運命の出会いは本当に運命だったか

『エディプスの恋人』筒井康隆(新潮文庫)  


 有り得ないと思わせる出来事が読み手をグイと引き寄せる。ちょうど波にさらわれ沖へと連れ去られるようだ。こんなオープニングで始まる本書は「七瀬三部作」の最終章で特殊能力を持つ七瀬に恋人が現れるという話である。


 ただし、個々の読解力によってはその引いた波が再び海岸線へと押し戻してしまう。ずばり私はというとこのタイプだ。難解とも思える言い回しにレベルの低い頭脳の回転が制止に近い状態になって文字を追うだけという情けない事態に陥ってしまう。


「彼」「彼女」「意思」そんなたびたび登場する言葉も要因の一つであろう。仄々とした恋愛話で終始はしない。


 少年の頭上に迫った野球ボールが突然粉々に割れた。それを目の当たりにした周囲の者たちは恐怖におののく。私立手部高校の教務課事務員として働き始めた七瀬はその高校の二年である少年、香川智広の存在に勤め始めてすぐに気付いた。興味を惹かれると同時にある種の恐怖も感じた。


 しかし、彼への思いは日を追うごとに高まっていく。そんな彼も年上の七瀬と同様に恋焦がれていき、二人はやがて人目を避けるように密会を続ける。ある夜、二人の前に数人のヤクザが立ちはだかった。大人しそうな彼は反撃もしないと考え七瀬を食い物にしようとたくらんでいたのだ。


 その後、ヤクザたちは何者かによって殺されていた。生き残ったのは行動を躊躇った一人だけ。彼や七瀬を守っているのはなんなのか。恋愛よりもむしろ興味はそこへと向いていく。だが、これを理解するのがとにかく厄介で読み終えても正直理解出来たのかも定かではない。

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