偶然という巡り合わせが育むものとは
『クローズド・ノート』雫井修介(角川文庫)
タイトルに結びつく文具の話がスッと物語に入り込ませる。しかし、次第に万年筆を知らぬ自分がなんともなさけなく妙な寂しさに包まれていく。
今やどれだけの人が万年筆の知識を持ち合わせているのか不明だが、多少なりとも蘊蓄でも語れれば、この辺りの話は大いに楽しめたはずと、やや悔しさも沸き起こる。
住み始めた部屋に置き忘れられた一冊のノート。これが主人公を始めとして様々な人と繋がることになるのだが、実際のところ読むことにもかなりの抵抗を覚えるのではないだろうか。
大学生の堀井香恵は、クローゼットの中で前の住人の置き忘れたノートを見つける。後ろめたい気持ちと葛藤し、文字を追い始めると、平凡だった彼女の生活や心に変化が生まれ始める。
これが遺書だったりすれば一気に気分も低下するのだろうが、小学校教師の伊吹先生が書き記したノートには誰にも語れない素直な気持ちが綴られていて、時にそれが教師を志す堀井香恵を励ましてくれる。
生徒たちへの思いや、恋焦がれる男性への思い。それがまた人物像を読み手にうまく浮かび上がらせていき、いつしか主役が誰なのかもわからないほど圧倒的な存在感へと変わっていく。
会いたい。そう思うのは当然かもしれない。
違う線路を走っていた電車が同じ駅にたどり着くようなストーリーは、さすがとつい口走ってしまう上手さがあって、特に終盤は読むペースが自ずと早くなるのではないか。
他人でなくても良い。どこかに仕舞いこんだノートでもあれば、それが今後の人生に何かヒントを与えてくれるかもしれない。
探してみてはいかがだろう。
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