狩るものを追い続ける男たちの執念

『ジャッカルの日』フレデリック・フォーサイス(角川文庫)   


 映画の原作となった洋書と呼ばれる小説を読んだのはいつ以来だろうかと、遠い記憶を呼び起こしてみました。


 本書を映画化した同タイトル映画を映画館で見たのも遥か昔のことで、そんな色あせかけた映像が読み進むにあたって色彩を取り戻していく気もしたでしょうか。


 フランスの大統領を暗殺すべく雇われたプロの殺し屋。暗号名はジャッカル。彼はいかにして厳重警備の敷かれた中で任務を遂行するのか。そして、彼を阻止せんと寝る間を惜しんで奮闘するベテラン刑事。


 この駆け引きが最大の見せ場であることは疑うよりのないところですが、実は翻訳家がどうそれを描き出すのかという部分も興味の対象でした。英語を日本語に替えるだけと言っても、いかに分かり易く、それでいて緊迫した雰囲気をありのままに伝えられるか。それは翻訳家の文才に掛かっている。


 読み終えてまず思ったのはその違和感のなさで、あたかも翻訳家自身の作品であるかのような文面が読者を引き込んでくれます。一般的には犯罪者を阻止する側に就きたいところですが、本書を読み進めるとその関係はさながらアニメのルパンと銭形で、どちらも応援したくなるという不思議な感覚に陥ってしまう。


 それでも本書はコミカルな部分は一切なくどちらもプロ中のプロです。そのため展開や攻防はまさに手に汗握るもので、衝撃的なクライマックスは思わずページを捲るたびに興奮の度合いが増して行きます。劇中の映像と場面とをダブらせながら読むのも良いでしょう。


 清々しくも沙に寂しい秋の風のような余韻も良かった。

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