改めて知らされるネットという文明の利器の凄さと怖さ

『野良犬の値段(上)』百田尚樹(幻冬舎文庫)  


 話ももちろんだが小説とはタイトルが大事だと痛感させられる。物語を集約しなおかつ興味を抱かせる。これが小説家の腕の見せ所と言っても言い過ぎではないはずだ。


 どんな話なのかタイトルから想像してページを開いた方が読み手としてもきっと楽しさを増すに違いない。ペットショップの犬ならともかくとして野良犬の値段である。恐らく多くの人は考えたこともないだろう。


 さてその野良犬だが、本作では犬ではなく人々のことをそう指している。いわゆるホームレスである。それを劇場型で描いているが、犯罪だけでなく物語自体も劇場型でとにかく登場人物が多く、入れ代わり立ち代わりに場面が変化する。この辺り、頭を回転させないとやや混乱したりもするが、話さえ繋がれば特に問題はない。



 ある日、定食屋の定員である佐野光一は何げなく見ていたネットに新着とある謎のサイトを見つける。アドレスをタップすると佐野が一番目の入場者でそれは「誘拐サイト」だった。さらわれたのは六人のホームレスでそのホームレスを使って実験を行うと書かれていた。


 一旦は単なる悪戯かと思いスルーしたが、佐野は最初に見つけた自分がこのサイトを紹介すればいくらかリツイートをもらえるかもしれないと考えた。その狙いは見事に的中し、連続するリツイート音に佐野は鉱脈を掘り当てたと舞い上がった。


 投稿しても鳴かず飛ばずのものなら共感するのではないだろうか。しかし、それはあくまでプロローグ。誘拐は本物なのか、文中の世間同様、読み手も知らぬ間に翻弄されられる。


 これがプロ作家の成せる技でもあるだろう。

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