軍人の回顧

甘木 銭

軍人の回顧

 こうしてゆっくり話すのはいつぶりだったかな。


 まずは、お疲れ様だ。お互いな。


 思えばお前との付き合いも長くなったもんだ。

 徴兵されて、俺達が隊に配属されてからだから、もう五年か。


 お前が三つ隣の村の出身で、故郷が近いからってのがきっかけだったな。


 いや、前置きが長くなった。

 今日の酒はこれだ。


 わざわざ地元から送って貰ったんだ。

 お前の村でもよく飲んでたって聞いてたからな。


 遠慮なく飲め。

 懐かしい味だ、これが一番美味いよな。

 肴もある、好きにつまんでくれ。


 この五年、俺達は戦ってばかりいた。

 隣国に攻め込み、大陸を横断し、海を越えて、各地を転戦してきた。


 手柄も立てた。

 金と名誉は得られたが、使う暇が無くてな。

 こんな風に、たまに手に入る酒が数少ない贅沢だ。


 徴兵の直前に妻を貰ったが、ほとんど会えていない。

 顔も覚えられていなかったらどうするかな。


 帰ったら泣かれるだろうか。

 もしかしたら今も泣かせているか。


 そう考えると、お前みたいに結婚しないままってのも悪くないかもしれんな。

 怒るなよ、皮肉じゃない。


 本当に、色々あった。


 俺の方が出世が早かったな。

 これも事実だぞ?

 ずっと俺の方が階級がひとつ上だった。


 まあ、ここでお前に抜かれるとは思っていなかったが。

 命まで助けられちゃな。

 俺の完敗だよ。


 しかし、手柄を焦る余り色々マヒしていたんだなと今になって思うよ。

 だってそうだろう?


 敵国の兵士なんか何も思わず、ゴミみたいに殺してきた。

 しかし味方が死んだらこの鬼畜どもめ、なんて激昂しているんだ。


 向こうから見れば鬼畜は俺達なのにな。

 彼らにも友人や、帰りを待つべき家族がいたんだと思うと胸が痛い。


 まぁそういう心ががマヒしていなければ、とても戦争なんて出来ないんだけどな。

 他人を思いやるなんて、そんな心の余裕を持っていていい訳がない。


 他人の幸福を壊して自分が利益を得るのが戦争なんだからな。

 お国のためってのは、自国以外はどうなってもいいってことだからな。


 全てが終わってから、ようやくこのことに気がつくんだ。

 いや、気がついていても、知らないふりをし続ける。


 無意識にしろ、意識的にしろ。


 いや、こんなことが言いたい訳ではなかったんだが。

 少し酔いが回ったのか。

 ……あるいは、安堵しているのだろうな。


 しかし、お前に守られるとは思っていなかったよ。

 潜んでいた敵兵に気が付かないなんて、俺も衰えたものだ。


 しかし、お前も衰えていたんじゃないか。


 俺なんかを庇うために、急所に弾を……


 お前に守られたのに、結局俺も足をダメにしてしまった。

 一生杖が手放せないらしい。


 故郷に戻る用意をしているんだ。

 お前も一緒に連れて帰るよ。


 遺族の涙も、俺が全て受け止めるつもりだ。

 幸い金は手元にある、後のことは心配しないでくれ。


 安らかに眠れ、友よ。









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