誰にも知られないはずの心の声が知らせる家族の摩擦
『家族八景』筒井康隆(新潮文庫)
タイトルからもわかるように本書は八家族を描いている。仮に似たような家庭であってもそれぞれの人間も生活スタイルも異なるのだから違って当然。ただし、本書は一つだけ共通点がある。それはそれぞれの家に一人の女性がお手伝いとして働きに出向くことである。
どんな生活を送っているのか。家庭環境は文字を追うだけでもある程度は見えて来る。ちょっと人の家を覗き見るような感覚も抱かせるだろうか。どこで働きどんな趣味を持つのか。あるいはお手伝いに何をやらせるのか。恐らくお手伝いを雇えるくらいだから貧困というわけではないだろう。
しかし、裕福だから性格も良いとは限らない。そんな揶揄も面白さに一役買っているような気がする。
十八歳になった七瀬はお手伝いとして中流家庭の尾形家で働くことになった。出迎えたのはこの家の主婦、尾形咲子だった。中年ではあるものの地味な服装のせいか歳よりも老けて見える咲子は七瀬に対して特に必要以上のことは尋ねもせずぼんやりとしていた。
人の心の声を読み取れるという特殊能力を持つ七瀬は、そっと彼女の心を覗いてみることにした。すると家の修繕や夕食の献立など漠然としたものばかりが詰め込まれていて何かから逃避するための意識にも思えた。
やがて帰宅した主人の久国や長女の叡子、長男の潤一も同様で、家族でありながらも距離は他人そのものだった。つまりは家族を演じているだけなのである。
絆どころか相手を心で罵倒し合う家族の姿に七瀬は衝撃を受け、一週間足らずでその家を後にすることになる。
本書は七瀬三部作と言われた第一部である。
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