特殊能力を持ったが故の苦悩

『七瀬ふたたび』筒井康隆(新潮文庫)  


 こんな能力があったなら。きっとそう憧れた人も多いのではないか。特に幼少期になどに本書でも読めば尚のことだろう。おそらく大人であっても同様かもしれない。


 もちろん私自身もそう思ったことは確かにある。しかし…とすぐにその考えは打ち消される。便利なような反面、万が一、それが他人に知られたりしたら普通に生活するのも困難になる恐れがあるからだ。


 そもそも小説だけの話だからと考えればそれまでだろうが、本当にそうだろうかと疑問も湧く。もしかしたら能力を隠して暮らしている人もいるのではないか。すべて人間は同じではないのだから。


 年齢を重ねるにつれそれは夢物語ではなく現実として存在するだろうと思い始めるようにもなった。



 火田七瀬は生々しい夢に眼を開けた。崖崩れで列車が脱線し多くの死者が出るという夢である。一旦は夢だと安心したものの不吉な胸騒ぎは収まらず目を閉じると再び同様の光景が頭に広がる。そんなことを知ってか知らずか乗客はそれぞれのんびりと時を過ごしている。


 不意に周りの心の声が七瀬の頭に響く。体裁の良い生の声ではなく人には聞かれたくない心の声である。そんな人の心を読む能力が七瀬にはあった。そこで偶然同じ能力を持つ少年のノリオと出会う。さらにはその事故を予知した恒夫とも。結局運命だと三人は揃って列車を下りるのだった。


 特殊能力を持つ仲間に出会えた喜び。だが、おかしな場所で列車を下りたことが彼女らに不信の目が向く。三人連れならともかく、ノリオは継母と一緒なのだから無理もない。


 彼女たちはその後どんな道を歩んでいくのか見せどころは満載だ。

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