目覚めて…

 それは、いつもの朝だった。

 起きて、歯を磨いて、顔洗って、朝ごはん食べてと、毎朝のルーティンでしかない。

 昨日、ちょっと縁起でもない夢を見たけど、気にすることはない。いや、これって、逆にいいことの前兆かもしれないと、朝ご飯を食べ、桃子は鏡の中の自分に微笑んだ。

 ああ、これぞ、いつもの自分ではないか。

 足取りも軽く、バスに乗った。学校もいつもと変わりない。教室もいつもの様に、ざわついている。 


----さあ、美加ちゃんに、誕生日プレゼント渡さなきゃ。そして、私も早稲田受験すること伝えたら、喜んでくれる筈…。ついでに昨日の誕生日の様子も聞いてと。


 と、隣のクラスを覗いたが、美加の姿はなく、机の上に花が飾られていた。


----えっ、美加ちゃん、今日、休み。それとも遅刻…。珍しいこともあるんだ。昨日、はしゃぎ過ぎたとか。


 その時、なぜか、美加のクラスの生徒たちの視線を浴びてしまう。


----何よ。ああ、美加ちゃん、トイレに行ったようね。


 それからの桃子は、校舎の中を探し回った。


----美加ちゃん、早く出て来てよ。早く顔見せてよ。隠れてないで。


 そうなのだ。今にも「桃ちゃーん」と言って、桃子の前に姿を現してくれそうな気配はあるのだが、中々その姿を見せてはくれない美加だった。

 

----そろそろ授業が始まる。仕方ない、次の休み時間まで待つとしますか…。

「住田」


 その声は、川本だった。


「あの、何か、わかりましたか」

「いいや。それより、お前が学校に来ているか心配になって見に来たんだ」

「やだ、私は大丈夫ですよ」

「そうみたいだな。安心したよ。ああ、もうすぐ授業が始まるな。じゃ、また、後で」

「はい」


 去って行く川本の後ろ姿に、なぜか泣きそうになった。


----ダメ。こんなとこで泣いたりしては。


 桃子も教室へ向かった。




 昼休みにも、美加の姿を探してみたが、なぜか会えなかった。


----美加ちゃん、どこにいるの…。私も早稲田受験するから。美加ちゃんと一緒に東京へ行くから。その事、早く言いたいのに…。


 どうやら、美加はまだまだ、桃子を焦らせるつもりらしい。それでも、部活に行けば、さすがに姿を現すだろう。




「そう言う事で。今夜の通夜に行ける人は行って欲しいです。家がわからない人はそこのローソンの前で待ってます。時間は…」


 川本が何か喋っていた。

 結局、美加には会えなかった。そして、夜。父の運転する車で安藤家へ向かった。


 そこに、美加はいた。自分の家だから、美加がいて当然である。だが、彼女は眠っていた。


----美加ちゃん、早く起きてよ。目を覚ましてよ。せっかく、私が来たのだから、何か言いなさいよ。ほら、美加ちゃんが目を覚まさないものだから、みんな泣いてるじゃないの。だから、私も泣きたくなって…。あぁ、ごめんね。そんなこと言いに来たんじゃないのにねぇ。先ずは、お誕生日おめでとう。プレゼント、持って来たよ。まあ、よくあるスカーフだけど、私も同じのを。お揃いでいいでしょ。それと、私も早稲田受験する。そして、東京へ行く。二人で同じ部屋で暮らそっ…。きっと、楽しいよ。文化祭が終わったら、私、勉強頑張るから。死に物狂いで勉強するから。だから、お願い、早く、目を覚まして、美加ちゃん。



 


 



 
























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