トナカイが死んだ

#365日ショートショート 078

　12月23日、トナカイが死んだ。

　それは飼育員の些細なミスだった。置き忘れた小さな工具をトナカイが誤って飲んでしまったのだ。苦しみ、のたうち回り、あっけなく死んでしまった。

　飼育員は悔いた。明日は雇い主が出勤してくる。大きな髭を蓄え、赤い衣装を身に纏い、袋を背負ってやってくる。この日のために、おもちゃ製造会社も、煙突清掃会社も、専門の航空交通管制センターも、全てを準備してきた。しかし肝心のトナカイが死んでしまった。どうするべきか。

　飼育員には蓄えがあった。年に一度、この日のためにトナカイを育て鍛える。そんな異色の職種には莫大な賃金が支払われていた。迷いはなかった。もはや素寒貧になっても構わない。大切なのは雇い主に仕事をやり遂げてもらうことである。

　急いで自宅に戻り電話帳をめくる。頼む。もうこの方法しか残されていない。

　翌日の夜、世界中の夜空は飛行機雲に埋め尽くされた。空にも雪が積もったと、子供たちは目を輝かせた。