「なんだよ、オマエ、そんなしょうもない日本のアイドルの曲を有難がってるのかよ。本物の音楽ってのはUKにあるんだよ、UK!」
みたいな価値観こそが幼稚だと思っています。(2022年9月23日『カフネ』)
これは私ですかつての。
もちろん相対的に他の曲を下げはしませんでしたが、聴くものがUKロックに偏っていた一時期がありましたわたしにも。
邦楽もUK以外の洋楽もちゃんと聴いておりましたが、それはひとえにバイト先がずっと有線をかけていてくれたお蔭です。
既存の楽曲を自分の小説のテーマ曲にしたり、登場人物に個別のイメージ曲をあてがう人は多いのではないでしょうか。
プロの方もやることのようで、漫画「BLEACH」の作者が「BLEACH」キャラのイメージ曲を公表しています。
その曲をCDに焼いたものを昔もらったのですが、選曲のセンスが良くて、今でも肝心の「BLEACH」本編を知らないまま聴いています。
なぜにこうも私好みに寄った選曲なのだろうと想っていたところ、アニメ版「BLEACH」のEDに浅井健一「Mad Surfer」が採用されていたことを知りました。
わたしは浅井健一のファンです。
なんとなく作者もそうなのではないかと想っています。
さて「テキストDJ」です。
カクヨムから小説を一篇選び、紹介しながらラジオDJのようにハヤシダさんがお喋りして、最後に曲が出てくる構成になっています。
曲はその小説に合ったイメージ曲を選んでいるわけではありません。
──こんなネット小説を読んだんです、それでね、こんなことを想うんです。
喋るうちに、今日はこの曲の気分だなと選ばれているようです。
つまり或る小説を読み、読んだことから流れ始めるハヤシダさんの想念がその曲を選び取っている。ということは、末尾に紹介された曲からハヤシダさんの語りを読み、小説を読む逆走も可能なわけです。
意外な曲もハヤシダさんの語りを間に挟むことで、繋がりを帯びて聴こえるようになっています。
ほとんどPVもないような小説も選んでおられますから、もしかしたら貴方の小説も紹介されているかもしれません。
その選曲の幅の広いこと。
知らない曲が多くて、最初のうちは目次がすべて曲名であることが分からないまま眺めていました。
タイトルが「テキストDJ」。
ラジオから流れる声に耳を傾けるようにして読者はハヤシダさんの語りを読みます。即興性が高く、生の声に近い感じで読めるあたりも「テキストDJ」にぴったりです。
貯め込んできた素材(音楽)と表現(小説の感想)の融合。
このエッセイはハヤシダさんの代表作にして、カクヨムの名物になるのではないでしょうか。
ところがです。
おしゃれなDJブースというよりは、残念なことにこれは男性の居酒屋です。
壁には昔の渋い男優や、【ガンダムTHE ORIGIN】ランバ・ラルのポスターが貼ってあり、たばこの煙がたゆたい、おそらく奥の隅っこには丹下段平が日本酒を抱えてうずくまり「明日のために……ジョー……」と呟きながら寝ている。
「居酒屋ハヤシダ」には併設にバーカウンターもあり、そこではテキーラが格好よく出されます。
集っている主に男性リスナーの方々も、
「おっちゃん、あんな、うちの小説にはイケメンの王子さまが出てくるん。薔薇の咲く呪いの村があってな」
なんていうファンシーな話を持ち込まれても困るでしょう。この店にいる女性はハモン・ラルさんこそが相応しい。
女性の方々はおとなしく「居酒屋ハヤシダ」の壁ごしにDJハヤシダさんの熱い創作論を聴き、紹介されている小説や曲を帰宅してからこっそり楽しむのがおすすめです。
入店は叶わなくても、わたしも隅で呟いていました。松任谷由実のカバーなら、エレカシ宮本浩次さんの「翳りゆく部屋」が好きです。「恋人はサンタクロース」の歌唱も宮本節としかいいようのない仕上がりです(2022年9月16日『やさしさに包まれたなら』参照)
さて、そろそろ私も締めの挨拶に何か曲を紹介しなければなりません。
このような幅広い曲リストを作られる方に、いったいどんな曲を紹介すればよいのか皆目分からない。
開き直って選んでみました。
それでは聴いてください。
SHERBETS【COWBOY】。良かったら、YOUTUBE等で(略
『テキストDJ』――ラジオパーソナリティのトークのように言葉が編まれ、最後に曲を紹介するというスタイルのエッセイなのですが、これがすごく面白い!
エッセイの魅力って、作者の体験や視点、物事の切り取り方、捉え方、考え方等に触れられる点にあると思うのですが、このエッセイはまさしくそうした魅力に詰まっていて、読んでいると、つい頷いてしまったり、あるいは膝を打ちたくなったり、なるほど〜とリアクションしたくなるような面白さが詰まっています。
また、「今回はどんな曲が紹介されているのかな?」とワクワクできるところも嬉しい。
テキストは、すらすらと読みやすく非常に洗練されており、「読んで」いるはずなのに、まるで「テキストを聴いている」ような心地になって引き込まれます。
ぜひ、あなたも『テキストDJ』のリスナーになってみては?おすすめです!