利恵 四

 そして、暦は9月になった。今月は美加の誕生日だ。

 私は早速に、お婆ちゃんに美加の誕生パーティーのを持ちかけた。もちろん、言葉にはの注意を払いながら。


「だからこそ、特に今年は盛大にやろ、じゃなくて、やりましょ。去年はパパとママの結婚や私の受験で、かん、簡素だったじゃない。だから、今年は余計でも…」

「そうねえ、言われてみれば」

「親戚の人とか、いっぱい呼んで、招待してえ。姉さんもきれいなドレス着てぇ。ねえ、いいと思わない」

「へーえ、利恵がそんなことを言い出すとはねえ。少し前までは考えられないことだわね」

「もう、その話は止めて。あれは暑さで、特に今年の暑さは異常じゃない。そのせいで、つい…」

「暑いたって、利恵はほとんどエアコンの効いたところにいたんじゃなかった」

「だから、思うように動けなかったでしょ。そのストレスで。あのね、お婆ちゃん。今はそんなことより、美加、姉さんのバースデーパーティーの話をしてるの。お婆ちゃんこそ、暑さで、ちょっと」

「わかってるわよ。いえね、利恵が元の素直な子になってくれたことが嬉しくて、ちょっと言ってみただけよ」


 何でもいいから、話を先に。


「じゃ、そうしましょうか」

「わあい、良かった。それなら、ドレスはいつ買いに行く」

「それは、美加ちゃんに聞いて見なければ、あっ、さては、ついでに利恵も買ってもらおうとか言う魂胆かな」

「違うわよ。私はいいわよ。そんなんじゃなくて。主役は姉さんなんだから。もう、お婆ちゃんたら」

「ごめんごめん。今回は利恵の言うことが尤もだものね」


 ああ、やっと、わかってくれたようだ。そして、美加も喜んでくれた。

 本当に、



 数日後、美加が私の部屋にやって来た。


「利恵ちゃん。私の誕生日の事、色々考えてくれて嬉しいんだけど、もう一つ忘れてない?」

「えっ、何を」


 また、何かやれと言うのだろうか。


「ほら、ヒイお婆ちゃんの事よ」

「ああ、ヒバゴン。大丈夫よ、ちゃんと招待するから」

「ヒバゴン?ヒバゴンて」

「ヒイバアだから、ヒバゴンて呼んでるの。陰でね。実はあのヒバゴン、姉さんたちの前では大人しいけど、本当は口悪いの。それにケチ。だから、ヒイ婆ちゃん何て言う気にもならなくて、ママも私もヒバゴンて呼んでるの。昔、どこかの田舎で変な猿みたいのが目撃されて、それがヒバゴンとか呼ばれてたとか。でも、真相は年老いたババアじゃないかと言う話。で、ヒバゴンがどうしたの」

「その、ヒバゴンの事なんだけど、あら、いやだ、私にも移っちゃった」

「いいわよ、それで」

「ほら、15日って敬老の日でしょ」


 そんなの忘れてたと言うか、端から頭にない。


「たから、何か、お祝いを。私だけ誕生日のお祝いって言うのも」

「じゃ、また、パーティ?それじゃ真理子婆ちゃんが大変じゃない」

「だから、ヒバゴンの方には何かプレゼントを」

「プレゼント」

「これ」


 と言って、美加はスマホを見せた。

 

----えっ、なに、こんなに高いの…。


 それは、杖だった。それも4千円以上する。

 確かに、その杖はLEDライト、補助手すり、さらに折りたたみ式となってるけど、冗談じゃない。あんな死に損ないのババアにこんな高価な杖などいるものか。百均ので十分だ。


 その時、私はひらめいた!!


「それで、これをヒバゴンのとこまで持って行く訳。それとも送り」

「それは持って行った方がいいけど、今年は送らせてもらおうかなと」

「そうよね。姉さん、文化祭で忙しいもの。そうだ。じゃ、私が持って行く。その時に、誕生パーティーのことも伝えておくわ」

「ほんと。そうしてもらえると助かるぅ」


 と言って、3千円出して来た。


「残りは、好きなお菓子でも買ってあげて。年取ったら、甘いものが食べたいとか聞いたから」


 私は喜んでその金を受け取った。そして、お婆ちゃんからも交通費千円もらった。その足で百均に行き杖を買い、安くて見栄えの良さそうな洋菓子とともに、ヒバゴンのところへ行き、この高い杖は美加から、金のない私はこんな菓子しか買えないと言って置いた。その話を信じたヒバゴンも千円くれた。

 お陰で私の手元には、4千円ちょっと残った。シメシメ。

 さあ、後は、9月30日を待つばかり…。












 
































 











 


























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