そうあって欲しいという望みが抱く苦悩
『望み』雫井修介(角川文庫)
似たもの夫婦であってもあくまで似ているだけで全く同じではない。価値観もそうだろうし、考え方一つとっても多かれ少なかれ違いはある。この「望み」で雫井修介が突きつける選択は、まさに究極と言っていいほど読者の心を揺れ動かす。
特に子供を持つ親ならば尚のこと読み進めるほどに辛く複雑な思いに苦しむのではないだろうか。建築デザイナーの石川一登と妻の貴代美は二人の子供に恵まれ平穏な生活を送っていた。
ある日のこと、高校生の息子の規士が出て行ったきり音信不通になり、捜索願を出そうか考え始めていた時、規士の友達が遺体で発見される。
その後、規士が事件に係わっている可能性が浮上したが、行方不明者は三人で逃走中だとされるのは二人。規士は加害者で逃げているのか。そうでなければ規士はどこへ。安定した生活を望む父親に対し、犯人でも生きていて欲しいと望む母。
正直、どちらも正論と思えてしまう。それゆえに様々な葛藤があり、この石川夫婦の場合も関係にヒビが入り始める。そんな家族の絆にメスを入れた本書は、映画化もされていてお馴染みの俳優が名演で魅せてくれる。
大抵の場合、原作と異なるのが映画の定番でもあるのだが、この話においてはほぼ忠実に描かれている。そのため本を読む習慣のない人は映画をお勧めしたいところだ。
事実、雫井修介も最高級の出来で何度も泣かされたと称賛している。もし、自分の子供が連絡を絶って何日も帰って来なかったら。日常茶飯事と笑い飛ばす親もいるかもしれないが、普段と違うのであれば心配になるのが親だろう。
子供への思いを問われたような気がした。
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