人から人へと伝わっていく一種の伝染病

『噂』荻原浩(新潮文庫)


 なんとなく聞いている話をつい人に伝えたくなってしまう。そのスピードは事柄によってまちまちだろうが、悪い話はなぜか伝わりが加速する。


 千里を走ると言われる古いことわざがからもわかるように、人々はそういった噂には敏感になるようだ。ただし、その効力も永遠ではない。いつしか煙のごとく消え去り、頭の中からも消去されてしまう。根も葉もないというものなら尚更である。


 時にそれを販売戦略に使い功を奏することもあるが、今回の荻原浩のミステリーがまさにそれ。


 渋谷を拠点とする女子高校生に新ブランドの香水「ミリエル」を口コミによって広めようと、コムサイトはモニターとしてスカウトした彼女らにある話を吹き込む。もちろんこれは広告でもTVCMでもタブーとされる内容で、思惑通り彼女たちはそれを人に伝え、ミリエルの香水はヒットする。


 思い返せばそんな耳から得た情報で物を買った記憶は多々あるが、百聞は一見に如かずと言ったケールも意外に多かった。いつしか尾ひれがついて異なる内容に膨らむのだろうが、販売戦略を考えればある意味成功とも言える。


 とは言え、今回の口コミは商品云々ではなく、その付随した身の毛もよだつ話がメインで、やがてそれは現実であるとばかりに足首のない少女の遺体が発見される。


 犯人だと噂されるレインマンを主人公の刑事の小暮と共に女性で年下ながら階級が上の名島のコンビが追う。女子高校生に聞き込みをする中年刑事の下りはつい頬を緩ませてしまうが、得体の知れない恐怖はまるで噂のように耳から離れない。


 これを読むときっと夜の一人歩きは出来なくなるかもしれない。

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