ヒロイン席の元カノ女
周 雨音
3時間目の消しゴム
窓から見える町や、いつも眺めている空。
教室へと入り込む、気持ちよく涼しい風。
教師が板書する音。
その全てが、いつも通りの日常となっている。
真面目に授業を受けずに、窓の外を眺めていたボクは、大きな欠伸をしてしまう。
視線を、教卓の上にある時計へと移す。
——残り十五分。
そこで、ペンを手に取りノートを開く。
幸い、教師が板書した箇所は少ない。
十五分もあれば、余裕で書き写せる。
「……っと」
ん?今なにか聞こえたか?
いや、今は授業中。
そんなことはないはずだ。
すると、肩に違和感が走る。
まるで、肩になにかが触れているような感覚だ。
ふと横を見ると、授業中にも関わらず、お隣さんと目が合った。
「……さっきから呼んでるんですけど?」
彼女は頬杖をつき、顔はムッとしている。
これは、かなりおこだ。
こんな時の対処法は、知っている。
それは、謝ることだ。
「ごめんぼんやりとしてた。それで、用件は?」
ぼんやりなんて、別にしてなかったが。
ここは、穏便に済ませたいので嘘をつく。
淡々と返すボクに対して、彼女は姿勢を崩さない。
「消しゴムを貸してくれない?」
頼み事をしながら、体はなんだかソワソワしている。
トイレでも我慢しているのだろうか?
まぁ、そんな訳ない。
理由はもちろんわかっている。
ボクのことが嫌いだからだ。
ただ、それだけの簡単な理由。
それが、頼み事をするだけなのに、こんな態度になっていた。
嫌なら別のヤツに借りろよ……。
いや、嫌いなヤツだからこそだろうか。
現在は授業中。
下手に他のヤツには、迷惑を掛けられない。
だからって、ボクはいいのかよ。
だが、他のやつに頼んで、ボクが責められるのは釈然としない。
……ここは、仕方ない。
面倒なことになる前に、さっさと渡してやるか。
「ほらよ」
彼女は素っ気ない態度で消しゴムを受け取り、何も言わずに視線をノートへと移した。
人に助けられた時は、感謝を伝えないといけないだろ?
ボクは、消しゴムを予備用と合わせて二つ持って来ているから、別に気にする事はないが、お礼がないと無性に腹が立つ。
だが、今はノートに授業内容を書き写すことが先だ。
てか、今まで消しゴムなしで授業受けてたのか。
現在は三時間目。
ボクなら、とっくに消しゴムを使っている。
凄いな……
内心で関心しつつ、ノートへと意識を集中する。
その後、誰からも話しかけられることはなく、板書の音だけが響く教室となった。
結局、時間は余ってしまった。
余ったと言っても、そう多くはない。
せいぜい三分程度だ。
この短い時間で何をしようかと、考えながら周りを見ているとふと目が合った。
相手はもちろん決まっている。
「何見てるの?」
お隣さんだ。
目が合っただけでこれだよ。
とりあえず、事実を伝える。
「別に見てたんじゃなく、たまたま目が合っただけ」
「まぁ、そういうことにしておく」
一方的に疑惑を持たれ、勝手に解釈し目を逸らす。
どうやら、ボクは下に見られているらしい。
だが、なんだか許された。
別にやましいことはやってないのだし、当然なのだが。
「そういえば」
ボク以外には聞こえないような声で、独り言を呟くとこちらに目線を合わせる。
「さっきは……」
だが、彼女の言葉をかき消すように、授業終了を告げるチャイムが、教室内に鳴り響く。
「……やっぱり、なんでもない」
なんだ?
まぁ、別に気にすることじゃないか。
「起立、気をつけ、礼!」
委員長の声に合わせ一礼し、授業の終わりを迎える。
まぁ、委員長は隣の席のこいつなんですがね。
そうして、休み時間になった。
いつも通り、ボクは読書を始める。
お隣さんは、早々と席を離れていった。
まったく、なんだったんだよ……。
騒がしくなった教室をBGMに、読書を続けていたがやがて本にのみ意識が集中し、教室の声なんて聞こえなくなった。
途中の挿絵で、気まずいシーンがあった時は、クラスメイトにバレないように読んだのは、また別の話である。
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