あまり高難易度のクエストは無理だろ?」
「……アンタ、まさか兎狩りしたいとか言わないわよね?」
ジト目でこちらを見るメイリン。
「い、言わねえよ! べ、別に好きで兎狩りしてるわけじゃねえから!」
「わかってるわよ、そういう低レベルのクエストしか出来ないからでしょ?」
「お、おう。 最近は主に
「ハア、アンタねえ。 最初の
耳が痛い言葉だ。
そう、何もわかっていなかった頃の俺の戯言だ。
「あのね、ラサミス。 アタシはね、別にアンタが何をやらせても微妙で器用貧乏の生きた見本である事を責めたりはしない。 むしろ、器用貧乏って褒め言葉でもあるのよ! 何でもそれなりにこなすってのは長所よ。 でもそれにヘソ曲げて一人でウジウジしながら最弱モンスター狩る根性が気に入らないのよ! わかる? 要するに心の問題よ!」
返す言葉がない。 メイリンの言葉は図星であった。
「あ、ああ……要するに負け犬根性だったんだ。 色んな
「ふぅん、自分でわかってるんだ? ならまだ大丈夫ね。 とにかく今日はアタシとエリスという頼もしい美少女の仲間が居るんだから、アンタも男らしい所みせなさいよ!」
説教しながら、サラッと美少女と言う精神はある意味羨ましい。
「メイリン、ちょっと言いすぎよ! ラサミスも気にしてるんだから! 後、自分で美少女言わない!」
と、エリスがフォローしてくれた。
「エリスの優しさは今のラサミスの為にならないよ!
ある程度厳しい言葉を言って『何を!!』と思わせるくらいじゃないとダメよ。
それと美少女は事実だから!」
「そ、そこは譲らないのね」
「うん、譲らない」
と、(平原のような)胸を張るメイリン。
「ま、まあいいわ。
とりあえず皆でこのゴブリン、コボルト退治しましょ!
国境付近だから少し遠いけど、今から行けば夜くらいには帰って来れるわ」
「了解。 んじゃ俺が
「「うん」」
二人の返事を聞いて、俺はギルドの受付口まで行って、
自分の冒険者の証を差し出した。
この冒険者の証があれば、
レンジャーから
レベルが22から15に変化。
モンスターなどを倒して得られる経験値は、
基本的にこの冒険者の証に記録されている。
このウェルガリアにおいて生物であれば、
どのような存在も魂という概念を持っている。
つまりモンスターを倒してモンスターの魂を吸収して、
経験値に変換するという事だ。
そして経験値が上がればレベルが上がり、スキルポイントなどが得られ、
それを自由に割り振る事が可能。 基本的にその
象徴するような
転職時に使えなくなる場合があるが、
常時効果が得られるパッシブスキルは転職しても有効である。
例を上げれば戦士はレベル10で「筋力+10」のパッシブスキルを覚える。
戦士だけでなく、どの
一応四職鍛えた俺は僅かながらも、その恩恵を受けている。
尤も転職すれば新たな装備が必要となるし、古い装備が邪魔となる。
そういう邪魔な装備や大切なアイテムも冒険者ギルドの預かり屋で
保管してくれるのだ。 勿論、無料ではないが、
冒険者としては必要不可欠なので皆、手数料を払っている。
俺は預かり屋で自分が保管していた装備を預けて、
戦士用の装備を受け取った。 やや値が張ったロングソード。
中古の古びた鉄の盾。 銀色の鎖帷子などの防具。
それを久々に装着して、鏡の前で自分の姿を確認してみる。
身長176セレチ(約176センチ)、兄貴と同じ銀色の髪。
顔はまあ悪くないんじゃないかな?
ちなみにエリスは銀の錫杖と白い法衣姿。
メイリンはいつも通り黒いローブに紺色の三角帽子を被っている。
何処から見ても
……うーん。 一応俺も見た感じ戦士っぽいな。
このロングソードは結構頑張って買ったんだよな。
でも剣術の
「おっ! 意外と様になってるじゃん!」
と、メイリンが品定めするように俺をジロジロ見た。
「懐かしい~、駆け出しの頃を思い出すわ。
剣と鎧似合ってるわよ、ラサミス!」
「そ、そうか?」
二人に褒められて悪い気はしない。 今日はちょっと頑張ろうかな。
「んじゃ早速出発!」
と、メイリンが叫んで俺とエリスは後に続いた。
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