第7話 待ってる時間が一番楽しい


 奇妙な挨拶文が消えて、次の一文が表示された。


 『24.00.00 友好』


 数字はカウントダウンしていた。

 この数字が時間を意味しているということは、誰もがすぐに察しただろう。

 しかし、友好という言葉は、素直にそのままの意味で受けとめて良いものか迷ったに違いない。

 三原は嬉々として、ハンコーヒーに駆け込んだ。

 疎らにいる客達も皆、タブレットを観ながらあれやこれやと言い合っていた。


 「ハン店長、観た?僕の勝ちだね」

 「ええ、いや、驚いた。本当に」


 そう言ってすぐにアイス珈琲をカウンターに出した。


 「これはハン店長の奢りね。そして、悪いから今日はお代わりを頼むよ」

 「それはありがとう。しかし、友好ってなんでしょうね?友好的だって意味だろうか」


 横で話を聞いていたバイトのマキが話に加わってきた。


 「友好は友好でしょ。きっといい宇宙人なのよ」

 「こんばんは、マキちゃん。僕も同じ考えだね」

 「三原さん、こんばんは。きっとそうよね。店長はさっきから暗い事ばかり言うのよ」

 「カウントダウンされるとどうも悪いイメージが……〇になった瞬間に宣戦布告されるとか……」

 「店長は心配性なんですよ」

 「そうそう。こんなに明日が楽しみな日は無いよ。今日は眠れそうに無いから何杯だって珈琲が飲める」

 「皆さん、これ見ました?日本の宇宙船もカウントダウンしてますよ」


 そう言って、隣にいた男まで話に加わってきた。

 彼も顔馴染みの客だ。


 男が話に加わったことを皮切りに、他の客達も加わってあれやこれやと語り出した。

 あまり他人に話しかけるという事を良しとしないのは、この国の習わしだが、この日ばかりは誰もが宇宙船の話をしたくてウズウズしていたようだ。

 こんなに店が賑やかになったのは始めてだろう。


 ハン店長は楽しげな客達を嬉しそうに眺めていた。

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