奇跡がもたらすひと時の幸せと苦悩
『黄泉がえり』梶尾真治(新潮文庫)
葬式も済ませ火葬も終えた人が突然帰って来たら。さすがに想像すら出来ないでしょう。夢ならば別ですが、現実には有り得ない。もちろん会いたくて溜まらない相手なら嬉しいはず。
ただ、その後をどうするのか前途は多難です。戸籍も無いわけですから。それが熊本市とその周辺地域で起こる。なぜ熊本なのかは作者梶尾の地域への愛というのが読むほどに伝わって来ます。
東京でも九州でもダメなんだろうと熊本弁のアクセントを考えつつその文字を時に心地よく追いました。
不思議な発光体が目撃された後で熊本で震度一の地震が起こった。その後、児島雅人の父親が突然帰ってくる。父親の雅継が亡くなったのは二十七年前。享年三十五歳。雅人は三十八になっている。
つまりは自分より親父の方が若いという奇妙なことが起こったのだ。帰ったのは一人だけではなく、雅人の勤め先の先代の社長。さらには社員の兄とかなりの数に上る。行政はこの事態にてんてこ舞いになる。
熊本地域だけに収まっていた話も全国的に有名な歌手。マーチンこと生田弥生が黄泉がえったことで一気にその話は全国規模になってしまう。それでも帰ってくるのはすべての人ではなく限られた人だけだ。
そして、黄泉がえった人たちにはある種の共通点が。元気のうちは、ただいまと帰れるでしょうが、突然あの世から戻った方も心中は複雑でしょう。そんな思いがうまく描かれていて、察しながらもつい口元が緩んでしまったりもします。
このまま普通に暮らしてゆけるのか。
頭に疑問を過らせながらも、人との絆をしみじみと味わっていることにも気付かされました。
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