声なき声の代弁者

暗黒騎士ハイダークネス

第1話

『出会い』と『別れ』


 多くの場合はそれで終わりな言葉だろう。


 でも、僕はこれには次にこの言葉をつけ足してもいいと思うんだ。


『出会い』『別れ』『再会』


 出会って、別れて、また会えたらうれしい。


 でも、それができないことは多くあると思うんだ。


 いつ死ぬかわからないこんな世界です。


 突然街で強盗に殺された。


 魔物に食い殺された。


 疫病にかかり、苦しみ死んだ。


 権力者に見初めされ、夫と別れさせられ、失意のまま死んだ。



 死んだときのためを思って、遺書を書ける人なんて、この世界には多くない。


 言葉で想いを伝える世界なんだ。


 だから、僕に会いに来る、会いに行く人たちは僕に多くの言葉を託すんだ。


 残してきた家族に励ましを。

 残された恋人に別れを。

 託した友に感謝を。

 そして、、、恨んだ犯人を殺すための証言とかをね。



 そんな場合は、僕の手には余るから、縁あって、知り合うことになってしまった騎士団の偉い人に話を持ってくよ。

 僕に会いに来る人はよほどの酷い死に方をした人か、よほどその生者を恨んでいる人だからね。

 荷が重すぎるんだよ、僕1人の力で解決できることなんてね。

 拷問が趣味とか、連続殺人犯とか・・・ハハハ、、、手に余るよね。


 僕にとって、死者は身近な隣人だ。

 良き理解者であり、信頼できる友人であり、、、そして、1か月と少しで2度と会えなくなる別れが来る人たちだ。


 どうも、周りに見えないものと会話している僕をみんなは怖がってしまうからね。

 生きている友人なんて片手の指で数えられる程度な悲しいものさ。

 でも、周りには彼らがいる。だから、寂しいなんて気持ちなんてなかった。


 ただ友人に、恩返しを。

 そうして、始まったのが死霊魔術師まがいのこと。

 外法なんてものや、ゾンビなんてものは一切使えない。

 ただ僕にできることは死者の声を生者に伝えることだけだ。




「死人に口なし」

   を

「死人に口あり」



「声なき声を届けるもの」なんて、そんなふうに誰かからそう語られ始めた。



 僕はそんな噂されるような凄いような人物なんかじゃない。

 ただ・・・そうただ、かわいそうなんだよ・・・彼らは。

 誰にも聞かれず、ただただ後悔だけを並べる彼らは。

 誰かに想いを伝えようとしている。

 誰かに助けを求めている。

 そんなに俺のことで悩まないでくれと嘆いている。


 そんな彼らの助けに僕はなりたかったんだ。


 ある時は神官に追い回されて、またある時は異端審問官に襲われたり、またまたある時は、帝国貴族の不正みたいなのを暴いてしまって、衛兵隊とかに捕縛されかかったり・・・あはは。


 でも、僕は生者にとっては悪役でいいんだよ。


 ただ僕は、僕だけは声なき声に耳を傾けていなきゃいけない。


 声なき声の代弁者・・・それがこの僕だから。

















帝国歴247年 ある1人の男が処刑された。


その男は多くの人物を詐欺で騙していたそうだ。


記者にその人の友人はこう一言だけ語ったそうだ。


「死人に口なし」と。

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