4時間目のカレーパン
四時間目の始まりを告げるチャイムがなると同時に、ざわついていた教室は、無言の空間となった。
理由は、授業が終わった後の昼食の時間にある。
この学校には、食堂と売店が存在する。
バリエーション多様、弁当要らず学校なのだ。
その中でも、一番の目玉は売店で売っている数量限定のカレーパンだ。
ボクは食べたことはないが、噂によるとほっぺが落ちるほどに絶品なんだとか。
さすがに大袈裟な表現だとは思うが、それほどに美味いってことだろう。
そんな噂を聞くと、一度は食べてみたいと思ってしまう。
だが、ボクは売店でメロンパンしか買わない。
更に、購買にはチョコチップメロンパンもある。
少しの変化があれば飽きないのだ。
だから、ボクはカレーパンは買うことは無いだろう。
入学してから数ヶ月、毎日メロンパンだけを買って食べてきたから、間違いない。
だが、別に食べたくないって訳では無い。
売店に行く頃には売り切れてるから、仕方が無いだけだ。
つまり、四時間目の時間が伸びようものなら、カレーパンは必ず売り切れることになる。
生徒達は、それほどカレーパンが好きらしい。
ボクは一人静かに過ごせるので、嬉しい限りだが。
教室の扉が開き、一人の教師が入ってくる。
宮崎 咲希先生だ。
うちのクラスの担任を受け持ち、担当教科は国語。
年齢は二十代前半。
身長は百五十後半。
十代と言ってもバレない童顔で、整った顔だが、美しいではなく可愛いの方があっている。
セミロングぐらいはある、茶髪の下ろした髪を振り払い大人っぽい仕草をするが、見た目は子供なので意味は無い。
「それじゃ、号令〜」
緩く号令を促すと、今度は"ボク"が声を出す。
「起立、気をつけ、礼」
宮崎先生が「お願いします」と言うと、それに続きクラスメイトは挨拶を返す。
「着席」
椅子を引く音が教室に響き、全員が座ったのを確認すると、宮崎先生は背中を向け、黒板に板書を始めた。
ボクはノートを開き、黒板に書いてあることをそのまま写す。
三時間目みたいに、窓の外を眺めるのではなく目線は黒板へと集中している。
理由はもちろんある。
それは、宮崎先生だ。
窓の外を眺めでもしたら、時速120km(自慢げに話していた)のチョークが頭を撃ち抜くことになる。
この歳で、髪の毛とお別れなんてしたくない。
心の中で叫び、意識を再び授業へと向けた。
——そして、迎えた昼休み。
授業が終わると同時に、大半の生徒は既に教室を後にして購買へとも買って行く。
ボクも人混みに紛れ、メロンパンを買いに行こうと椅子から立つ。
すると、同じタイミングで隣の席も同時に立ち、こちらをじっと見てきた。
「どこに行くの?もしかしてまた忘れた?」
突然言われ、なんのことかと自分の中で心当たりを探してみる。
そうだった……今日か。
また、忘れていた。
彼女が伝えたいことは、今日が委員会の仕事がある日ということだろう。
委員長会の二人は、時々教師から頼み事をされる。
それを行い、生徒の模範とならないといけないらしい。
しかし、元々ボクは委員長会に入りたくて入ったわけではない。
いわゆる、ジャン負けで入ったのだ。
だから、模範になる必要なんてないと思っているが、内心に響くのは嫌なのでいつも渋々受けていた。
「ごめん、忘れてた。今日の集合場所ってどこだっけ?」
彼女は呆れた顔をするが、いつもの事なので、ボクは特に気にもせず返答を待つ。
「また忘れたの?なんでいつも……」
これは、愚痴を言う流れだ。
毎回そうだから分かる。
「ほら、時間が迫ってくるから早く行かないと」
話を逸らすと、ボクへの愚痴は止まる。
入学以降彼女と一緒にいる時間は長かったので、扱い方は分かっている。
彼女は、「図書室で待ってる」と言い残し教室を去っていった。
その後ろ姿は、どこか懐かしい思い出をフラッシュバックさせる。
やっぱりあの時のこと怒ってるのか……。
すぐに彼女の後を追いかけ、ボクも教室を後にした。
ヒロイン席の元カノ女 周 雨音 @Amane_Amane
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