第2話 のじゃロリドラゴン
「本当に一人でいいのか?」
「誰かと一緒に行っても、相方の安全を保証できないからな」
別に足でまといとかそういう理由じゃない。
ただ単にもしものとき、俺が相手を守れるという点において確実性がないからだ。
もしかしたら想像以上の強敵が出るかもしれないし或いは危険な魔族が住処としていることも考えられる。
山の斜面にぽっかりと開いたダンジョンの入口。
しばらく誰も立ち入っていないのか、大量の草が生い茂っている。
「そうか……。まぁアレンなら簡単には死なないよな?」
「もちろん。簡単にくれてやるほど安い命でもない」
クレフ、ミラ、サリアに見送られながら俺はダンジョンへと潜った。
さてまずは第一階層、何が出るかな?
普通に考えればコボルトとかゴブリンとかモンスターの中でも低階級の個体が出てくるはずなんだが……。
「【
とりあえず暗闇でも視界が効くように視界を闇へと適応させる。
そして、
「【
半径数十メートル程度の範囲の敵を索敵できるよう第六感を強化。
これで余程、隠蔽性の高いモンスター及び魔獣以外は先手をとって対処出来るはずだ。
しかし――――――第六感に何の反応もなければ視界にも映らない。
結局、第一階層の端まで来たがコボルトの一体すら出てこなかった。
そのまま第二階層、第三階層とどんどん下へと向かうが一向にモンスターは現れなかった。
そして歩き続けてついに最下層に到達。
「さすがにここには何か居てくれよ…?」
このままだと俺のダンジョン経営計画は開始初日の初手でおじゃんということになってしまうかもしまう。
所詮、思いつきなのだからそれはそれで仕方がないと思うが。
最近は誰も寄りつかないから『過疎のダンジョン』って呼ばれてるんだっけ?
モンスターがいないから『過疎のダンジョン』の間違いなんじゃないのか?
前に堂々と
今まで所々にあった過去に訪れた冒険者達の亡骸もこの周囲には落ちていない。
ということは前人未到ということか。
これ、魔法でぶち破るのが正解なのか、身体強化で押し開けるのが正解なのか……。
そう考えていると、
ギィィィィッ―――――。
「え?」
見たこともない聞いたこともない現象に思わず漏れる困惑の声。
なんと扉が内側から開いたのだ。
ものすごい土埃が周囲に立ち込める。
俺の【
土埃が収まるとさらに予想の斜め上の光景が目の前に展開されていた。
なんと深紅のドラゴン(かなりの上位個体)が他のモンスターを庇うように立ちはだかっている。
そして―――――人間の言葉を発した。
「頼む、命だけは取らないで欲しいのじゃ!」
「は?」
再び漏れる困惑の声。
「ひぃぃぃ殺されるのじゃぁぁっ」
ドラゴンは涙目になりながらバタついた。
人に懐くこともなければひれ伏すことも無いドラゴンが人間一人相手に泣き喚く……前代未聞の出来事だ。
「ほれ、妾のことは好きにして構わぬ!こやつらだけでも逃がしてやってくれぬかの?後生じゃから!」
ドラゴンは、そういうと目の前でいたいけない少女の姿になった。
「いや、あの殺す気はなくてだな……」
「なら、すぐに殺さず死ぬまで嬲り続けると申すか!?鬼畜じゃぁぁぁ」
全く俺の話を聞きそうにないドラゴン。
「ほれ、妾は人の姿になれる、夜伽もできるぞ?二千年も生きてて一度もしたことないけど……」
めそめそしながらそう言った少女に
「いや、お前たちが生きていてくれただけで俺は嬉しい」
このダンジョンに棲んでいたモンスター達が今、俺の前に無傷でいるのだ。
これからダンジョン経営を行う上で、最良の条件とも言える。
方々からモンスターを集めるなど変質者と疑われかねない。
オマケに俺の顔はそこそこ知れているからそんなことは出来ないし……。
「どういう意味なのじゃ?」
生きていて嬉しいという俺の言葉に人族の言葉を理解できる一部のモンスター達は、こちらを見た。
「実を言うと、これからダンジョンの経営をしようと思っていてな?」
「ケイエイ……?」
「そうだ、お前達と共にこのダンジョンを使ってお金を稼ぐ。在りし日のこのダンジョンの賑わいも取り戻せるかもしれない」
俺の言葉に深紅のドラゴン、もといのじゃロリは目を輝かせた。
「人族達が驚き怯えるあの感情、しばらく摂取していないから是非にも欲しいのじゃ!」
ダンジョンは魔素の濃い地域に発生する一種の自然現象のようなもので、そこに棲みつく彼らモンスターは、その魔素で活動するためのエネルギーを得ていた。
人間達の「恐怖感」を好む個体も多く、ダンジョンはモンスター達がそういった人間の感情を摂取する絶好の場所でもある。
一方の人間達もまたモンスターを倒すことで得られる魔核(モンスターの体内にある魔素の結晶)が高値で取り引きされることから一獲千金を夢みてダンジョンに潜るのだった。
だがいに死の危険を持ちながらも得るものがある、奇妙な関係がダンジョンの中では成り立っていた。
「まぁ、今のところは思いつきの域を出ないが細かいことは今後考えていく」
「おぉ、これ程までに期待させたのじゃから必ず実行に移して欲しいのじゃ!」
ドラゴンさんはかなりの乗り気だ。
「というわけで、それなら一緒に計画を練ってくれ」
「妾に任せるのじゃ!」
モンスターの側から降伏してくるのは予想外だったが魔力の強大さによる畏怖で従わせるよりはよっぽどいい。
ちなみに後から聞いたら、魔力の強大な人間が近づいて来ると気づき全員で降伏の道を選んだんだとか。
とまれかくまれ、ダンジョン経営の滑り出しは順調だった。
勇者パーティーを追放されたのでダンジョン経営始めました。 ふぃるめる @aterie3
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