第9話 過去の傷

ルゥーンはまず、魔女としての魔法の使い方を覚えなければならない。

なぜならば、魔女と人間は全く魔法の使い方が異なるためだ。

そして、魔女は人間よりも遥かに魔力が高く、生きている間は永遠と増え続けるのだ。そして、その器も大きくなっていく。しかも、魔女は一定の年齢としになると、老いることがなくなる。病気や毒などでは死ぬことはなくなり、ほとんど不老不死と言っても過言ではない。

そのため、魔女を殺すのは至難の業だったという。

まあ、そんな魔女でも絶滅してしまったようだが。


「レーヴェン、まずは何をすればいいの?」

「まずは、魔力からだな。他人の絶望と自分の絶望を魔力にして上手く取り込むことが出来なければ魔法は使えない」


ということなので、レーヴェンに取り込み方を教えてもらおうと、手を握る。


「…ルゥーン?なぜ手を握ってるんだ?」

「だって、こうしないと魔力がわかんない」

「そう…だな。まあ、取り込むのは比較的簡単だ。自分の中の思い出から引き出せばいいだけだからな」


そう言われて、ルゥーンは自らが絶望した時を思い出す。

何度も何度も蹴られて殴られて。辛くて悲しくて、苦しくて、誰か自分を救い出して欲しいとずっと願っていた。


「は、はあっ、はあっ、はっ、うう、嫌だ。辛い、苦しい!」

「ルゥーン!?」


(苦しい苦しい苦しい!!辛い辛い辛い辛い辛い!!どうして私だけがこんな仕打ちを受けなければいけないの!?私は何も悪くないのに!!どうしてなの!?誰か助けてよ!私をここから救ってよ!!助けてよ!!もう嫌だよ!!死にたい!死にたいよ!!)

ルゥーンの心の中は、絶望の記憶で埋め尽くされていた。

そのことをすぐに見抜いたレーヴェンは、慌ててルゥーンに魔力を取り込むことを止めさせようとする。


「ルゥーン!!しっかりしろ、気を保て!!魔力を取り込むのを止めろ!」

「……レーヴェン、う、あぁ、わた、私、たす、けて。ずっと、側に、いてっ…」

「ルゥーン。落ち着け。私は側にいる。ずっと側にいるから」


その言葉に、ルゥーンはようやく安心したようで、まだ苦しげながらも笑って、倒れてしまった。

レーヴェンはすかさずルゥーンを抱き止める。


「すまない、ルゥーン。私のせいで……辛いことを思い出させてしまった」


レーヴェンは、罪悪感に苛まれてしまった。

ルゥーンは気絶したようだ。このままというのもなんなので、レーヴェンはルゥーンをベットに運ぶことにした。


「……なぜかは知らないが、ルゥーンは懐いてくれている気がする。…嬉しいな。吸血鬼の王というだけで昔は忌避されていたというのに」


ルゥーンを見ているととても温かい気持ちになるが、レーヴェンはそれが嫌じゃなかった。むしろ、ルゥーンがもっと自分に甘えてくればいいのにとも思う。


(ルゥーンがもっと私に依存してくれればいい。ルゥーンの視界から私以外が映らないように。辛い過去も忘れるほどに、私だけのことを考えていればいい)


レーヴェンは、そんなことを考えながら微笑んでいた。

その笑みは艶やかでとても甘やかで、とても人とは思えないほどに美しかった。

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