利恵 三

 その夜、やっぱり、パパの前に引き出された。


「耕平さん、本当にごめんなさいね。全くどうしようもないで…」

「私もあれこれ言ったけど、やはり、ここはあなたから、びしっと言ってやって」


 パパは黙ったまま。パパ、いえ、このおじさん、全く私に関心ないんだから。

 何よ、選挙に出るって言うから、後援会長の息子と付き合ってあげてるのに、ママとお婆ちゃん、二人して私の肩を手で押す。


 ええっ!これってしろってこと…。

 結局、床に膝を突かされ「ごめんなさい」を言わされた。


「これからは気を付けるように」


 それだけ言うと、このパパオジサンは、スマホに目をやった。

 

「良かったわね。パパがやさしくて」

「そうよ。一時いちじはどうなることかと思ったもの」

 

 何がやさしいもんか。あんなの、私に関心がないってことくらいわからないとは。二人とも、一体何十年生きてるんだか。ああ、情けな…。

 それより、この屈辱、決して忘れない…。



利恵りえ!夏休みだからって、いつまで寝てるの」


 翌朝、珍しく、ママに起こされたと言っても、気分悪いまま眠れず、それでも寝たらしい。で、気分悪いまま起こされ、今も気分悪い。


「早く、朝ごはん食べなさい」

「食べたくない」

「まったまた、つまらない意地張って」

「そんなんじゃない。食べたくないものは食べたくない」

「それより、友達連れて来るなら、どうしてそう言わないの。言えば、ちゃんとしてあげたのに」

----どうだか…。

「今から、昨日の友達にラインしなさい」

「は…」

「昨日は予約が立て込んでて、あんなことになったけど、今度、日を改めて招待するからって」

「……?」

「早く!」


 何かよくわからないまま、ママに言われた通りラインした。そして、後日の平日、あの日の子たちをレストランに招待した。

 それがすごかった。料理はスペシャルメニュー。さらにママの満面の笑みプラスお土産付き。


「素敵なママねえ…」

「美人よねえ」

「ホント、きれい…」

「羨まし…」

「アンリエも、ママに似ればよかったのに…」


----黙れ!うっせぇ!!


 まったく、大人のやることはよくわからない。こんなことなら、あんなに私に文句言わなくったって。何か、モヤモヤする…。



 だけど、今回の事で、私が本当に頭に来ているのは、他でもない。美加だ。

 今も何も言わないけど、心の中では私のをいい気味と笑っているに違いない。

 あの時の、美加はどこへ行った。 あれから、半年くらいしか経ってないのに…。


 今年の春、私の高校入学に、からお祝い金をもらい、喜んでいた時の事だった。


「利恵。そのお金持って来なさい。利恵が持ってたらすぐに使ってしまうから。私が預かっといてあげる」


 と、お婆ちゃんから、金を巻き上げられそうになった。


「お婆ちゃん、いいじゃないの。利恵ちゃんだって買いたいものあるでしょうに」


 何と、美加がフォローしてくれたのだ。お陰で、金は無事手元に残った。


----おっ、美加。中々やってくれるじゃない。


 あの時は、嬉しかった。

 それなのに、今回は一言もないどころか、何か、私を無視している。日頃、お婆ちゃんを独占してるんだから、こんな時こそ、取り成してくれても、バチは当たらないと思うけど。


 その時、私は思った。ここは、ひとつ、落ち着かなくては…。 

 そして、私は考えた。これまでにないくらい考えた。そして、思い付いた!!

 それは…。美加と仲良くすること。これしかない。

 

「ねえ、リク知らない」

「知らないけど、どうしたの」

「リクがいないのっ」

「ええっ」


 と、私も探すのを手伝った。それでも、リクは見つからなかった…。

 落ち込む美加を慰め、元気づける、私。何て、健気けなげでかわいい利恵ちゃんなんでしょ。もう、どうしましょ…。

 

 美加の誕生日まで、後、ひと月ちょっと…。

 もっともっと、仲良くしなくちゃ。
























































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