これしかない！

第1話どこかで

退屈ではない。

欲しい物もなかった。

でも....足りないと思った。

新聞の折り込み。日曜日になると求人広告が入る。僕はそれを見るのが好きだった。

何者にもなってないから何者にもなれる。

色んなバイトがあるけれど。時給が高いのもあこがれるけど。正社員に目が行く。

30歳だ。もうなんとかしなくちゃ。

最初はなんともならなくても。頑張ってなんとかしなくちゃ。

気ばかりあせる。プライドだけしかない。

昔付き合ってた彼女に言われたことがある。

パン屋さんぽいね。

ぽっちゃりしてるからだろ。ジャムおじさんに似てるからだろ。なんとなくなんか食ってそうだからだろ。

そーか。パン屋さんか。

食べるの好きだ。食べ物は作りたい。

パンはおいしいとは思うがご飯党だ。

でも、パン屋さんか。悪くない。

職人ってかっこよさそうだ。

何者でもなくても、頑張れば何かになれそうだ。

手に職つける感じ....30歳でも大丈夫かな？

パン屋の求人かー...安い。時給はどこもかなり低い....。

でも、何者でもないんだから。初心者なんだし。ここからだ！

久しぶりの面接。アルバイトの面接なのにスーツを着た。今思えばちょっと恥ずかしいが、気合いのあらわれだった。

店長は気さくな感じ。にこにこしながらこう言った。

「俺、ご飯党なんですよね～」

あ、一緒だ。ご飯党でもパン屋になれるんだ。

次の日から僕はパン屋になった。