美しい海の裏に潜むどす黒い過去

『真夏の方程式』東野圭吾(文春文庫)   


 どんな話なのかタイトルに興味をそそられます。日本にも美しい海はある。観光で賑わった場所も徐々に衰退していくのはこの町だけの話ではないでしょう。しかし、読んでいると一度訪れてみたくなるほどで文字だけでもその鮮やかな景色が目に浮かぶようです。


 旅館もしかりで、風情のある旅館も言い方を変えれば味わいがあるのではないでしょうか。近代的なホテルも悪いとは言いませんが、風情のある旅館は味わいも一味違うはず。ただし、この物語はそんな美しい海だけを紹介しているのではありません。


 恭平は夏休みを玻璃ヶ浦で旅館を経営する叔母のところで過ごすことになった。電車の中で出会った湯川もまた仕事で玻璃ヶ浦に向かう途中で、偶然に恭平を同じ宿に泊まることになる。その宿にはもう一人客が居た。それは元刑事で翌朝死体となって発見される。


 一見事故死に見られたが、不可解な点もあり草薙と内海の二人の刑事は死んだ元刑事と宿を経営する夫婦の過去を洗うと思わぬ事実が。


 この複雑に絡み合った人間関係が難解な方程式とも取れるでしょうか。答えが出そうで出ない。言い方を変えるならこの答えを導きだしてはいけないとも言い換えることが出来ます。


 ガリレオこと物理学者の湯川が苦悩するのも頷ける話で、読み進めるほどに真っ青な海がどんよりと曇っていく感じがします。湯川と少年の恭平とのやり取りもまた微笑ましくもあり、考えさせられる部分も多々あってつい同情したくなります。


 普通ならば楽しい夏休みで終わるはずなのにと。


 人間の縁がもたらした悲しい過去は海の中に沈めておきたかった。

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