第8話 地球の皆さんこんにちは

 三原は、起きてすぐに冷水で顔を洗った。

 寝不足のせいか、どうも顔が浮腫んでいた。


 昨夜は、週末とはいえ随分と盛り上がって、床についたのは四時過ぎだった。

 ハン店長が盛り上がってる皆に気をきかせて、営業時間を伸ばしてくれたのだ。

 彼は今日も仕事だろうに、遅くまで付き合わせて悪い事をしてしまったと後悔した。


 三原はそろそろ真面目に小説の続きを書こうと、パソコンに向かった。

 最近はどうも筆の進みが悪い。

 というのも、三原は勧善懲悪な話が好きなのだが、悪を上手く表現できない。つい、全てを良い方向に持っていきたくなるのだ。


 物語は今、主人公が苦境な展開にあたり、こいつをどう苦しめたものかと考えあぐねていた。

 今回はきちんと主人公を苦しめてやろうと努力しているのだが、おかげで話がまったく進まないのだ。


 ちびちびと書いては書き直してとしている間に、宇宙船のカウントダウンは一時間をきっていた。

 三原は小説を諦めて、飲み物とツマミを用意した。

 SNSも大いに盛り上がっている。

 あと三十分、あと十分、と皆で数字を追って、ついに〇になった時、ホログラムが変形し始めた。


 『人類の皆さん。こんにちは』


 続けて文字が変形した。


 『人類との友好のため親善大使を任命する』


 急に言葉が流暢になったことも気になったが、とにかく、この宇宙人が表向き友好を望んでいることは、これではっきりとした。

 しかし、親善大使の任命とは、いったい何をどうするつもりなのか分からない。


 これからどんな展開になるのか、中継を観ていると、宇宙船の上部から小さな何かが現れてパッと消えるのが見えた。

 ホログラムには、新しい文章が現れていた。


 『危険なものではありません』


 先ほど現れた何かについての説明だろう。

 三原は、随分と気遣いのできる宇宙人だな、と感心した。


 じっと今後の展開を見守っていると、窓からコンコンと音がした。

 家鳴りのような音だったので、三原は気にとめなかった。

 しかし、再び窓からコンコンと音がした。

 なにやら嫌な予感で固まっていると、また音がする。


 三原はおそるおそるカーテンを開いてみた。

 なんと、どういう訳か、ベランダに黒い球体が浮かんでいた。


 先ほど宇宙船から飛び出してきたものだというのはすぐに察しがついた。

 しかし、なぜ自分の部屋のベランダにいるのか、という理由はどうしても分からなかった。

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魂の侵略者 ~ハイスペックな宇宙人が来て平和な世界が実現しそうだけど人類は反抗期なのでした~ 日出而作 @poponponpon

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