梅ちゃん物語。その②
月猫
梅ちゃんの出会いと別れ。
知る人ぞ知る「スーパー悪たれ婆さん」の梅ちゃん。
梅ちゃんにも、若くてキラキラ輝いている時代がありました。
なんと、若くして結婚したらしいです。
らしいですというのは、この辺の話は梅ちゃんが教えてくれないので謎なのであります。
聞いたところによると、あまりにも悪い嫁だということで、タンス付きで家を追い出されたとか……。
「お金を払ってでも、この家から出て行ってもらいたい」
と相手側から思われたようです。
婚家から追い出された梅ちゃんですが、その後、一つ年下の
わりと女の子にモテた正ちゃん。おとなしい女の子より、グイグイ系の梅ちゃんに興味がいってしまいお付き合いスタート。
すると、両親・兄妹から大反対の嵐。
「あの
最初は結婚まで考えていなかった正ちゃんですが、反対されると恋心って燃え上がるものなんです。
「俺がお前を一生幸せにしてやる」
と言ったどうかかわかりませんが、二人の愛はメラメラと燃え盛りました。
そして程なく梅ちゃんのお腹の中に私が宿ります。
子どもは、親を選んで生まれてくるというお話がありますが、私には梅ちゃんを母に選んだ記憶はございません。ございませんが、この二人が結婚することになったのは、私という命が宿ったからであります。
こうしてめでたく結婚した二人。
燃えるような恋は数年で冷め、あとは「離婚だぁ」と喧嘩の毎日。それでも離婚することなく一緒に暮らし、58歳で正ちゃん癌になっちゃった。
すい臓がんというのは、発見された時はもう手遅れのことが多いもの。癌とわかってから三か月で亡くなってしまいます。
正ちゃんが入院している三か月。いろんなエピソードがありますが、それは少し割愛させて頂いて、梅ちゃんと正ちゃんの最後のお別れを語りましょう。
危篤という連絡で、親戚一同も集まった集中治療室のような所。
正ちゃんには、ほぼ意識がありません。テレビでよく見る心音モニターが、心臓の音を響かせるだけであります。
正ちゃんベッドの周りに集まる身内の中に、梅ちゃんは入れません。
なぜなら梅ちゃん。自分がみんなに嫌われていることがわかっているので、居場所がないのです。
ウロウロする梅ちゃんに、「今晩は旅館に泊まったらいいよ」と言ったのは私でした。「いや、ここにいる」という言葉が返って来ることを期待しましたが、ニヤリと笑った梅ちゃん。
いそいそと弟のお嫁さんと共にタクシーに乗って旅館に向かいます。タクシーの中で、もうすぐ息を引き取る夫との別れに涙するかと思いきや、梅ちゃん、お嫁さんに「寿司食いに行かねぇか?」と言ったそうな……
驚いたお嫁さん。さすがに寿司を食べに行くのは断り、そのまま旅館に向かったそうです。翌朝早く、正ちゃんは息を引き取りました。
こうして梅ちゃんは、正ちゃんの心臓が止まる瞬間に立ち会うことがありませんでした。ついでに重ねて言うと、寿司を食べに行こうとしました。オーマイゴット!
反対を押し切り結婚した男と女の別れは、こんな感じで幕を閉じたのです。
梅ちゃんは、それからずっと一人で逞しく生きています。
梅ちゃん物語。その② 月猫 @tukitohositoneko
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