勇者パーティーを追放されたのでダンジョン経営始めました。
ふぃるめる
第1話 追放
「テメーがいると、パーティー内の調和がみだれんだよっ!出てけ!」
勇者パーティー前衛のレッグスの声がギルド内に響いた。
薄々わかってたことだったので俺はその言葉を受け流す。
その他二人のメンバーもレッグス同様の視線を俺に向けた。
「そんなに俺が嫌なら出てってやるよ」
こんなパーティーに思い入れなどあるはずもなく未練は微塵もない。
むしろここらが潮時とさえ思っていた。
「おう、そうしろそうしろ!」
レッグスは酒を煽りながらそういうと、横柄な態度で背もたれに背中を預けた。
「俺の分の勘定、ここに置いときます」
給仕にそういうと俺は、ギルドを出た。
その背中に向けて
「待ってください!アレンさん!行かないで!」
メリダが悲痛な声で呼び止めようとするが
「メリダ、そんな奴は放っておけよ!」
とレッグスに同調するブロッシュの声にかき消された。
パーティー内で俺と他のメンバーとの間に開きつつあった溝を埋めようとしてくれていたメリダに申し訳ないという気持ちが湧いたが今さら、戻る気はさらさらない。
そもそもなぜこれ程までにギクシャクしてしまったのか、話は単純だ。
パーティーに対して依頼達成時に払われる報酬の分配、そして名声で揉めたのだ。
人数で当分する方法、出来高せいにする方法など、報酬の分配方法は様々だ。
魔王討伐の期待が寄せられる勇者パーティーである俺達には高難易度で高額報酬の依頼が殺到する。
その報酬に目が眩んだレッグスは、報酬の分配を出来高制にした。
パーティーのメンバー達は最初こそ懐疑的であったがリーダーの決めた方針なら仕方ないとそれに従った。
パーティー内で最大火力であるレッグス張本人は、自信が出来高制により最も高い報酬を得られるのでそれに満足していた。
最初のうちはそれで良かった。
しかし魔王城が近づくにつれ、高難易度の依頼が増えたことにより力押し一辺倒のレッグスよりも俺の方が出来高が高くなることが増えた。
パーティー内に溝が出来始めたのは、この頃からだった。
ほぼ全属性の魔術が使えるだけでなく自分よりも活躍する俺をレッグスは快く思わなかったらしい。
こっそりメリダから聞いた話だが、その頃から俺を除くパーティー全員でレッグスを出来高一位にしてレッグスの報酬の一部を貰うということが起きていたらしい。
もちろん発案者はレッグスだ。
それに同調するパーティーメンバーもメンバーだが……とかく自分より目立つ奴がいることを快く思わない狭量なリーダーだったわけだ。
「【
転移魔術でとりあえず過去に来たことがあるギルドへと移動した。
扉を開けるとカランコロンとドアベルがなった。
「はーい、いらっしゃい……ってアレンじゃねぇかっ!?」
ギルドに併設された酒場に踏み入ると、すぐさま声をかけられた。
「クレフか。数ヶ月ぶりだな。お前に治してもらった腕、元通りに動かせるよになったぜ?」
魔獣に襲われていた所を助けたクレフが、そう言って腕をブンブンと動かした。
「そいつは良かったな!」
俺がそう言うとクレフは顔を顰めた。
「お前、なんでここにいるんだ?勇者パーティーはどうした?」
やっぱり聞かれるか……まぁ隠すこともないだろう。
「抜けて来た」
淡々と事実のみを言った。
「そりゃまたどうして?」
「変なやっかみを買ったらしくてな」
そう言うとクレフはため息をついた。
「まぁアレンは強いからそういうこともあるか……でも今後、どうするんだ?」
今後か……細々と暮らすのなら生涯働かなくてもいいだけの金はある。
でも、働かないというのは、どうにも俺の
「そうだなぁ……どこかで働きたいところだ」
そう言うとクレフは目を輝かせて言った。
「どうせなら俺のパーティーに入らないか!?アレンは強いから高難易度の依頼も受けれると思うんだよな!」
それはありがたい話ではあった。
でもそれは断る。
なぜなら勇者パーティーのときみたいに報酬で揉めたりしたくないからだ。
もちろん、クレフがレッグスみたいな人間でないことはわかっている。
でも人が欲に目が眩んだとき、どうなるかなんて分からない。
俺はそんなクレフの姿なんて見たくないし、或いは俺が問題を引き起こす側になってしまうかもしれない。
だから――――
「悪いがその申し出は断らせてくれ」
「なんでた?お前が来ればミラやサリアも喜ぶのに」
ミラとサリアはクレフのパーティーのメンバーで、クレフと二人を魔獣から助けた過去がある。
それ以来、この街にいたときは仲良くしてくれていた。
「こんなことがあったばかりだからな。今は誰とも組む気がないんだ。悪いな」
そう返すと残念そうな顔でクレフは言った。
「そうかぁ……まぁ困ったときはいつでも相談してくれよ?命の恩人さんよ!」
そう言うクレフの横顔を見てふと、勇者パーティーのメンバーがこういう性格の人間だったのなら……と思ってしまった。
「なら早速相談させてもらってもいいか?」
「早いな!」
若干ツッコミつつクレフは応じてくれた。
その相談というのは……俺の仕事になるかもしれない話だ。
「この近くに誰も最下層まで到達していないダンジョンがあったよな?」
この街に来たときは勇者パーティーの方の依頼ばかりで攻略はしていない。
「あぁ、『帰らぬのダンジョン』のことか?」
難易度の高さ故についた名前が『帰らぬのダンジョン』だ。
「そんな名前だったのか」
「最近は、誰も行く人が居なくなって『過疎のダンジョン』とかいう呼ばれ方もしているがなぁ」
顎髭を弄りながらクレフは言った。
誰も行かないのなら尚更好都合だな!
「そうか、なら明日そこに俺を連れてってくれ。俺からの依頼ってことで構わない。ついでに誰も立ち入れぬよう入り口を見張ってて欲しい」
俺はとりあえず金貨十枚をその場で手渡した。
「おいおい本気か?」
「仮にもさっきまで勇者だったんだぞ?」
「それもそうか。分かった。明日一日、お前に付き合うよ」
そういうわけで俺は、思いついたばかりの考えではあるが、ダンジョン経営のための第一歩を踏み出すことにした。
◆❖あとがき❖◆
一度は書いてみたかった追放モノとダンジョン経営モノを一緒にしてしまえという酩酊状態に思いついた作品です。
よろしくお付き合い頂ければと思います。
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