与えられた猶予はこの上なく辛く幸せな時間だった

『椿山課長の七日間』浅田次郎 朝日文庫


 時間を遡ったり、死者が蘇る話は映画でも小説でも珍しくはない。非現実的である故、視聴者や読者を引き込むのだろうが、浅田次郎の描く世界はその中でもトップクラスに位置すると言っても反論する者は恐らく少ないのではないか。リアルな現実の中にたっぷりとユーモアが詰まった本作などは、そういわせるに値する一冊だ。


 椿山和昭は接待の席で突然倒れた。気が付くとそこは見ず知らずの場所で、現世と来世の境目である中陰の世界だった。近頃はその名も替え、スピリッツ・アライバル・センター。通称S・A・C(サック)と呼ばれる役所で、罪を犯したものでも講習を受け、反省のボタンを押せば誰でも極楽に行けるのだが、46歳の椿山はやり残したことがあると訴え、仮の姿で現世へと舞い戻る。


 その仮の姿が真逆の美女だというのだから面白い。そして、残された時間は約三日間。通夜、葬式などで既に四日を使ってしまったからだ。意義を申し立てたのは他に二人ほどいて、一人は男の子でもう一人はやくざの組長。


 決して交わらないであろうこの三人が現世でどう繋がるのかも見物の一つで、時に笑いをそして時に涙を誘う。人物像の描写もさすが浅田と言わんばかりで、読み進めるうちにどんどんその人物が浮かび上がってくる。


 未練を言ったところでと自分ならば素直にボタンに指を掛けただろうが、それはあくまで人生を謳歌した場合の話であって、彼らのように突然命を絶ってしまったら、たとえ三日でも現世を見て回りたくなるかもしれない。


 人と人との絆や親子だからこその絆を笑い、泣きながら読まれるのはどうだろうか。

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