第20話 地球へ走れ、ヒカル

 今回は範囲を広げ、1キロ四方に雨を降らせる。その雨はヒカルが地球に帰るまで止むことはない。

 アシェリアは空中に浮かび、全身が光を帯びる。

 力の発現と光には相関があるのだろう。臨界した核分裂性物質が青い光を放つように、彼女も強い力とともに光るのだ。

 巫女たちも老シャーマンも連れてきてはいない。瞬間移動を使ったのだ。 

 全回復したアシェリアの力は凄まじかった。瞬間移動を繰り返し、ボグワートから数秒でここまでたどり着いた。

 ふと、この力が地球にあったときのことを考える。

 この力があれば、数分で要人を太平洋の向こうまで送れるだろう。あるいはホモ・サピエンスなら、敵国の首都に核爆弾を送り込むかもしれない。

「始めるよ」

 アシェリアが言う。

 ヒカルが通れるワーム・ホール以外はすべて無視する。

 ヒカルは霧がないかあたりを見つめる。

 何時間経っても変化はない。

 ヒカルのポケットには三十枚ほどの硬貨が詰まっている。あのあとボグワートの人々が徹底的に捜索して、見つけられる硬貨はすべて見つけた。

 ヒカルはそれらの地球の物質とともに地球に還り、イシュタルと地球の繋がりを断つ。

 ヒカルはときどきペットボトルの水を飲んだ。

 アシェリアは何も口にしていない。宙に浮いたまま、ゆっくりと回転し続けている。

 太陽が昇りきり、傾き、森が薄暗くなる。夜が近い。

 今日は駄目かと諦めかけた頃、頭の中に唐突に声がする。

『来た』

 刹那、ヒカルは深い霧の中に飛ばされた。夢中で霧の濃い方に駆け出す。

『走れ! ヒカル!』

 アシェリアの声がする。

 呼吸も忘れて懸命に走る。ポケットの硬貨が音をたてる。

 すぐに視界は真っ白で何も見えなくなる。

 ありがとう。さようなら、アシェリア。

『さよなら、ヒカル』

 その声を最後に、ヒカルの意識は混濁した。


 何かが見える。

 空の上だ。

 二人の男女。見覚えがある。

 でも誰だろう。思い出せない


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