第21話 大宮軍団
隆司が朝から双子の落とし穴にハマってボロボロになった日のことだった。
私とサカキがほんの少し変わっただけでは学校全体は変わらない。
そうなるとやはり救急車がこの学校に訪れる回数は減らないわけで。
私たちは今日も生徒会室で、救急車のサイレンを聞いていた。
「あ、あれ絶対深瀬だよ」
「うっそ。誰にやられたんだろね」
窓に顔を押し当てる夏と秋は、相変わらずバレていないと思っているようだが、さらに数十回救急車の来校数に貢献している。
「あいつけっこーやるのにね」
「ね」
私は双子を眺めながら、呑気にうとうとしていた。
この頃少し忙しくてなかなか眠れていない。生徒会室は安心できる場所であり、双子がいれば眠っても死ぬことはない。
眠くなる相手がいるということは、幸せなことだ。
秋が不意にあれっと呟いて、私の方を振り返ってきた。
「そういえばナズナさん、今日はラコ休みなんですか?」
「…んー?」
私は眠い目をこすりながら、頭を起動させた。
確かに今日はまだ一度も見かけていない。
携帯を確認してみても、何の音沙汰もなかった。
「珍しいね」
私の呟きに、夏が首を傾げた。
「何かあったんですかね」
ラコは強い。
何かあるなんてこともない気がするが、念には念を入れておきたい。
「ちょっと色々見てこようかな」
と私が立ち上がれば
「「私たちも探してきます!」」
と双子の声が重なった。
ラコは生徒会以外では基本的に一匹狼タイプ。
セリや夏秋には比較的に大きな軍団がくっついているが、ラコは全く持っていなかった気がする。
もっとも、私だってないに等しい。
ラコが教室で友人たちと談笑しているところは想像できなかったけど、とりあえず一通り確認はしてみる。
覗くたびにボロボロな教室を見て思わずため息が漏れた。
いつかきちんと掃除したい。なんちゃってA型の血が騒ぐ。
いつのまにか3年生の教室に差し掛かっていた。
顔を覗かせてきょろきょろラコを探していると、「おっ!」と楽しそうな声が聞こえる。
「ナズナさんジャーン!」
教室の後方で、銀髪をポニーテールにまとめ、首指手首にこれでもかというほどアクセサリーを纏う女が煙草を吸っている。
私の軍団は私を含んでたった3人。
そのうちの1人、
「久しぶり、ツル」
ツルに会うのは久々だった。彼女は滅多に学校には現れないレアキャラなのだ。
ツルと会うと何故か煙草を吸ってみたくなる私は、ポケットから勝手にラッキーストライクを拝借した。
「さんなんて付けるキャラだったっけ」
「生徒会長様には敬意を示さないと」
ツルがライターで火をつけてくれた。
こうするたびに3人で喧嘩に明け暮れていた日々を思い出す。
「ツルが言うと気持ち悪い」
「言うと思ったァ〜、まあ言っちゃえば別に敬意なんて欠片もねぇしな」
敬えよと小突くと、ツルはゲラゲラ笑った。
「にしてもナズナが生徒会長になるなんてなァ」
「私も驚きよ」
「成り行きはどうであれ、だんだん慣れてはきたわけ?」
「どうだか、だといいんだけどね」
ふーっと長く煙を吐き出す。
やっぱり私、タバコむいてないな。
「周りの生徒会の奴らは頼りがいあるだろうし、やりやすいだろ」
「それはそうだな」
よくあんなバケモンまとめてるよ、とツルは銀髪を揺らして笑った。
私の軍団のもう1人は、ピンクの髪を常になびかせている。
中学生のころ3人でいると、よく周りから白い目で見られた。
『うわ怖い』
『馬鹿みたい』
幸い2人は耳が馬鹿みたいに悪く、こういう言葉を聞き取るのは風紀の面では一般人クリアの私だけだった。
その女、最強につき 羽澄 @hazumi_
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