私の一番の友達、返してもらうんだから

いち亀

チヅノの嫉妬

 最近、ルミちゃんの様子がおかしい。

 小学校の頃はいつも私と一緒に遊んでいたのに、最近は「用事ができちゃった!」と急にどこかへ行っちゃう。「ずっとチーちゃんと一緒がいい!」って言ってくれたルミちゃんなのに、私のことなんか大事でもなんでもなくなっちゃった。


「何か忙しいの?」と私が聞いても、ルミちゃんはハッキリ答えてくれない。だから私は、ルミちゃんの周りをよく観察してみることにした。


 そしたら、邪魔者の正体が分かった。中学に入ってからルミちゃんと知り合った、セイジって男子だ。外国人みたいな珍しい顔立ちで、態度も謎な感じで、色んな女子が王子様みたいにチヤホヤしている。街の色んなところで、ルミちゃんはこっそりセイジと待ち合わせていた・・・・・・そのあとを追いかけても見つからないのは不思議だけど、二人で会っているのは事実だ。


 つまりはデートだ。私を差し置いて、あの男と。

 どっちが言い出したのかも知らないけど、セイジがルミちゃんに言い寄ったに決まってる。そりゃルミちゃんはすごくすごく可愛い、けどルミちゃんの一番は私のはずなんだ。家族以外で私より長く一緒にいるなんて、しかも男子となんて、許せるはずがない。


 ルミちゃんがセイジと出会ったから、私はルミちゃんとお別れしなきゃいけない? そんなのふざけてる、絶対に間違ってる。

 セイジをルミちゃんから別れさせてやる、そしてもう一回、私はルミちゃんの一番の友達になるんだ。


 じゃあどうやって別れさせようか、あれこれ考えて、ネットで色々探して、恋愛に詳しそうな人に聞いて――途中からよく覚えてないけど。


 とにかく、いま私は、セイジを追い詰めている。

 どこで見つけたとか、何を話したとか、あんまり覚えてないけど。


「ハァ、ハァ、お前・・・・・・ルミの友達のはずだろ、なんでこんなこと」

 セイジは私から必死に逃げていたけど、とうとう路地の行き止まりに追い込んだ・・・・・・私は足が遅いんだけどな、なんで男子に追いつけたんだろ。まあいいや。


「なんでってさ、自分が悪いんじゃん。私のルミちゃんを取るからだよ!」

「取るって、そもそも俺は」

「とぼけないでよ、付き合ってるんだろルミちゃんと!」

「付き合い・・・・・・なんの誤解だよ、ただの仕事仲間だ」

「うるさいうるさい! 私の一番の友達、返してもらうんだから!」


 どん、と地団駄を踏みながら詰め寄ると、アスファルトにヒビが入った・・・・・・あれ、変だな、まあいいや。大事なのはセイジを反省させることだ。

 けどセイジは、私を心配するような目で見てきた。


「そっか、お前やっぱり・・・・・・待ってろ、すぐ助けてやる」

「助け? 何言ってるの、あんたが私に助けてくださいってお願いする番でしょ?」


 セイジは私に答えず、腕時計みたいな機械に話しかける。

「聞こえるかナナビー、ウラミードの被害者を発見した」

 その機械から、甲高い不思議な声。

「分かったナ! すぐ行くーナ!」


 ・・・・・・オモチャで遊んでるのか、こいつ?

「あのさ、真面目に話聞いてよ。ルミちゃんと別れる、もう近づかないって約束して。ごねてると・・・・・・分かるよね?」

 見せしめのように空き缶を蹴飛ばすと、缶は壁にぶつかって粉々になった。

「焦るな。すぐにあいつが来る・・・・・・ほら」

 

 私たちの背後に、雷が落ちたような音と光。振り返ると、青い光に包まれながら出てきたのは――ルミちゃん?


「――お待たせ、セイジくん。そして、チーちゃん」

「え、なんでルミちゃんが・・・・・・今の何?」

「連絡来たからワープしてきちゃったの、ありがとねナナビー」

「ナ!」


 ルミちゃんの背中から出てきたのは――鳥? コウモリ? ピンク色の毛で覆われた、羽を生やした丸っこい生命体だ。

 ・・・・・・私の目が疲れてるのかな、最近あんま寝てない気がするし。そもそも何してたかあんま覚えてない。


 まあいいや、ルミちゃんが来てくれたなら話は早い。

「ねえルミちゃん、なんでコイツと付き合ってるの? なんか脅されて一緒にいるんなら、私も誰かに相談してあげるから、」

「ごめんチーちゃん、今まで黙ってて」

「・・・・・・え?」


 ルミちゃんはセイジのそばに行き、頷きあってから私へと説明する。

「最近、街で変な事件が起きてるのは知ってるよね? 人が急に暴れたり、事故が起きたり」

「知ってるけど、それが?」

「信じてくれるか分からないんだけどね。それは、人の怒りとか憎しみに取り憑く悪魔が引き起こしてるの。私とセイジくんは、それを止める仕事をしています・・・・・・最近あちこちに出かけていたのは、そのせい。秘密にしなきゃいけなかったんだけど、チーちゃんに悲しい思いをさせたのは、本当にごめん」


 ルミちゃんの言うことは全く分からなかったけど。ルミちゃんはこういうときに嘘は言わないから、本当なのだろう。


「そして、今ね。その悪魔・・・・・・ウラミードが、チーちゃんにも取り憑いています」

「・・・・・・私に? 悪魔?」

「うん。でも大丈夫、私が治す」

「違うのルミちゃん、私はただルミちゃんと一緒にいたくて、その男を、」


 自分で言って、気づく――そうだ、私は確かにセイジを憎んでいる。

 最近のことをよく覚えていないのも、妙に力が強くなったのも、悪魔のせい?


 ならルミちゃんに助けてもらわなきゃ――考えた瞬間。


〈憎いんだろ? 殺したいんだろ? その男とルミちゃん、別れさせたいんだろ?〉


 私の中から声が聞こえて、体が勝手に動こうとする。


「ルミ!」

「分かってる、セイジくんサポートお願い!」

「ああ、周りは気にせず戦ってこい!」

「行くよ――マジカルテ、オープン!」


 私の意識が闇に染まっていく中で、ルミちゃんが眩い光に包まれていく。

 普通のジーンズとTシャツが、鮮やかなドレスへと変わっていく。


 ――やっと、会えた。ルミちゃんの、本当の姿。


「魔法少女ルミナース、心療開始!

 心の悪魔と、お別れの時間よ!」


 そして私へステッキを向けながら、涙混じりに叫ぶ。


「覚悟しなさいウラミード!

 私の一番の友達、絶対に返してもらうんだから!」

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