セオと僕の出会いと別れ
加藤ゆたか
出会いと別れ
「たこ焼き、たこ焼き。」
そう歌いながら、セオがたこ焼きのタコを用意している。
西暦二千五百五十年。人類が不老不死になって五百年が経つが、人間の営みは変わらない。セオはたこ焼き器をテーブルの上に置いて、たこ焼きの材料をたこ焼き器に入れると準備完了と言った。青い髪の少女セオは僕のパートナーロボットだ。僕の娘ということになっている。
「今日はどうしたんだ? こんな大がかりな機械まで用意して。」
「お父さん、今日はお客さんが来るんだよ!」
「お客さん?」
ピンポーン!
「お邪魔しまーす。」
「あ、きたきた!」
セオが玄関まで迎えに行くと、一緒に背の低い眼鏡の女性と背の高い男性型ロボットがリビングに上がってきた。
「今日はセオちゃんにお招きいただきまして、ありがとうございます。」
「ああ、商店街の道具屋の……。」
「道具屋じゃなくて修理屋です。誤字だから訂正しておいてください。」
「あ、はい……。」
二人は荷物を部屋の隅に置くとテーブルの前に座った。セオはなぜ急にこの修理屋の女性を家に呼んだんだろう? 何も聞いていなかったのだが……。
「お父さん。修理屋のお姉さんは、引っ越しちゃうんだって。だから、私、お別れ会をしたかったの。」
「そうだったのか。」
「前の職場から呼ばれてしまいましてね。この町に住んだのは五十年くらいかな。まあ、あの店は私の所有なんで、用が済んだらまた戻ってこようかと思ってはいますが。」
セオが慌ただしくたこ焼き器のスイッチを入れて、コップに飲み物を注ぎ修理屋の女性に渡す。セオは女性の隣に座った。
「意外と、部屋キレイですね。」
「そうです! 私が毎日掃除してますから! お父さんは何にもしないの!」
「へぇ……。」
修理屋の女性は僕の方をチラリと見たが、その後はずっとセオの方を向いてセオと会話をしていた。僕はセオと女性が楽しそうに話しているのをただ眺めていた。家の中に他の人間がいるのはどうも落ち着かない。僕が突っ立っていると、女性と一緒に来た無口な男性型ロボットのジョンが僕に着席を勧めてくれた。
テーブルの上のたこ焼き器がくるくると回転を始めたので、僕はそれに集中することで気を紛らわせることにした。蓋を外すとたこ焼き器から焼き上がったたこ焼きが飛び出してくる。僕はたこ焼きを逃がさないようにささっと皿で受け止める。考えてみれば、テーブルを囲む四人のうち、たこ焼きを食べるのは人間の僕と修理屋の女性だけだ。ロボットは食事をしない。僕は次々と出来上がるたこ焼きの処置に困り、しかたがないので女性の目の前の皿にも乗せた。
「どうも。」
修理屋の女性は一言だけ礼を言うと、たこ焼きを食べ始めた。
「うん、よく出来てるね。修理した甲斐があった。」
「はい、お姉さんに修理してもらってから我が家でも大活躍なんです!」
このたこ焼き器はセオが数ヶ月前に突然どこからか持ってきたものだった。僕はたこ焼き器なんて使ったことがなかったので物珍しさもあり、最初は毎週、今も月一くらいの頻度で使っている。
セオはあれもこれもと、自分の部屋からいろんな道具を持ってきては修理屋の女性に見せていた。
僕はたこ焼きを食べ終わると、皿を片付けてたこ焼き器も仕舞った。僕だって家事が出来ないわけではない。いつもはセオがやりたいようにやらせているだけだ。僕はセオと修理屋の女性との会話には入れないので、そのまま皿洗いまでやってしまうことにした。
「セオちゃんとは違う部屋で寝てるんですか?」
「え?」
急に後ろから声をかけられて僕はビックリした。振り向くと修理屋の女性がすぐ近くに立っていたが、顔は僕ではなく自分の部屋でガサゴソと何かを探しているセオの方を向いている。
なんだ、急に? 僕は少し考えてから答えた。
「そうですけど何か……?」
「私はジョンと同じベッドで寝てますよ。ジョンは私のパートナーロボットなので。」
「……そうですか。」
別に僕はよその家の事情には興味は無いのだが。
「セオちゃんはお父さんと一緒に寝たいって言わないんですか?」
「……たまには言いますけど、あの子は見た目ほど子供じゃないので。」
「ふーん。一緒にお風呂には入ってるのに?」
「え? セオはそんなことまで言ってるんですか?」
修理屋の女性は変わらず僕を見ずに、壁を指差して言った。
「あっちの壁。おそらく中が雨漏りでカビてますね。修理した方がいいです。」
「……はあ、そうですか。」
「よかったです。セオちゃんの家を訪問できて。ありがとうございます。」
「……はあ。」
修理屋の女性はそれだけ言うとまたテーブルの席に戻っていった。セオが部屋から戻ってきてまた女性に何かの道具を見せている。
今度はジョンが僕のところまで来て、無言でテーブルまで来るようにとジェスチャーをした。ジョンは無口だが表情は多様で、今も笑顔で僕を見ている。僕はジョンには好感を持っていた。
僕がジョンに連れられて席に戻ると、ジョンは白い箱を取り出してテーブルの上に置いた。ジョンが白い箱を空けると中には小さなケーキが四つ入っていた。
「セオちゃんはお父さんの誕生日もお祝いしてほしいって言ってたんですよ。」
修理屋の女性が言った。
「うん。実はサプライズにしたかったの。お父さん、お誕生日おめでとう!」
「あ、ありがとう。」
満面の笑みのセオとジョンと、どこか違うところを見ている修理屋の女性。僕は照れて顔が熱くなった。そうか、誕生日。こんな風に祝われるのは何百年ぶりだろう。いつもはセオにお祝いの言葉を貰うだけだった。ケーキはセオが食べられないので買わなかった。
「まあ、長い人生には出会いもあれば別れもありますから、ずっと同じではないですから、こういうことだってあるんですよ。」
修理屋の女性はそれだけ言うと、先にケーキを食べ始めた。
僕もケーキを食べた。セオとジョンは自分たちの分も食べてと言って僕の前に置いた。僕はケーキを三つ食べた。多い気もしたが何故か食べきれた。
それから、修理屋の女性とジョンはセオの部屋で少し遊んだ後、帰っていった。
後日、商店街に寄った時、修理屋のシャッターが閉まっているのを見た。僕はそれを見て少し寂しく思ってしまった。永遠は少しのきっかけで変化してしまう。それでも僕らは永遠を続けないといけないのだ。
セオと僕の出会いと別れ 加藤ゆたか @yutaka_kato
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