中編 オレという存在を多少は説明せねばなるまい




 ・ Undeadアンデッド とは


 元は生命体であった者が、すでに命が失われているのにも拘わらず活動する存在の総称。Living Deadリビング デッド=生ける屍、とも言われる。


 アンデッドという言葉はアイルランド人作家のブラム・ストーカーによる恐怖小説「吸血鬼ドラキュラ」(1897年著作)に 【 The Un-Dead 】 として初めて使われたらしい。


 死にきれていない=死者でも生者でもない者たち、または霊やゾンビなどが該当し、世界中多くの文化、伝説や伝承にアンデッドと言える者が見られる他、ファンタジーやホラーには特に多く登場する。

 ファンタジーを題材とするテーブルトークRPGから始まりゲームでは代表的なモンスターとして定着。アンデッドモンスターとも呼ばれ、日本語では不死の怪物や不死者などの訳もよく使われ、それ以外の日本語表記では亡者や死霊などが使われている。


 アンデッドとされる存在は多種にわたるが、その多くは太陽光に弱く、夜間の活動を主として墓地などに現れることが多い。

 生者を襲って犠牲者を同種のアンデッドや従僕しもべとする者もおり、不浄な魔の存在であることから魔除けや浄化の力がある、あるいは神聖な力が宿っているとされる物、純銀や聖水などを弱点とする者もいる。


 近代の小説やゲームでは、これらの怪物を秘術によって生み出して操ることを死霊魔術ネクロマンシー、そういった術を行使する者を死霊術士ネクロマンサー と呼ぶことが多いが、どれも本来の意味とは異なる。

 本来の意味では死体を触媒に死者の霊を用いた未来視や過去視などの占い全般を指す通称がネクロマンシー。そしてネクロマンサーはいわゆる降霊術を使う占い師のことだ。




『以上、オレの種族名といえるアンデッドについて、大体ウィキさん調べでしたマル』


 最後は少々脱線したが要するにアンデッドってぇのは吸血鬼なんかを代表とした生きてんのか死んでんのか分らん動き回る元々は命があった者。すでに死んでるから死なない怪物ってところかね。


 ちなみに調べて分ったんだが、アンデッドとは別に不死者を指す言葉にimmortal イモータルなんて言葉もあった。

 こちらは「死すべき運命」などの意味合いを持つmortalモータルの否定語みたいなもんで、そのままずばり「不死」という意味の言葉で他に不滅や不朽とかの意味合いもあるようだ。


 個人的な所感としちゃアンデッドよりも上位の不死者がイモータルってところだろうか?


 ・・・・・・そうなるとオレの種族名、どちらかというとイモータルな気もせんではないんだが、語感の好みに合わんし、幽霊的な意味合いはないから変わらず種族名はアンデッドのままにしておこう。

 変えたらタイトルまで変えなきゃならんし、なにより今更変えんのはなんかすっごい面倒くせぇ。


『面倒くせぇと言えば、いい加減な口約束だろうと「約束」をしたら絶対に守らなきゃあならないこの身が一番面倒くさい、か』


 いやまあ、そうであるからオレは自我の薄れた死霊怨霊相手に持ち掛けた『契約』を絶対遵守じゅんしゅさせることができ、霊たちから対価ほうしゅうとして除霊せずに強制的に成仏させられるわけだが。

 だからといって副作用よろしく『契約する力』の代償に生きた人間生者相手への自身オレのあらゆる言動から約束事と取れることは全て契約とみなされて必ず守らなきゃあならんとか、ホンッッットに、 面倒くさい!

 面倒くさいが、守る必要性のない小っさい約束だろうと破ったりブッチしたら『ペナルティ』受けてドえらい目に遭うから守るしかなく、もお面倒くさいったらない。


 そう『ペナルティ』だ。これのせいで些末で守る必要もない口約束だろうが嘘の約束だろうが、約束したなら守らなきゃならんっていう有り様さ!

 おかげで可愛い娘たんとの楽しい楽しいキャッキャッウフフフゥ~なお喋りタァイムァッ、だろうと細部の言動に常に気ぃ付けなけりゃならんちゅうね。もう興醒めもんっすよ! マジのガチで、ME☆N☆DO☆U ☆彡


 …………


 ……………


 ………………いやもう本当、面倒くさいです。


 ふざけてねぇとやってられないくらい面倒で仕方ない。約束事の言質取られないよう注意しながら、それと気付かれないようフレンドリーにフランクに話すってのはさ。


『だったら真面目に会話すれば良いだけだろって?

 言質取られないようにガッチガチに警戒してるのをひた隠しにしてバリバリに緊張感滲ませながら会話しろってか』


 ただでさえ「どうも怪しい怪異モノです」なんてジョークにもならないほどのビビリが無条件で怖がり叫ぶオカルトそのものな存在幽霊が、意味浅なそのまんまな意味の言葉も意味深に取られるような奴が、そんな態度で人間ヒトと接してみ?


『ただの親切心で助言忠告言いに行こうが姿見られた時点でどう考えても特大勘違いまっっっしぐらジャァンッ! 敵対意思皆無なのに敵対確定ジャンJYAN!!』


 何より人間と接するたびにそんな気ぃ張ってたら疲れるわ。

 どうせ初見だろうが顔見せ程度だろうが怪しい存在としか見られない面倒な存在であるの立場なら最初から「こいつ頭おかしい」と思われても気楽なふざけた態度で会話した方が楽だし楽しいし、自分の言った言葉がどう読まれるか推測しながら言葉の駆け引きってやつをする余裕も多少は出来る。


 ま、言質を取られない駆け引きに注力しすぎると英国暗黒面ブリカスムーブめいた皮肉まみれな言動腹黒真っ黒紳士になっちまうから、いつもの気楽なふざけた態度を忘れない匙加減に注意がいるけどな!


『はぁ、ペナルティさえなけりゃこんな面倒な気苦労せんで済むってのに……

 ぁん? いい加減にそのドえらい目に遭うペナルティはなんなんのか教えろって?』


 ふむ……約束を破ったら、ドえらい目に遭ってしまう、ペナルティ。


 そ、れ、は………




『 死 に ま す ッ ! ! 』




 はいはい、そこ台パンしない、物投げない、石投げない。


 お前アンデッド不死者だろうがふざくんな! って?


『まあ、正確には休眠仮死状態ってやつになるんだが、そのなり方が、これがまぁリアルなんだわ』


 ペナルティ受けた瞬間ものっそい衝撃やら痛みやら苦しみやら大ダメージ受けて、意識が朦朧として手足から徐々に力が入らなくなってくわ、暑さ寒さを感じないはずの身体が凍るように冷たくなっていくわ。時には走馬灯まで見え出したりしてな。


『え、オレまた死ぬの……

 て、初めてペナルティ経験した時は冗談抜きに本気でもう一度死ぬと思うくらいリアルな衝撃と苦痛やら味わって、意識がフッ飛んで一回休みって感じでね。

 ヘマして何回か受けた今でも全然慣れないし、慣れたくない感覚よ

 いやぁ、キッツいわあ』


 受けるダメージの度合いは約束の 重さ? っていうのかね。それで死亡体験のバリエーションが変わるし、こんな不死者なんて存在になってからは物理的な痛みや苦しみとかなんて無縁皆無だからもう余計に慣れない。

 頭をでかい石とかでかち割られたか土手っ腹を太い杭で貫かれたかしたような衝撃と激痛を味合わせられたり、首締められたり溺死したりするようなじわじわくる苦しみで窒息する感覚をアジ遭わせられたりとかな。

 今のところ即死は体験しちゃいないが、むしろ即死の方が苦痛なく済む分、ペナルティ的には軽すぎてむしろナイダメなのかもな。


 ちなみに今のところ休眠状態の期間は最長で3ヶ月間ほどで、当時危なっかしくてやたら目に留まるから気に掛けてた魔法少女の娘っ子らが休眠状態から起きたら曇らせ展開で鬱バッドエンドまっしぐらな状態に陥っちまってて、一体なにがあってんお前らって焦ったわ。あと半日目ぇ覚めるの遅かったら介入する隙もなくなってたとこだったから尚更焦った。

 まあ、本当は知人以下の顔見知りですらもなく、一方的に見知ってて事情を知った気になっているだけの無関係。焦る必要もなく他人事とほっといても良かったんだが、ただ「無視して放置するにゃあ後味悪すぎる」っていう傲慢身勝手な理由でお節介焼いちまった。

 そんでなんとか間に合って事なきを得たが、ギリギリだったかもんだから介入も細心の注意を払わにゃならん緊張感で、もう内心しんどくて仕方なかった。

 どうにかこうにか暗躍やら含めて裏で舵取りもやって、介入も関わる必要も一切なくなった時にはでっかい溜め息吐きながら心底安堵したわ。終始不審者怪しい敵扱いされて睨まれてたけど。


『以来人間生者相手との口約束やらには注意深くなったし、「約束した」っていう言質を取られないよう、約束内容を拡大解釈使った抜け穴すり抜けられるよう受け答えを曖昧にしたり、そうしてるとは悟られないようにフレンドリーにフランクに話して振る舞ってんのよ』


 今じゃあ自然体でそれらをこなせるわけだが、親しい付き合いが長続きしちまった如月 菜々華あいつには気取られて、オレが約束を破ることが出来ないことを知られちまっているわけだが………


 はぁ~~~あぁ、面倒くせぇぇぇ~~~。


 こんなに長く付き合うつもりも親しくなるつもりもコレッッッぽっちもなかったはずなんだが、力を得た瞬間に立ち会っちまったから変な親切心が出て忠告やら面倒見ちまったのが悪かったか。ってのが出来ちまったんだろうなぁ。切ることが出来やしねえ。


『オレはオカルト側の存在。なんて不確かな物が些細なことで本当に出来るから面倒くさい………




 さて、ここまでで何回「面倒」カッコ地の文込みカッコ閉じって言ったでしょうか?』



 正解者にはぁ、も、れ、な、く、豪華プレゼントぉ~おッ………




  あ げ ま せ ん っ ! !(スペ並感)



 ………


 …………



『………さぁて、そろそろ時間だ。気は進まないが、菜々華の奴のとこへ行くとしますかね。

 あぁ、あとこの後の地の文ナレーションよ~ろ~。


 あん? 合法ロリ巨乳の美少女からのお誘いで一つ屋根の下、一夜を過ごせる裏山展開のくせにテンション低いぞって?

 ……性欲が生前そのままで、ナニもあって性的高揚興奮もあるのにいやらしい雰囲気になろうと美女美少女の方お相手から誘われようと、問答無用にEDめいた賢者モードになる身で素面シラフで受け応えせにゃならなくても、ウラヤマ裏山ウラめしいって……言えんのかッ! お゛ぉ゛おんッッ!!』


 現実逃避にふざけて上げたテンションを落とすように深い溜め息を吐くが、少数ながら気乗りしない理由を疑問に思っているだろう壁向こうの住人第四の壁が癇に触ったか、八つ当たり気味に食ってかかる黒い影。


『……いくか』


 そして自己完結し、今までビル屋上端に腰掛けていた尻を払いながらテンション低くフヨリと宙に立ち上がる。

 腐れ縁とは言え、気心知れた仲だから自分も相手も不愉快にさせず『約束けいやく』の言質を取られないよう、そういった流れに話が進ませない急な話題転換を含めた話題トークデッキを面倒ながらに構築してはいつにも増してダルい気分に陥りつつ、黒い影は一人暮らしの如月 菜々華の現住居、そのマンションの一室を目指して霊体の身のまま月明かりに照らされた真夜中のそらへと飛び立って行った。






………………………




………………




………







 東都 警視庁本部庁舎


 刑事零課 超常不可能犯罪全国広域捜査班。

 通称「超常犯罪捜査課」と呼ばれる極小規模超常災害超常犯罪、悪魔や魔物に怪人、あるいは超能力者や魔法使いによる殺人を始めとした常人では絶対に不可能な犯罪、超常不可能犯罪をその名が示す通りに専門に対応にあたる警視庁の刑事部署である。

 零課と示されるとおり、どこの部署とも違う大きな違いが存在する。それは警視庁に本部を置き、一つの課で千数百人という人員を有して警察庁の下で日本各地に網を張り巡らせ人員を配置していると共に日本全国すべての管轄をまたいだ特殊捜査権限を持ち、国防庁超常災害対策機動部へ所属を求められるほどの高レベルでチカラはないながらも、異能や魔法を使用できる警察官らが優先的に配属されていることである。

 尚、その大半は警察官として務めていた最中に危機的状況に陥って後天的に力へ目覚めた者たちだ。


 そんな超常不可能犯罪対策室のデスクがある部屋の隅、扉なく部屋つづきになった小部屋が一つ。そこに二人の人物の姿があった。


「例の弾痕連続殺人。また上層部うえからストップが掛かったようですよ」


 着古したジャケットに無地の黒Tシャツとジーンズといった出で立ちをした刑事巡査はコーヒー片手に親しげに直属の上司であり相方であるこの場所のぬしたる警部へ話題を振った。


「……、ですか。君はどう思います」


 高い知性を感じさせる出で立ちの警部は巡査の振った話題にほんの一瞬眉をひそめるも何事もないように優雅に慣れた手つきで紅茶を煎れると珍しく多角的視点を欲してか、警部は自身の席へと着きながら話題を振ってきた君の所見ではどうなのかと問い返した。


「う~ん、被害者たちのほとんどが何某かの未解決事件やら証拠不十分で送検できなかった実行犯や主犯だったり犯罪テロ組織と繋がる人物ばかりでしたからね。

 さらに犯罪や汚職に手を染めてたとはいえ元刑事や現役刑事まで被害者たちの中にいる。

 だからなのか署内の一部じゃ公安か超常災害対策機動部サイキに『暗部』みたいのがあって、法で裁けないあるいは公に表沙汰に出来ないモノを処理するために一連のことをやってるんじゃないかって噂してますよ。

 まあ自分はさすがに暗部やらはないんじゃないかと思いますけど……」


 とはいえそうでも考えないと毎度のようにおかみが止めてくる説明がつかないのも事実なんですよねとこぼす巡査。

 

「……『ゴースト』あるいは『ファントム』」


「! それってまさか…… 本当に暗部があったんですか!?」


 警部の呟きに話の流れから巡査は暗部の存在を示す名だと察したが――


「いえ、違います」


「………じゃあ、なんなんです」


 即答での否定に思わずズッコケそうになりつつ巡査は顔へ不満露わに先ほどの言葉の真意を問う。


「超常災害対策機動部所属の能力者が偶発的に現場に居合わせ、接触に至った弾痕連続殺人犯へ付けた仮称が『ファントム』。

 そして情報共有に至った後に接触に成功した警視庁公安部が『ゴースト』と仮称しているのだそうです」


 こんな日常会話で出すくらいなのだから機密性はないといって良いほど低いものだろうが、サイキと公安関係となると情報ソースは警部の古馴染みであるあの腹に一物ありますと言わんばかりに飄々としている官房長あたりだろうかと巡査は当たりを付けつつ、ふと疑問に思ったことを口にした。


「偶発的に居合わせたって、どういう状況ですかソレ?

 第一、サイキと公安揃って能力者の殺人犯を見つけたなら超法規特例処刑対処なり逮捕なりしないなん、て……… まさかとは、思いますけど、、てことですか?」


 最後は疑問を口にしている間に思い浮かんでしまった考えたくもない事実に冷や汗を流し、自分の見当違いだと、外れてくれと願いながら引き攣った顔で警部に答えを求めた。


「偶発的に居合わせた状況というのは、『ゴースト』の標的が一般人ただの犯罪者ではなく、超常災害対策機動部が戦闘中であった対処していた犯罪組織の生物兵器怪人であったようです」


 巡査の最初の疑問に答えると紅茶を一口飲み、一息入れて警部は自身でも信じがたい事実を口にする。


「そして君が懸念を抱いた通り、『ゴースト』に対して一切の捕縛行為や攻撃対処が通じなかった上、各種の追跡も全て適わなかったそうです」

 

 驚愕の事実に押し黙る巡査を横目に努めて平静を装う警部は紅茶を口にしてしばし部屋に沈黙が訪れる。


「……… そんなバケモノを上の連中は野放しにするってコトですか。自分たちに都合の悪い連中を自分たちの手を汚すことなく、バケモノが勝手に闇から闇へ都合良く葬ってくれているから」


「いいえ、そこまで上層部は楽観的でもなければ単純な話でもないようですよ。

 なにせ件の相手ゴーストの犯行は捜査が行われれば行われるほど、何某かの異能によるものだとしてもその不可解さが浮き彫りになるばかりです。

 今回の新興財閥頭首殺害であれば犯罪組織の力まで借りて敷いた24時間体制の厳重な警備を物ともせず、痕跡といえば異常極まる殺害現場と被害者の身に残る『傷口の塞がった弾痕』のみ。犯行が深夜2時前後であることを踏まえたとしても文字通りの神出鬼没さで、さらには超常災害対策機動部所属の能力者の超能力も魔法異能も一切が通用しなかった。その上、被害者たちの中に現役退職者問わずに警察関係者もいます」


 沈黙を破って巡査は苦々しげに上層部が捜査を止める考え得る理由を口にするが、それを聞いて警部が諫めるように自身の推測を交えた上層部の動きを語り出す。


「恐らく、これらを踏まえて上層部は下手に刺激して『ゴースト』の矛先を自分たちへ向けられることを怖れている、といったところでしょうか」


 ゴーストの被害者たちほどでないにしろ後ろ暗い物を抱えている方たちは特にと、らしくもない皮肉をこぼし幾分温くなった紅茶を飲み干した警部は席から立ち上がると上着を手に出かける準備を始め出す。


「どこへ行くんです?」


 その様子に巡査は慌てて冷め切ってしまったコーヒーを飲み干して警部へ付いていきながら問い掛ければ――


「今回殺害された新興財閥頭首は今私たちが関わっている事件に関与していたことが事件現場の調査中に見つかった押収品で判明しました」


 鑑識へ行きますよ。そう言って歩み進む警部へ付いて行く巡査は連続殺人を続ける凶悪犯ではあるが『ゴースト』には自分たちは関わるべきじゃないと言うことか、と揺るがない正しさ正義を貫く一面のある聡明な警部が内心の思いはどうあれそう判断したなら肉体労働担当の自分はいつものように信じて隣を歩いて行くだけだと気を引き締め気持ちを切り替えた。






東都ハイタワービル・超常災害対策機動部本部 - 通称 ガーディアンズタワー -



「今回の『ファントム』の標的はハズレのようですね」


「そのようだな」


 メガネを掛けたビジネススーツに身を包む部下と報告書の内容を表示したタブレットを見る上司が揃って小さくため息を吐く。


 二人は超常災害対策室機動部総司令とその副官であった。


「あくまで裏社会に通じていただけで、直接の深い繋がりはなし。

 護衛に付いていたDESTRONデストロンの物と思われる人造怪人怪人再生怪人劣化コピーで戦闘力は肉壁程度しかない技術実験体の失敗作。鎮圧は容易でした」


「やはり、そうこちらの都合良くは動いてくれないか、ファントム」


 生命反応の無い謎多き知性体、未確認知性体壱号。仮称『ファントム』が今回起こした事件についての報告でのこのやりとりには訳がある。

 ファントムが標的にする者たちの中に超常災害対策機動部ガーディアンズと必然的に敵対関係にある犯罪組織の関係者がおり、その中には彼らがファントムと初遭遇となった苦戦を強いられた強敵、すらも存在した。

 組織関係者を見つけ出す困難さに加えて既に殺害されているため尋問は不可能であることを差し引いても遺留品始め(本人死亡とほぼ同時に発火など自爆装置による証拠隠滅がなされていなければだが)、検死やアジトの捜索などにより犯罪組織の少なくない情報が得られ、ガーディアンズにとっては小さくないプラスとなっていた。

 現場で活動する能力者の隊員ガーディアンズメンバーたちの心情を除けばだが。


 そして今報告に上がった件の事件に小さいながら関わっていた犯罪組織『DESTRON』についてだが、簡潔に言えば彼らは裏社会に根を張る数ある世界制覇などを目論む悪の秘密カルト結社のひとつで、改造人間を戦力の主軸にした現在最も勢いのある犯罪テロ組織。


 日本政府機関であるガーディアンズにとって不倶戴天の敵、の一つである。


 こういった犯罪組織は当然日本だけの話ではなく、世界中に根を伸ばし裏社会に蔓延っている。

 各国では深刻な治安悪化に悩まされている中、超常災害対策機動部の存在を抜きにしても、日本は元々の治安の良さに加えて超常災害黎明期当時、日本政府にしては珍しいほど将来を見据えた長期的視点での早期対応、民間の能力者たちへ犯罪行為での能力使用抑止と能動的救助活動をマスメディアを上手く使った意識誘導を行うなどの執政が速やかになされ、それらが確りと長期間徹底されたことによるものか、多数の犯罪組織の魔の手が伸びている中であっても現在でも日本の治安の良さは世界でも上位のものとなっていた。


 もっとも、伸ばされたその魔の手たちが本拠地本体から本腰を入れて本気で極東の島国ごとき日本へ伸ばされている物かは分らないが。


「ただ、今回の一連のファントムの動きでDESTRON以外の幾つかの組織はそれなりの打撃を受けたのも確かでしょう」


「最後の被害者以前の中にいたのか?」


「ええ。表向きと言うのもおかしいですが、殺害された裏社会で情報屋産業スパイ殺し屋暗殺者として活動していた者などが実際は組織の工作員でした。

 おそらくは組織のための情報収集や活動資金源の一部。ついで依頼者が有力者であれば依頼そのものを弱みとして握るなどが目的だったと思われます」


「なるほど、それならしばらくは超常災害への対応に専念できる、か……」


「犯罪組織への警戒は変わらず目を光らせておかないといけませんがね」


 やれやれと首を振る副官に苦笑いで応える総司令は未確認知性体壱号・仮称ファントムへ思考を巡らせる。どうにか超常災害対策機動部こちらへ引き込めないか、あるいはその行動を制御出来ないかと。


「………」


 しかし溜め息を吐いて首を横に振る。

 既に公安が行動し大火傷を負わされたやらかしている事を思い出したのだ。


 ファントムのその在り方ゆえなのか、オカルト系の異能力者を共なっていると接触の可能性が上がるらしく、オカルト系能力を使った捜査中の公安チームが運良くファントムと遭遇を果たした。しかし既に公安が超常災害対策機動部こちらとの情報共有をしていたことが仇となったか、遭遇した公安の捜査チームの人員が功を焦ったか、交渉事に不向きな人員しかいなかったのか。

 ファントムに対して意味を成さない優位性を示すために高圧的な余りに稚拙な交渉を行った結果、機嫌を大きく損ねて去られた挙げ句、その後に公安内部の人間を標的とした弾痕連続殺人超常不可能犯罪が発生した。


 不幸中の幸いだったのは被害者の高官を始めとした4名が売国奴と言っても過言とはならない汚職に、犯罪組織や他国への内通といった犯罪行為に手を染めていたことで、しばしの混乱を引き換えに公安内部の自浄作用が高まる結果になったことか。


 以来そのせいかファントムに警戒されたようで、こちらとの接触さえも嫌悪してか交渉機会が断たれている。

 現場で運良く隊員が遭遇できたとしても、良くて実もない会話だけしてさっさと立ち去り、悪ければもう用事は済んだとばかりに無言で去ってしまう有り様だ。


「ままならないな」


 天井そらを見上げて諸々の零したい愚痴を飲み込んで独り言ち、また溜め息をひとつ。

 最近溜め息を吐くことが多くなっていることに「幸せが逃げて行くな」と内心で自嘲し、軽く頭を振って思考を切り替えると副官に次の案件へと話を進めさせた。






………




………………




………………………







「……つまり、テッドのおかげでしばらくの間は暗黒旅団や蛇帝軍、デーボンあくのひみつけっしゃの三つは大人しくなりそうなんだ」


『あくまで裏社会の表よりの浅いところで動いてた末端はな。

 裏社会の深いところで本体がうごめいてることに変わりはねぇよ。

 ほっときゃ反動よろしく、しばらくの間の後になんかでかいことしでかすんじゃねえの?』


 午後9時過ぎ、とあるマンションの一室。

 3LDKのリビングにてソファーに座り缶ビールを両手で持ってちびちび飲みつつ、栗毛色の髪を下ろして部屋着でくつろぐ如月 菜々華とローテーブルを挟んで差し向かいに宙に浮いて足を組んで座るようなポーズをしている薄く黒い靄を纏った黒い影の姿があった。


 約束通りに菜々華の住まいへ訪れた黒い影との会話の内容はお互いの近況から逸れて仕事関係、情報交換へと流れていた。


「むぅう、ならこっちから攻め込まないとまずいことになりそうな感じ?」


『さぁなあ。

 仮にまずいことになっても、責任取るのは予想予測予防対策阻止出来なかった組織人のお偉いさん方だ。

 個人活動主体の無所属フリーランスが勝手に責任感じて命の危険を冒す動くことじゃねえだろうよ。

 大体、他の犯罪組織は変わらず動くだろうし、最近じゃぁ『BIORON』なんてのも出だしたしな』


 BIORON。

 自然発生したモノなのか、何者かの手によって造り出された人造であるモノなのかは一切不明の怪生物。

 わかっていることはすべからく人の姿から懸け離れた人外異形の化け物然とした怪物集団であり、人間に(姿と記憶含めて)擬態する能力を有し、それをもって密かに殺害した人物に成り代わり社会に溶け込み、目的不確かながら白昼堂々衆人環視の中で要人暗殺からイベント会場への襲撃で千人余りの死者行方不明者を出した大虐殺と破壊活動大規模テロを行うなど、通常の犯罪組織ならばなんらかの営利目的が透けて見えるのに対して、そういった物が見えない人類抹殺と破壊活動行為自体が主目的とした社会秩序と正義を冒涜し嘲笑う危険な存在たちである。

 その人間への高い敵対性と擬態能力危険性(の矛先を向けられる身の危険を感じ、保身に走った政府要人達の尽力)もあって政府が限定的ながらBIORON専用の超法規刑法を早急に成立させるに至ったほど。

 しかし無用な混乱を市民に与えることとなるために擬態能力による活動その存在は秘され、公ではただの怪人の一種超常災害の一つとして扱われている。


 幸いなのは怪物集団と称したように、組織だった動きを見せてもその存在が現状日本の一地方都市でのみでしか確認されていない非常に小さい犯罪組織であり、警視庁で悪魔や怪人、異能力者による超常犯罪対策用に試験開発されていた秘密機動捜査官ロボット刑事に超法規刑法の執行権限を与えることによって社会へ秘密裏ながら対処撲滅が少しずつ進んでいることか。


「じゃあ無所属組わたしたちは今以上に連携を強めて、情報交換をできるだけして相互互助に努めることしかできることはない、か……」


『平常運転ごくろーさん。

 ま、仲の悪いグループとは上手く行ってないのはお約束だろうが、精々がんばれや』


 気の抜けた無責任な態度の黒い影に「他人ひとごとみたいに言わないでよテッド!」と菜々華が言えば『他人ごとですがなにか?』と澄ました声で返す黒い影。

 そこからは酔いが回り出して絡む菜々華を黒い影が冗談交じりにあしらうというやり取りがさらに夜が更けて菜々華が寝落ちするまでつづいたのだった。






 -つづかない?-


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The Un-Dead ~幽霊っぽいヒーロー? やってます~ 真進ホッパー @raising193

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